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2巻発売いたしました。よろしければ書籍版もお付き合いください!
色々と修正したり、書き足しております。
翌朝、ダンジョン組のところへひとまず転移して合流すると、シエルさんが興奮気味に話しかけてきた。
何かの木の実らしいものを手にしている。
「ミナ、これはチョコレートみたいなんだが、どうすれば私たちが知るあのチョコレートになるのかわかるか」
チョコレート! とうとう発見された!
私もそうだけれど、自分のスキルに絡まない部分の鑑定は、おおよそ地球の何にあたるという大雑把な鑑定ならできる。
シエルさんはチョコレートの原料とはわかった。
でも加工方法は調理スキルを持つ私が鑑定しないとわからない。
「ダンジョンにあった木の実なんだ。ミナに渡せばなんとかなるかと思った」
喜んだものの、カカオ豆そのものだったら困るなと思う。
カカオ豆からチョコレートに加工する工程って大変らしいし、私は原材料からの加工方法までは知らない。
ショコラティエを目指す人なら知っているかも知れないけれど。
その実を鑑定すると、確かにチョコレートだった。
カカオ豆そのものではない。
味噌の実みたいに、実が濃厚なチョコレートそのものらしい。
このまま食べると、カカオ100%の苦いアレだ。
糖分やミルクなんかを加えて、食べやすくする必要がある。
でも助かった。
熟した実がそのままチョコレートだなんて、とっても助かる!
「ミルクと砂糖を足して味を調えればいいみたいです。すごい!」
「そうか! 和菓子もいいが、生チョコもたまに食べたくなるんだ」
チョコレートに期待して目を輝かせているシエルさん。
本当に甘い物好きみたいだね。
さっそく木の実があるところへ、一緒に行くことになった。
出かける間際、ヘッグさんが私に声をかけてきた。
「あいつら、サフィアへ呼び寄せるのか?」
私はそのつもりだと頷く。
「他に行きたいところがあるのならともかく、あの国を逃げてきて、落ち着く場所を探しているなら、サフィアに来てもらえばいいと思っていました」
なるほどとヘッグさんは頷いた。
「一緒に行動してみて、おおよそ危険じゃなさそうな奴らだとはわかったのでいいんだが、そういうときは前もって言っておいてくれ」
おっと、ヘッグさんてば親切に関わっていると思ったけれど。
彼なりにアユムさんたちがどういう人たちなのか、様子を見ていたのか。
社交的に見えて、赤竜一族の人たちは用心深い気がする。
対象をちゃんと観察することも含めて、竜人族の中でも人間関係に秀でた一族という印象だ。
「私はアユムさんのことしか直接知りませんから、他の人たちも危なくないなら、良かったです」
あちらの世界から来たから無条件に信頼しているわけではないと返せば、ヘッグさんは頷いた。
引き続き、彼らの様子を見てくれるのだろう。
「そういうことなら、オレとギドが向こうへ帰るとき一緒に連れて行こう」
「ありがとうございます、助かります。よろしくお願いします」
さすがに竜人自治区の中に転移させるのはまずいだろう。
結界を張ってきちんと警戒をしている自治区に、私の一存で直接転移で連れて行くわけにはいかない。
招くならザイルさんの許可をとって、門からきちんと迎え入れるべきだ。
ヘッグさんが連れてきてくれるなら助かる。
今ここにいるのは、私を含めて異世界から来た六名と、竜人族三名。
大勢で行動することになり、賑やかだ。
「食事ありがとう! めちゃくちゃ美味かった! 毎食うまいメシで助かる!」
ダンジョンへ向かいながら、レンさんが熱烈に食事のお礼を言ってきた。
「フワフワのパン、いいよね。あれもミナちゃんが作ったの?」
ナナコさんはパンの話をする。
「製菓学校で基本のパン作りは学んでいたのと、本で読んだことがあったので、酵母から作ってみました。それに適したスキルもあったし。今は竜人族でパン屋をしてくれている人もいますよ」
「うわあ、あのパンを普通に売ってくれる場所があるんだ!」
ナナコさん、パン好きみたいだ。
パンを買えると知って浮かれた顔になっている。
「私パン屋でバイトするほど、好きなんだよねえ。焼き立てのクリームパンとか最高! まあ、バイトといっても調理じゃなくて販売なんだけど」
そうしてちょっとむくれた顔をするところも可愛い。
ちゃんと大人っぽいのに可愛い人って、いいなあと憧れる。
「ねえねえ、職業を料理人に出来たのは、料理系のスキルがあったから?」
「はい。調理スキルがあります。父が和菓子職人で、私も昔から料理もお菓子作りも好きだったので」
「調理スキルかあ」
ナナコさんは羨ましそうな声を出す。
「お料理は挑戦するたびに止められたのよねえ。私もやりたいのに」
うーん、レンさんはナナコさんに料理をさせちゃダメだと言っていたけれど。
やらないと上達しないし、やってみたいならやればいいと思うのだけれど。
サフィア国で落ち着いたら、一緒にお料理をするのもいいかも知れない。
「シエルさんから聞いたけど、お米もしーちゃんが見つけたの?」
アユムさんは、お米発見についてシエルさんから聞いたみたいだ。
「私たちの鑑定スキルって、自分が持っている別のスキルと連動していて、私は調理スキルのおかげで食品に特化した鑑定が出来るんです」
鑑定の違いを知らなかったアユムさんたちは驚いた顔だ。
彼らは戦闘系のスキルが主で、今まであまり鑑定の違いを感じることはなかったようだ。
そういえばセラム様にあの国を連れ出してもらった私たち三人は、物作りなどの特化能力があったから、違いが出た。
