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午後の一幕

前回の続きです

「メロンパン1つ!」

「130円渡します!」

「押すな! 小銭が溢れた!」


 購買の前に見える光景はまさしく一触即発。 廊下の奥にある筈の購買のエリアが大量の生徒で埋め尽くされている。 満開によくある光景そのものが真面目の目の前に起きていた。


 ただ敢えて違うところを上げるならば、男女の比率が逆転しているところだろうか。 そう、目の前に広がっている光景を作り上げているのは大半が女子なのだ。 女子と言っても元は男子なので、血の気自体は盛んである。


「うわぁ、想像以上だ・・・」


 真面目がその光景に少し引きつつも、自分もこの中に行かなければ今日の昼食を取れない。


 意を決してその中に入る。 どこから入ろうとすし詰め状態で、行く人と出る人が入り乱れている。 怪我上等のサバイバルであると真面目は思った。 またもし取れたとしてもお金を払わなければならないため、財布から小銭を出さなければならず、衝突の多い場所では握っていた小銭を落とす可能性も否めない。


「すいません、失礼しま・・・いててて! うわ、うわわ!」


 真面目もその中に混じるものの、やはり数の暴力があり、肩や胸、お腹などに肘や腕、挙句の果てには身長差のせいで頭突きすらされる始末だった。


 そして前に着けたとしてもなにがあるのか全く分からない程に埋め尽くされていて、そもそも真面目の高さでも取ることが出来ないのだ。


「うぬぬぬぬぬ・・・ ! 掴んだ! これお金です!」


 真面目は手に握っていた小銭を投げ銭のようにやると、すぐさま自分の取った物を上にあげて、即刻去るように入り口までゆっくりと進む。 そして購買の廊下を離れて階段を登りつつ自分の戦利品を確認する。 取ったのはどうやら苺のムースが中に入っているホイップパンだった。 値札には「130」と書いてあった。 20円多く払っているが、お釣りなど貰おうとは思わなかった。 ここまでの状態になっても提供をしている配給の方へのお礼代のようなものだ。


「戻っても食べ終わっちゃってるだろうね。」


 待ってくれているかも定かではない岬の事を考えながら真面目は教室へと戻っていった。


「おかえり一ノ瀬君。 お目当ての物は買えた?」

「なにがあるかまでは見えなかったからお目当てもなにもないよ。 結構死闘だったし。」


 帰ってきて早々に疲れを見せた真面目を見ながら、声をかけた岬。 真面目の思った通り、岬は既に弁当を食べ終えて既に休憩モードに入っていた。


「はぁー。 次からは僕も弁当にしようっと。 あの中を毎日くぐり抜けるのは苦労するよ。」

「朝早く起きるのは苦手な方?」

「そんなことはないよ? まあ母さんが先に起きて朝御飯作ってくれているから、どうしようかなって思ってるんだよね。」

「頼むことは出来ないの?」

「出来るとは思うけど・・・うーん・・・」


 戦利品を食べながら悩む真面目。 作って貰うのを頼むのは容易いことではあるものの、その分壱与の負担が増えるだけであると考えている。 忙しさを増やしてはいけない。


「なら最初は冷凍とか夕飯のあまりとかで代用してみれば?」

「それが一番早いよねぇ。 慣れるまでは。」


 そんな会話をしている内に食べ終えた真面目は小さく欠伸をする。


「次は保体だからちょっと寝かせて貰おう。」

「お昼に寝るの大丈夫?」

「授業の前には起きるし、それに教室が暖かいから眠たくなってくるんだよね。」


 実際に教室にいる何人かも既に睡魔に負けて眠っているものが多かった。 昼食を食べた後は眠たくなるものだと示唆しているようなものだろう。


「それなら私も寝ようかな。」

「その方がいいと思うよ。 ふあぁ。 午後からの授業で寝るわけにもいかないだろうからね。」


 そうして2人も他のクラスメイトと同じ様に眠りにつくのだった。

 そしてチャイムと共に皆が目を覚ます。 眠気眼を擦りながら次の授業である保体の準備をし始める。 それと同時に教師がやってくる。


「あー、皆さん。 眠たかったところを申し訳ないですが、保健体育の授業を始めていきたいと思います。 担当の長浦です。」


 若い女性の教師が頭を下げる。 そして早速といった具合にテキストを開く。


「皆さんも今の身体には慣れてきたでしょうか? 未だにおぼつかない部分はいくらかでもあるかと思われます。 特に肉体的に大きな変化があったでしょう。 胸部や下腹部の変化は著しいと思われます。 ですがそれは性別があってのこと。 今回からの授業でまずは肉体について学んでいきたいと思います。」


 そう言いながら長浦先生は人の平面図をさらさらと書いていく。 より分かりやすく説明するためだろう。 その後に部位ごとに説明を書いている。 右と左で内容が違う。


「右側に書いたのが女性の肉体的特徴。 左に書いたのが男性の肉体的特徴となります。 同じ箇所に書いてあることでも読み方だけでもかなり違いがあることが分かりますね。」


 右と左で名前が確かに微妙に違う。 この辺りからでも勉強にはなると、真面目も自分なりに人の平面図を書いた。


「しかし厳密にはその部分以外での構造はさほど大きくはありません。 つまり皆さんが思っているほど、肉体的には変化はないのです。 ただ身長や体重等の個体差は出てはきますが。」


 そう説明すると同時に、チョークで1つの項目をさす。


「まずは胸部の部分。 男子の場合は「チェスト」、女子の場合は「バスト」と言うように、呼び方が変わっています。 特に女子の場合は「乳房」と呼ばれる部分が、「胸の大きさ」と示唆される部分になっています。」


 その言葉に一部の女子(男子)は自分の胸を触りだす。 確かに一番の変化と言えばそこになるだろうが、全員露骨に触るものだから、長浦は一度咳払いをした。


「もう1つは皆さんの下腹部、この授業では「生殖器」と呼ばせて頂きますが、こちらも大きな変化を遂げたことにより、互いに違和感のあるものとなったと思います。」


 そして長浦は一度話を区切る。


「しかし恐れることはありません。 なぜならその事に対してこれから事細かに説明をしていくのが、この授業のモットーとなるからです。 無い物ねだりではなく、まずは自分の身の事を知らなければならないと思うのです。 それでは改めて授業をしていきます。 ページを開いて・・・¨」


 そして授業は瞬く間に終わりを迎えることとなり、そのチャイムも鳴った。


「本日はこれにて終了致します。」

「起立、礼!」


 まだ役割を決めてないながらも挨拶が行われて、そのまま帰りのHRへと入った。


 HRも終わり、そのまま家に帰ろうとする真面目に、岬が声をかける。


「一ノ瀬君。 今日はこのまま帰る?」

「うん。 部活もまだだし、バイトも考えてないからね。 まずはって感じかな。」

「それなら一緒に帰ろうよ。 途中までは同じだから。」


 その言葉に異議はなかったので、昇降口へ向かい、そのまま正門を出て帰ることになった。


「初めての高校の授業。 一ノ瀬君はどうだった?」

「まだ良く分かんないや。 今のところはね。」

「これから難しくなってくると思うけどね。 勉強の方は自信ある?」

「それもまた微妙。 中学の時でも中の中位だったし。」

「それなら大丈夫そうだね。」


 そしていつもの大通りの交差点へと差し掛かった。


「それじゃあね。 一ノ瀬君。」

「うん。 また明日。」


 そうして初めての授業の1日が終わりを迎えたのだった。

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