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183 ようこそ竜人自治区


 アユムさんたちとの連絡はすぐにとれ、竜人自治区に来てくれることになった。

 例の迎賓館的な建物で会うのだ。


 せっかくだからお昼ご飯を一緒に食べようと、私は朝からお米中心のメニューを組み立てた。

 やはり白いご飯とお味噌汁は必須かな。


 お味噌汁は野菜たっぷり豚汁にしよう。

 メインは何だろう。生姜焼きとかどうかな。


 皆様は和菓子は好きかな。

 おはぎを作って、餡子が苦手な人にはサブレも並べればいいかな。


 せっかくだから白菜みたいなお野菜を浅漬けにしてみよう。

 粉末だしと塩分でしんなりさせればいい。




 下宿の厨房で張り切って作り、亜空間に入れて迎賓館へ。

 少し早く着いてソワソワする私に、ザイルさんが笑っている。


「異世界の方々か。四人という話だが、全員あちらに帰ることを希望しているのか? 今日はそういった話し合いもするのだろう。安全を考えると人数が少ない方がいいが」


 ザイルさんは回帰スキルを使うならリスクを少なくと一緒に考えてくれる。


「アユムさんは帰りたいと話していましたけど、他の方はまだ聞いていません。アユムさんの友達のナナコさんも帰りたいだろうなとは思っています」


 私が巻き込んだことを謝ったとき、レンさんはあちらに未練があるわけじゃないと話していた。

 ヒロトさんは友人に会えなくなったのはショックだけど、どうしても帰りたいわけじゃないと言った。


 回帰スキルを使うなら、対象の人数は確かに問題だ。

 複数の人を一度に帰らせるスキルの使い方は危険かも知れない。


 ひとりずつに回帰スキルを使って帰すのがいいだろう。

 何度スキルを使うことになるのか。




 そうするうちに、モズさんがアユムさんたちを案内してきてくれた。

「ミナちゃん、久しぶり!」


 久々に会ったアユムさんたちは、少し日に焼けていた。

 元気そうに笑っていて、ほっとする。


「あのあとダンジョンで稼いで、王都の宿に長期滞在しているの。朝夕の食事付きでけっこういい感じよ」

「冒険者ギルドで臨時の仕事をしたら、それなりに稼げるから宿代も問題ない」


 アユムさんとヒロトさんの言葉から、当面の生活が大丈夫だとわかる。


「店員のお仕事とか、計算が出来ると重宝されるの」

「素材採取も鑑定ができるから、人より有利だよなあ」


 ナナコさんとレンさんも楽しそうに話してくれるので、ほっとする。




「そうよ。鑑定といえば、私たちそれぞれ鑑定内容が少し違うみたいなの。食材はレンなら美味しいお野菜がわかるのに、私たちだとわからないの!」


 おっと、レンさんは調理スキルがあるのかな。

 マリアさんも料理ができるのに調理スキルはない。

 その違いは何なのだろうか。


「オレは調理場で働いていたからなあ。それが関係するのかもな」


 そうか。プロの現場で働いたことがあるかどうかだ。

 家庭料理と料理人として気をつけるところは、少し違う。


「私にも調理スキルがあれば、美味しい物が作れるかも知れないのに」

 ナナコさんが不満そうだ。


