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離島の求人に多分エルフが来てる  作者: 白崎イチイ


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二十七話 魔法が来た

「初めまして、フィルネリア・レグナシエルと申します。」


 畳敷の上に正座で座り直して挨拶する彼女。


「うん、よろしく。」


 それはこのだらけ切った男と比べればあまりにも礼儀正しい姿であった。

 人から挨拶を受ける態度とは到底思えないような振る舞いで一言返事を返す。


「さっきも言ったけど、うちの従業員だからよろしく頼むぞ。」


「ボクに出来ることは大してないけど気にはかけておくよ。」


 そう言って、フィルネリアさんの横へと視線を移した。


「それで、そこの小さい子のことも紹介してくれるんだよね?」


 小さい子と称するにはいささか小さすぎるというか、そもそも飛んでいるのだがそんな些細なことは気にもとめずに興味深そうに観察している。


「やっぱり見えるんだな。」


「やっぱり?」


 見える人間と見えない人間の違いは依然としてはっきりとしていない。

 しかしなんとなく、葵には見えるのではないかという気がしていた。 


「拓斗も見えてたからな。ただうちの両親には見えてなかった。」


「ふーん、なるほどね。」


 腕を組みながらそう呟いて繁々と眺めている葵を、さらに横から見ていた影がある。


「なにか詳しかったりするのですか?」


 あまりにも平然と受け入れるものだからむしろ葵の方を不思議そうに見ていた。

 尋ねられた葵はキョトンとした顔で答える。


「いや、全然。君の方がよっぽど詳しいと思うよ。」


 別に驚かそうとしていたわけではないが何の反応もないとそれはそれで面白くない。

 このまま眺めているだけでは分からないと考えたのかフィルネリアさんへ向き直る。


「この子の紹介をしてもらってもいいかな。」


「えっと...」


 どうすべきかと視線で訴えるフィルネリアさんは恐らくどこまで話すべきかを迷っているのだろう。

 思えば俺自身、この精霊については魔法が使えて食い意地が張っているということぐらいしか知らない。

 元より葵に隠す気はなかったことだし、ここは一つ良い機会だと思って精霊について知っておこう。


「俺も改めて知っておきたいから頼みたいな。」


「...わかりました。」


 ちょいちょいと精霊に向けて手招きをすると、何もわかっていない顔でフィルネリアさんの手のひらに乗る。 

 言葉を理解しているのは間違いないと思うが、それはそれとして人の話は全く聞いていないということもここ何日かで知ったことだ。


「精霊様と私は召喚の契約を結んでいます。そのため、願いに応じて魔法を使ってくれています。」


「そうでしたね。」


 ここまでは初めに彼女と会った時にも説明されたことであるため驚く要素はない。

 相槌を打って話を進めようとするとすぐさま待ったがかかった。


「うん?いや、待ってほしいな。魔法のことは聞いてないんだけど?...夏樹クン?」

 

 何故かジトっとした目で睨み付けられている。

 ...嘘です。そういえば葵には言い忘れていました。

 

「そういう大事なことは先に言ってくれないと。」


「いやいや、どのみち人前じゃ使えないんだから大して変わらないって。」


 詰め寄る葵を仰け反りながらどうどうといなして押し返す。

 いくら精霊とフィルネリアさんに魔法が使えても、使わなければ無いのと変わらないのである。

 しかし、精霊には無反応だった割に魔法と聞いた途端に打って変わって乗り気だ。


「てか魔法とか興味あんのかよ。」

 