私は食品、マリアさんは素材、シエルさんは魔法。
そんな私たちでも、しばらくしてから鑑定スキルの内容の違いに気がついた。
「こっちのジャンケンって、ゲンガボルガジャンガっていうのか!」
ヒロトさんの言葉は、一瞬何の話かわからなかった。
遅れて思い出した。
ヘッグさんたちにジャンケンを教えたとき、彼らは魔獣の話として理解した。
今では竜人自治区で軽い決め事のときに、ジャンケンが使われている。
ゲンガボルガジャンガとして。
「こっちの世界にジャンケンって、面白いよな」
「いえ。こちらにはジャンケンがなかったので、私が教えたら、わかりやすい魔獣がちょうどあてはまったみたいで、そうなりました」
なんでも昨日、みんな自分が魔獣を倒したがったので、順番をジャンケンで決めたらしい。
そうしたらヘッグさんとギドさんのかけ声が「ゲンボルジャンガ!」だった。
ヒロトさんたち四人が目を丸くしたので、グーチョキパーにあたる魔獣について説明されたそうだ。
ちょうどあてはまる魔獣がいるのが面白いなと、ヒロトさんは言う。
そんな他愛ない話をするところを見ると、本当に普通の青年だ。
ダンジョンに入ると、目的の階層まではシロさんが転移させてくれた。
密林みたいな階層だと言われて『ウチが転移させましょ』と、あっさりだった。
そうして密林地帯で、私は採取、みんなは魔獣討伐をする。
チョコレート以外には、お茶の葉を発見した。
これまた採取して乾燥させたら、そのままお茶の葉になるそうだ。
不思議な感じはするけれど、香草みたいなものだろうか。
ミントの葉が生のままミントティーになるみたいに。
いずれにしろ、緑茶が飲めるのは嬉しい。
紅茶やウーロン茶にあたるものもあった。
魔法のある異世界の植物って、不思議なものが多いよねえ。
その日は採取と少しの戦闘をして、シロさんのところで浄化をしてから竜人自治区に戻った。
翌日は逆に浄化をしてから竜人自治区でお風呂や食事で魔力を回復させ、ダンジョン組と合流。
シロさんが『昨日の人たちのところへ合流やね』と、さっくり転移してくれた。
私とグレンさんがいきなり現れて驚かれたけれど、私とグレンさんも驚いた。
シロさんがダンジョンマスターみたいなものだと言うと、微妙な顔で頷かれた。
本当はあの家に転移して、差し入れだけをするつもりだったんだ。
ちょうど戦闘が終わって休憩するところだったと言われ、さっそく味を調えた生チョコとトリュフチョコをおやつとして皆で食べた。
「おおー、チョコレート!」
「中が柔らかくて、上等なトリュフチョコだね! おいしい!」
「あー、この濃厚な甘みと香りがいいな」
「何コレ溶けるっ! すごいっ!」
「この苦い実が、これになるとは。知らねえって損だなあ」
異世界組にも竜人族の皆にも喜んでもらえたのでヨシ。
帰りはシエルさんと一緒に、竜人自治区へ転移カーペットを使って帰った。
残りのメンバーは一週間ほどダンジョンで稼いでから、サフィアに移動する。
アユムさんたちも一緒に来てくれると聞いた。
私たちはダンジョンのことは切り上げる。
元々シロさんに会うためだったので、目的は達した。
そして翌日の今、私の部屋は人口密度が高い。
シロさんのドールハウス設置のためだ。
実はあのあと、小さな家具をルシアさんをメインに、なんとマリアさんもラナさんも、ティアニアさんまで参加して作ってくださった。
家具の本体、木工部分はルシアさんが。
マリアさんはベッドの支柱をアイアンフレームで、ロココ調にすると張り切っていた。
そして布部分の加工で、ラナさんとティアニアさんも参加してくれた。
私が不在の間も、ちゃくちゃくとソファーやテーブル、天蓋ベッド。
そしてクッションやテーブルクロス、敷物などの小物まで作成されていた。
キャッキャとはしゃく大人の女性たちを見ると、贅沢な大人のお遊び感が強い。
でもそれらを制作できる技量もすごい。
私の部屋のクローゼットの一角に、階段状の土台が設置されて。
カーペットが敷かれ、家具が並べられる。
まさにドールハウス。
小さなステンドグラス風ランプまである。
あ、それ私も欲しかったやつ!
マリアさんに頼もうと思っていたのに忘れていて、シロさんに先を超された!
しかも小さいのに洒落た感じのランプという完成度がすごい!
設置にはテオ君とメイちゃんも来て、興味津々だ。
シロさんは大興奮だ。
『うわあ、ウチのお部屋! お姫様みたいなお部屋! すごいわあ、ステキやわあ!』
感激するシロさんの言葉を私が伝えると、四人がやり切った笑顔になられた。
本当にすごい。小さなお部屋が完成している!
大人のお遊び感がすごいけれど、何よりシロさんが喜んでいる。
「木工で食器も作ってみたけれど、さすがに実用はしないかしらね」
ルシアさんの言葉にシロさんを見ると、期待した目を向けられる。
うう、これは何か、あれに乗せられるお菓子を作るべきか。
小さなテーブルに載せられる程度の、小さなお皿。
テーブルの大きさと比較すると大皿だけど、指三本分くらい。
うーん、焼き菓子をあのサイズで作ると焦げそうだよね。
クレープならいけるかなあ。
あ、練り切りなら出来るか。
成形を頑張れば、なんとか。
というわけで、練り切りを作りました。
大きいサイズの私たち用と、シロさんクロさんサイズ。
表のお部屋とクローゼットのお部屋でそれぞれ並べたら、シロさんはとても喜んでくれた。
『いいわあ、優雅やわあ、嬉しいわあ』
『わては大きいサイズがええわあ』
クロさんが余計なことを言って、シロさんにはたかれた。




