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体育での視線

 真面目達のクラスでは火曜日と木曜日の昼前の授業で体育がある。 3時限目の終わりかけともなれば、すぐに着替えが始まる。 だがここで間違えてはいけないのが、「女子は更衣室、男子は教室で着替える」というルールについてだ。


 この世界の高校生は性別が逆転している。 つまりこのルールを守りきれていないとどうなるのか。 それがこの場で起きようとしていた。


 まず男子になった女子は教室で着替える事に抵抗があった。 やはり目につくところで着替えるというのは出来ないのだろう。


 次にそんな女子を見ながら男子が何の躊躇いもなく着替えようとしていたことだ。 こちらは手慣れているため普通に着替えようとするのだが、自分の身体が女子になっているのを忘れているため、そんな女子の視線を浴びる事に違和感を感じていた。


 そんな2つが交わればどうなるか。


「ちょっ! 男子! 早く出てってよ!」

「え! あ! そっか! 俺達の方が出ていくのか! わりぃわりぃ!」


 こんな立場逆転現象が起きるのだ。 元々の状態ではあり得なかった光景だろう。


 そんなこんなで男子、もとい女子となった男子達の更衣室への移動が始まる。 更衣室への行き方は教えて貰っているため迷うこともない。 男子達は自分達の制服を自分の選んだロッカーに入れて、入学式の際に渡された体操服及びジャージを取り出して着替える。


 ここまでくればなんとなくお分かりだろうが、見た目は女子でも心は男子。 見慣れていない自分以外の女子の身体を誰かしらは見ていることになるのだ。 そして


「うわっ! なにっ!?」

「いやぁ、白いなぁって思ってさ。 なんでこんなに肌白いの?」

「し、知らないよ! 変わったらこうなったんだから。 ・・・そっちだって胸大きいじゃんか。」

「お? そうか? 触ってみるか?」


 そんなやり取りが繰り広げられるのは、ある意味お約束とも言えるだろう。 そんなのに交わる気は無い真面目はさっさと服を着替える。 体操服はかなり大きいサイズだった筈なのだが、真面目の身体に丁度いいサイズになっていた。 バストサイズまで考慮されたのだろう。 自分の服もこれからはサイズを考えなければいけないと真面目は思った。


「さて新入生諸君! 私が体育教師の松野原だ! 身体的能力に限界はあるものの、運動をするのには大差はない。 なので元女子の諸君は元男子の運動量が少ないことに文句を言わないように! 元男子諸君も身体が女子だからと言って贔屓にはしないから、覚えておくように! それではまずは準備体操をするぞ! 前後左右で腕が当たらない位置まで移動するんだ!」


 体育教師はかなりの熱血である。 そして体操をした後に再び集合する。


「よし。 それでは本日は基礎体力を計っていこうと思う。 ここのグラウンド一周を自分のペースで走って貰う。 時間は計るが速く戻ってくる必要はない。 自分がどれだけの運動能力があるかを確認するだけだ。 自分の身体が入れ替わったとなれば少なからず変化があるかもしれない。 それを知るためのランニングだと思ってくれ。 それではここに並んで。」


 そうして一斉に並ぶ。 前の方には運動が出来る生徒が。 後ろには苦手な生徒が集まっている。 真面目や岬は大体真ん中程だ。


「では、用意。」


 パンッ


 松野原の拍手と共に走り出す。 最初ということで皆ペースは同じだが、1/4を走らない内にだんだんと距離が出来始める。 運動が出来る生徒はどんどん走っていき、逆に苦手な生徒はどんどんと後ろになっていく。 この辺りから自分達の運動能力が分かってくるのだろう。


 運動場としてはかなりの広さがあり、野球部のグラウンドにサッカー部のコート、陸上競技用のトラックなどこの場所だけでもかなりの敷地面積を取っている。 それだけ力を入れているという表れだろうか。