「料理が出来るから調理スキルがあるんだ。順番が逆だ。ナナコはもう料理はしてくれるな」

「ちょっと、ひどいじゃない! 練習しないと料理はうまくならないって言っておいて、作るなってどういうこと?」


 レンさんの言葉にナナコさんが言い返す。


「ナナコはまず、勘で料理をするのはやめろ。味付けは少しずつ試して味見をする。調味料を大量にぶち込まなければ、あとからリカバリーが出来るから」




 あー、なんとなくナナコさんの調理の様子が見えてきた。

 感覚で調味料をドバッと入れちゃうやつか。


 あれをやられると、一気に料理全体がどうしようもなくなるよね。


 下処理をしないという話も、思い切りがいいからだ。

 少量ずつ試すとかなら、まだリカバリーが出来るんだけどね。


 調理実習のとき、煮物にお酢を大量に入れられどうにもならなかったことを思い出す。

 なるほど。ナナコさんはそれ系の料理音痴か。


「そうだ。今日はお昼ご飯を一緒に食べようと思って作ったんです。生姜焼きと豚汁です」

 延々と言い合いが続きそうなので、私は料理をテーブルに並べた。


「おー、豪勢な定食だ! いいな!」

 レンさんがとても喜んでくれる。




 あちらの世界の皆はお箸で、グレンさんとザイルさんはフォークなどを使う。

 美味しい美味しいと食べてくれるのが嬉しい。


「あー、本当にミナちゃん料理上手だわ。この豚汁、最高!」

「ナナコは味覚はまともなのよねえ」

「作ったらなぜああなるんだ」


 笑顔で喜んでくれるナナコさんに、アユムさんやレンさんの言葉が手厳しい。

 ナナコさんがまた口を尖らせている。




 また話題を変えようとして、あちらの世界への帰還の話をした。


「回帰スキルというのがあって、それでならあちらの世界へ帰せるみたいなんですが、必要な魔力量がすごく多いのです。先代聖女さんは、昔の勇者さんにそれを使って亡くなったとき、魂があちらに飛ばされたんですよね」


 その話をすると、アユムさんたちは眉を寄せた。


「そんな危険なスキルを使うのは、怖いわね」

「他に手段はないの?」


 口々に言われるけれど、今はわからない。


「シエルさんが、世界を超えるための座標みたいなものがないなら、帰るのは無理じゃないかって言っていました。適当な場所から呼び寄せるのと、元いた場所へ戻すのは、まったく理屈が異なるそうです」




 私の言葉になるほどと頷いたのはヒロトさん。


「最初の勇者はランダムな場所から呼び寄せられたし、二度目のオレたちの召喚は聖女の魔力という目印があった。でも元の世界に目印がついているわけじゃない。そういうことだな」


 明確な目的地に転移するならともかく、目的地の定義が難しいのだ。

 だから唯一の方法が、回帰スキルになる。


「魔力を補うための電源として魔宝石をたくさん準備しようとしてくれています。ひとまず、ひとりずつ回帰スキルを使って送り返します」


 私がそう話すと、ヒロトさんとレンさんが顔を見合わせた。


「オレは前に言ったとおり、元の世界にことさら帰りたいわけじゃない。あちらの方が金を稼いで生活するのが難しかったくらいだ。こっちの方が、色々と生活の目処が立ちやすい気がするんだ」