「なんだって?流石のボクでも魔法と聞いたら興奮するさ!」


 わざとらしく耳に手を当てて大袈裟にポーズをとっている。


「そういうの信じてないかと思ってたんだけど。」


 魔法のような非科学的なものを信じているようには思えなかったが、その言葉にやれやれと肩をすくめる。

 勢いよく手を差し出して魔法でも放ちそうな雰囲気で続ける。


「信じるというか、ボクには使えないからね。あってもなくても変わらないというやつだよ。」


「だけど、使える人...精霊がいるのなら話は別さ。それで、何の魔法が使えるんだい!?」


 ぐいっとフィルネリアさんの手のひらに顔を近づけてはまた精霊に押し返されている。

 苦笑してそれを見ていた彼女だが他人事ではない。

 精霊に振られるや否やそのまま彼女に問い詰める。


「どんな魔法が使えるのかな?」


「そ、そうですね、水野さんにもお見せしたものだと転移魔法が使え...」


「転移だって!?」


 いい加減喧しいその反応も転移魔法という言葉の響きを思えば仕方のないことではある。

 ゲームで言えば転移魔法なんて最後の方に手にするものなのに、何もかも飛ばして最初からそこに辿り着くのだから。

 ...いや、俺達は最初から転移魔法を知ったとしても彼女と精霊がそうであるとは限らないか。


「それはそれは、思っていた以上に素晴らしいね。」


「体験しなくていいのか?」


 あれほど興奮していたのにということと、言葉だけで魔法の存在を信じるのかという疑問が湧いたが、憐れむような目を向けて答える。

 

「よくあるだろう?ワープしたとしてその自分は元の自分と同じなのかってヤツ。まあ君達が問題ないなら大丈夫なんだろうけど、行きたい場所もないしね。」


 有名なパラドックスの話だ。

 転移魔法がどういうメカニズムで働いているのか知らないが、何も考えずに勢いで魔法を受けていた。


「怖いこと言わないでくれよ。大丈夫ですよね?」


「大丈夫だと思いますよ?...多分。」


 びっしょりと頸に湿り気を感じながら尋ねると、顎に手を当てておずおずと答えられる。

 彼女自身、魔法についてはよく知らないままに使っていたらしい。

 思わず顔が引き攣る。


「しかし確かにこれは、おいそれと人に言うわけにはいかないな。」


 そんな中でも相変わらず他人事で呑気に考察を深める葵にむしろ落ち着きを感じるようになった。


「言ったところで信じてもらえないだろうけどな。精霊が見えるならともかくとして。...それでも自分を疑うところから始めるだろうけど。」


 精霊が見えるからと言って簡単に信じた葵の方が珍しい。

 普通なら何を馬鹿なことをと一蹴するところだ。

 まあその冷静さのせいで気づきたくないことに気付かされたのだが。


「見える人と見えない人の違いか。」


「なんなんだろうな。」


「何でしょうね?」


 考え込む三人の真ん中で精霊も一緒になって腕を組んで考えるふりをしている。

 そのことに気づいた葵が悪どい笑みを浮かべて言う。


「でもまあ、その違いも含めて話題にはなりそうだね?」


「おいおいおい。」


 この後に及んでまだ諦めてないのか。

 いくら故郷の為になるとはいえ、そんなやり方は絶対に混乱を招く。


「無し無し無し。絶対無し。うちの従業員に迷惑かけるような形は許さない。」


「はは、まあ流石にボクもそこまで人の心が無いわけではないさ。けど大丈夫かい?」


「なにがだよ。」


 強い口調で咎めると冗談冗談と手を振って断る。

 

「そもそもこの島に来る人間が少ないというのに、こんな爆弾を抱えているとなれば否が応でも変化を呼ぶことになるよ。」


「...今のところは大丈夫だし、これから先も余計なトラブルを招くつもりはない。」


 この島に新顔が来ることはほとんどないし、もしそうなれば島中に噂が広がるのもあっという間だ。

 多分フィルネリアさんのことも薄らとは知られていると思うが、接する機会がない以上情報を手に入れる術がない。

 精霊がいなければその外見に特徴があるわけではない彼女を見て違和感を感じることはまずあり得ないだろう。

 これからも態々精霊について触れ回ることもなければ、トラブルを引き起こすつもりもなかった。


「本当かい?夏樹クンなら案外その場の勢いでやらかしていそうなものだけど。」


 疑わしそうな目で見られるのは心外だ。

 勢いでやらかすようなことなんてするわけがない。


「そんなわけが無いだろ......あ。」

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