 そして大体授業時間が半分過ぎた辺りで真面目はようやく最初の場所に戻ってくることが出来た。


「お疲れ。 ふむ。 一ノ瀬はこのくらいか。 そこのクーラーボックスからスポーツドリンクが入っているから、水分補給をして休むように。」


 そう言われた真面目はクーラーボックスから氷水で冷やされたスポーツドリンクを手にとって、まずは自分の頭を冷やす。


「・・・はぁー、冷たぁい・・・」


 そうして一通り身体を冷やした後にフタを開けてスポーツドリンクを飲む。 口と喉に冷たさが押し寄せる。 運動の後なので尚更身体に染み渡る。


「それにしても、本当に何て言うか・・・」


 そういって真面目は自分の胸元を触る。 ブラで固定はしているし、体操服の上からジャージをしているのにも関わらず、走っている最中にそれなりに上下していた。 それのせいで前のめりのような姿勢になり、走りにくかったのもあったので、体力の消耗が何気に激しい。


「運動する時はもっと気を付けないといけないかなぁ?」


 はぁと肩を落としながら周りを見る。 この外周の残り1/4の地点で最後尾になっているので、全員授業時間が終わるまでには戻ってこれるだろう。 そして真面目よりも先に戻ってきた人達は既にある程度息は整っていた。 あの辺りは運動部に所属するだろうなぁと思いながら眺めていると、首筋に冷たい感触があった。


「冷たっ!」


 振り替えるとそこには走り終えたばかりの岬が立っていた。


「お疲れ様。 速いね一ノ瀬君。」

「もう、びっくりさせないでよ浅倉さん。 それに僕が速いって言うなら、向こうの人達はもっと速いよ。」

「それもそっか。」


 そういいながらも息を整えている真面目を岬は貰ったドリンクを飲みながら見つめていた。

「な、なに?」


 その視線が気になり真面目は聞き返す。


「やっぱり大きいとそれだけ動きに抑揚が生まれるね。 これは確かに視線が集まるのも頷ける。」

「なっ!? ど、どこを見て言ってるのさ!?」


 テンプレートのような台詞と仕草で岬に異議を申し立てる真面目。 言いたいことは分かるが、言われる側になるのは予想外だった。


「今は男子の身体だからそう思っているのかもしれないけれど、視線を釘付けにするには十分だと思う。」

「それは褒めてるの?」

「褒めてるよ?」


 真面目も良く分からないやり取りで困惑をしながらも皆が帰ってくるまで身体を休めていた。 当然何人かの視線も感じつつも、そんなことを気にしていたら負けだと思い、気にしないようにした。


 そして全員が戻ってきた上で、授業が終了した。 そして更衣室へと向かい、真面目は制服へと着替え直す・・・前に自分のかいた汗を体操服に全部吸わせてから着替える。 そして着替え終わった後に自分が先程まで着ていた体操服に顔を近付ける。


「・・・この姿じゃなきゃ通報待った無しだよ・・・」


 元の姿でこんなことをすれば明らかに変質者だということは言わずもがな分かっていた。 だがそれでも確認したかった事ではあるので仕方ないと言えば仕方ないのである。 好奇心は時に異質だと分かっていてもやってしまうものである。


 そして頃合いを見計りながら着替え終わった女子(男子)達は教室に戻って自分の席についた。 そして昼休みということでそのまま昼食へと入る。 真面目も鞄の中からアルミホイルに包まれた物を取り出す。


「一ノ瀬君それは?」

「お弁当って言うか、サンドイッチ。 弁当箱で持ってこようかなって思ったけど、よくよく考えたら男子っぽいやつしか無かったから、それで持ってくるのも違和感があるかなって思ってさ。」


 そうして中身を確認して崩れていないのを確認すると、安堵のため息をついてからサンドイッチを口にする。 しかし真面目はなんというか居心地の悪さを感じていた。


「・・・ねぇ。 さっきからなんか妙に視線を感じるんだけどさ。 この視線どこからだと思う?」


 そう岬に訪ねると、岬は真面目の後ろの数人を確認した。 そして一人納得していた。


「浅倉さん?」

「大丈夫。 変な視線は今のところ無いよ。 ただちょっと邪なものも混じってたり・・・混じってなかったり。」

「曖昧なのは逆に怖いんだけど?」


 気にすることではない、ということなら問題はないのかなと思いつつ、その日のお昼を過ごしたのだった。

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