 まずはレンさんが、自分は帰らなくていいと言ってくれた。




 友達に会えなくなったことがショックと話していたヒロトさんも、頷いている。


「オレもなんだか、こっちの方がチートみたいな力があって、魔獣退治とか面白いと思えてる。こっちで新しい人間関係を作れるなら、それでいいかも知れない」


 どうしても離れがたい友達がいるわけではないという。


「私は絶対に帰りたい。でもナナコは」

 アユムさんがナナコさんを向くと、彼女もすかさず言う。


「こちらの生活も面白いけど、色々と不便も多いし、アユムが帰るなら一緒に帰りたいかな」




 つまり女性二人は帰りたい。男性二人はこの世界で暮らす。


 二人を順番に帰還させるなら、なんとかなりそうな気がする。

 初回で魔力量の目安もわかるだろう。


「わかりました。安全にスキルを使えるように、魔宝石という魔力の充電器みたいなものを多く用意しようと話していましたから、準備を進めますね」

「ミナが安全にスキルを使えるよう竜人族のみんなで協力する。心配はない」


 ザイルさんの言葉に、アユムさんとナナコさんが頭を下げた。




 食後はみんなでおはぎを食べた。

 レンさんは食べ慣れていない様子だったけれど、美味しいと言ってくれた。


「水無月庵の小豆の味ねえ」

 アユムさんが目を細めて味わってくれる。


「私もアユムの家で食べたことある気がする。美味しいねえ」

 ナナコさんもうちの和菓子を食べてくれていたようだ。


「あー、異世界で餡子が食えるなんてな」

 ヒロトさんも感心した声だ。

 まあね。一般的に和菓子の作り方なんて、そう知られていないだろうからね。


 餡子はレトルトでも売っているから、わざわざ小豆から炊いたりしないだろう。




 今日はひとまず、この国に来たアユムさんたちがどう過ごしているのか聞けた。

 あちらに帰すための話も出来たので、準備の進み具合で彼女たちが帰る日を決める。


「また冒険者ギルドを通じて連絡しますね」

「ええ。私たちもミナちゃんに用事があれば、ギルドで伝言を頼めばいいのね」


 そう話を終えて、竜人自治区の門まで見送りに行く。


「何かあったら声をかけてくださいね。私の方は魔宝石の準備などを進めておきます」

「ありがとう。帰ることが出来るとわかって、ほっとしたわ。危険がないようにだけ、くれぐれも気をつけてね。何か出来ることがあったら声かけてね」


 門の側で、アユムさんが私の手を握って言う。

「アユムさんたちも、何か困りごとがあったら声をかけてくださいね」




 そんな話をしていたら、ソランさんが外から走ってくるのが見えた。

 なんだかすごい勢いだ。


 今日はたしか、王都のパン屋さんにする予定の建物の契約に行ったはずだ。

 契約を終えて帰ってきたにしたら、あの急いで来るのは何だろう。


「どうしたんですか? ソランさん」


 声をかけたけれど、私と視線が合わない。

 あれ、なんだろうと思っていると、彼はナナコさんの前でいきなり膝をついた。




「どうか結婚してください!」


 いきなり求婚の言葉が飛び出した。

 え、何が起きてるの? ドッキリ的な何か?


 そう思ってから、思い至る。

 もしかしてこれは、番の魔力を感じた状態?


 え、ナナコさんがソランさんの番なの?





 ナナコさんは眉を寄せて突っ立っている。

 まあ、そうだよね。いきなりの求婚なんてわけがわからない。


 冗談か、変ないたずらかと思うところだ。


「あの、ナナコさん! ちょっとだけ解説いいですか?」

「解説?」


 戸惑いながらもナナコさんは私に向き合ってくれた。

 ソランさんは膝をついたまま、ナナコさんを見上げている。


「あの、ですね。ここは竜人族の人たちが住む場所でして」

「そうね。ミナちゃんの番のグレンさんが竜人で、魔力も豊富で戦闘能力も高い、すごい人たちだって冒険者ギルドで聞いたわ。高ランクの冒険者も多くて、ヘッグさんもそうだって」


 そうだ。グレンさんとのことを話したから、番という認識はある。

 ただ、竜人族がどうして番を見つけるかを話していなかった。




「竜人族は魔力で相性のいい番を感じて求愛するんですよ」

「魔力で、求愛? え、何それ」


 わけがわからない様子のナナコさんに、さらに言葉を重ねる。

「魔力の相性がいい人を番として認識するんです。しかも番以外の女性に興味は持ちません」


 ナナコさんは目を瞬いてから、跪くソランさんを見下ろした。


「え、これ本当に求愛?」

「そうです。ああ、オレが番に出会えるなんて!」


 ソランさんは喜んでいるけど、ナナコさんは戸惑っている。

 まあ、そうだよね。

 いきなりこんな話をされても困るよね。





 そこでふと気づいた。

 アユムさんと一緒にナナコさんも帰ると言っていた。


 このままだと、せっかく出会った番は異世界に帰り、ソランさんは残される。




 え、これ緊急事態発生じゃない?

 ソランさんが番に振られて一生独身の危機じゃない?


次回更新は23日の予定です。

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― 新着の感想 ―
これは、シエルさんに異世界を行き来する魔法を創造してもらうフラグかな?
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