最終話 星々に手を伸ばして
「学院長、お話いいですか?」
フレイルは学院長室の前に立ってノックを2度した。
「入っていい。だがいいのか? 神を殺した貴様を私は生徒とは認めない。逆賊として殺しても構わんのだぞ」
「そう思うのなら勝手にどうぞ?
でも、あなただって人のことを言える立場かしら。だって自分で言ってたじゃない。
『三つの証』を手に入れることは神の天啓の歴代授かってきた者たちが死や無念を感じることだと」
「……ちっ」
「失礼するわ」
ドアを蹴り破り、中へと入る。
「確認させてもらうけどーーーあなたが、私の前任者なんでしょ? エーニアス学院長!」
「その通りだ、合っている。だが、いいのか?」
「なにが?」
「貴様は満身創痍だ。異界の者達、ツキヨ、そして神。
それらと戦って……ほら、回復魔法すら効かぬほどの呪いを受けている。直に歩けなくなるぞ」
「だからなんだって感じですよ、私はそんなことはどうだっていい」
「ーーーなに?」
「あんたに、一泡吹かせられればね!」
手に持つのはスイッチだった。
録音装置と拡声器のようなもの。
「失脚させるだと?」
学院長が笑った。
「面白い。だが誰が信じる? 私は学院長。貴様は神殺しの逆賊だ」
「だから準備してきたのよ」
スイッチのボリュームを上げるためのつまみを回す。
「全校生徒だけじゃない、魔法界全ての街にライブ中継できるようにね!」
そうそう! 参考にしたのは人間界でのホテルで見たテレビ中継よ。
まあ、この世界では広域放送するならスピーカーとラジオしかないからそれでやるしかないけど
そう言ってフレイルはニヤリと笑った。
「貴様ーーーそんなことをしてタダで済むと」
「当然思ってないわ」
「なに?」
「だからーーー禁忌を使ってでもあんたを縛るのよ」
魔法を使えなくなりなさい
「鎖の業『フレイルカルマ』」
そう呪いのような言葉と共にフレイルの右腕が消える。
同時に、学院長から魔力が消えた。
「貴様ーーー!」
席をたち、狂気の形相でフレイルの首を絞めにかかる。
けれど、膂力すらまともに入らない様子だった。
力なく椅子に座る。
「ーーーな、んで」
なくなった右腕の、肩口からしなだれ垂れる血を抑えながらフレイルは立ち上がった。
「あんたが筋力増強魔法を常に使っていたのは分かってたわーーーさて、これで話ができるわね。あんたに、これまでの神の天啓で死んでいった者たちへの謝罪を要求するわ。さっさとそこに這いつくばって地に頭を擦り付けて謝りなさい」
そして、なにがあってなんでそんなに歪んだことができたのかを話しなさい
そう、フレイルは告げた。
学院長は言う。
「私はーーーこの魔法界を守りたかった。
けれど結局、神の天啓がもたらしたのは次世代を選ぶための候補者探しとそれに見合う、絶大な力を渡すのみ。
私は絶望した。
魔法大戦時代は命が軽い。虫のように潰されて人が死ぬ。
なのに消えていく命すらまともに私は救えなかった。
神の天啓とは、万能じゃなかった。
世界を守るために、自分の愛したものすらも生贄にしたのに。全てが無駄だった。だからーーー私はぼっきりと心を折られたんだよ。
死のうと何度もした。
けれど、与えられた役割が私を逃さない。
絶望し、次世代にも私の怒りを知ってもらおうと考えた。ーーーそれがこの結果だ。
笑えるだろう」
「あんたの過去は分かった。謝罪は?」
「謝罪はしない。連行するなりなんなりするがいい」
「なら5発くらい殴らせろ!」
フレイルは学院長の胸ぐらを掴んで、硬い床に引き倒した。
そして一発一発丁寧に顔を殴りつける。
「お前が! お前のせいで! ハルトも!
ツキヨも! 死んだんだ、責任取れよ!!」
五発目を喰らわせた時、学院長は目を閉じていた。
血を吐いて、涙が伝っている。
無言。
何も言わない。
それが無性に腹がたった。
ふざけんな、自分の過去、自分がうまくできなかったからと言って人に押し付けてんじゃないよ
もう一発喰らわせてやろうと思って、拳を握った時ーーー
「すまなかった」
そう言われた。
「なんだよ、それ……なんなんだよ」
力なく振り翳した拳を下ろし、学院長の胸に顔をつけてフレイルは泣いた。
ーーーそれからの顛末
学院長は監獄行きとなる。
フレイルは足が使えなくなり、車椅子生活となる。右腕もない。
けれど、母親の元に戻って将来は魔法塾の先生を志すことにした。
こうして、運命に縛られた少女の物語は終わりを迎えた。
この先も世界は暗黒に満ちているだろう。
けれどたった1人の勇気によって道は開かれるかもしれない。
フレイルは星が輝く夜空に左手を伸ばして呟いた。
「私は、ここにいる」
何年後かのある塾の教室内で語り合う2人の影があった。
「先生?」
「なに? 点数もうちょい上げろって? 無理だよ〜 ちゃんと自分で勉強しなさい」
「違うよ」
「じゃあなによ」
「先生が前に言ってた神の天啓をクリアしたって話 本当なの?」
「本当だよ 色んなものを失って、色んなものに絶望して」
「そうだったんだ」
「でもね、繋がりを手に入れたの。そしたら勇気っていう光が私の胸のうちに光り輝いた
そこからはこうやってーーー塾の講師になれるくらいには立ち直れたのよ」
「そっか〜 先生はすごいね」
「まーねー あんたもちゃんと勉強して、たくさんいろんなことを経験しなさい。それが、いつか花開くように」
「うん、ありがとう フレイル先生」
そう、2人して笑った。




