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新しい授業風景

「結局髪を下ろして行くの?」

「髪を纏めてもいいかなって思ったけど、なんかいまいち落ち着かなかった。 あとは練習不足だからちゃんと出来るようになってからにしたいんだ。」


 昨日あれだけ熱心に髪をいじくり回していた真面目が出した結論だった。 髪を纏めることに抵抗はない。 だがそれは自分のアイデンティティーを崩すことになりかねないから。 だから今はそのままで行こうと思ったのだ。


「とは言え邪魔だったり暑かったりっていうのは案外本音なんだよねぇ。」


 そんな本音を溢す真面目。 まだ春先とはいえ少しずつ暑くはなってきているし、髪が揺れる度に自分の頭ごと持っていかれそうになるので、本格的に考える必要がありそうだと思っている。


 髪を切るのは簡単だが、長髪の女子が髪を切る時はイメチェンか失恋かと言うのは定番で、要は「昔の自分を引き摺らない為」と真面目は勝手に解釈している。 そんな事を言ったら壱与も同じ様な事を言っていた。


「というか、まだ好きになる相手なんているわけが」

「おはよう一ノ瀬君。」


 いつの間にかあの通学路に着いていたようで、岬と合流していたようだ。


「ああ、おはよう浅倉さん。」

「どうかした? 一ノ瀬君。」

「んー、ちょっとね。」


 そのままの流れで通学路を歩いていく。


「いやぁ、髪のことで昨日弄ってたんだよね。」

「へぇ。 どんな感じにしようと思ってたの?」

「最初は結ぶだけにしようと思ってさ。 ポニーテール位ならすぐには出来るんだよね。 でももう少し納得行くようになってからかな。」

「納得?」

「三つ編みに挑戦しようと思ってね。 でも難しかったよ。 もっと練習しないと。」

「ふーん。」


 真面目の意見に岬も返事を返す。 そして岬は歩きながら考えている。 その後に真面目を見る。


「でも私はそのままの一ノ瀬君でも好きだけどね。」


 そう言って優しく微笑み返した岬に、真面目の鼓動は速くなった。 真面目はその事実に気が付いて、首を横に振った。


(いやいや、それはちょっとどうなんだろう? それで気持ちは変わるものじゃないでしょ。 うん。 違うよね。)


 自分に言い聞かせつつ道を歩き続ける事数分。 学校に到着してすぐに教室に入った。


「相変わらず誰もいないね。」

「そうだね。 そういえば最初の授業ってなんだっけ?」

「ええっと・・・現国かな。」

「現国。 基本的には文章を読み解くのかな。」

「そんなところだろうね。 後は化学、世界史、家庭科ときて、午後には保体があるって感じだね。 体育は明日みたい。」

「ふんふん。 なら難しいところは世界史だけかな?」


 そんなやり取りをしている内に、教室にはクラスメイトがどんどん入ってくる。 勿論最低限の挨拶は交わして、席に着席する。


 HRを終えて1時限目の授業が始まるチャイムが鳴り、それに合わせて若い女性の先生が入ってくる。


「皆さん初めまして。 私が1年現国担当の坂口 梢(さかぐち こずえ)です。 早速ですが現国の教科書及びノートを開いてください。 最初に読んでいくのは芥川龍之介が書かれた「羅生門」。 この作品は芥川龍之介の作品の中で最も有名であり・・・」


 授業が始めれば教室が静まり返る。 授業を受けるのだから当然ではあるのだが、たまにうるさいまま授業が進行することもあるので、気は抜けないのだ。


 そして1時限目の授業が終わり、集中していた自分を休められる瞬間がやってきた。


「ふぅ。 とりあえずは書ける分だけ書けたかな。」

「あの先生結構授業の進みが速い。 多分一回通してから読み聞かせをするんだと思う。 そう言う先生なんだと思う。」

「次の授業は速く無いといいけどね。」


 そしてつかの間の急速も終わり、次の授業である化学が始まる。 先程よりは授業の進みは遅いものの、その先生の黒板での書き方がかなり独特で、教科書を見ながらでなければなにを書いているのか分からないくらいに、崩し字であったので、黒板を見ては教科書を見てノートに移すという作業が繰り返されていた。


「く、首が・・・」


 背が高めで首を上下に動かし続けていた真面目は完全に首に痛みを感じていた。


「次の席替えの時は後ろに行きたい・・・」

「高いのも罪だね。」


 それにしたってしばらくは首を代償にあの授業を受けなければならないと考えると、少し気分が落ち込む真面目であった。


 3時限目の世界史は戦争や抗争の歴史から学んでいく形になっている。 そんなことを見ながら真面目はクラスメイトの様子を見る。 自分と同じくちゃんと授業を受けている人もいれば、隠れてスマホを弄る人、寝てる人もいる位だ。 これが高校での授業風景なのかと思った。


 3時限目も終わりを迎えて、次が家庭科になる。 とはいえまだ調理実習ではないので、授業として座学を受ける事になっている。


「家庭科かぁ。 最初はやっぱり栄養学かな?」

「そう言うのが多いよね。 調理実習は恐らくゴールデンウィークが終わってからになるんじゃないかな?」

「だろうねぇ。 最初の内は座学なのには抵抗はないけど。」


 そう2人で話した後に授業が始まる。 真面目の予想通り今回は栄養学を学ぶこととなった。 とは言えこの辺りは中学時代の授業の延長線のようなものなので真面目にとってもそこまでの苦労はない。 勿論忘れないようにノートには綴ってはいるが。


 そして午前の授業が終了した。 これから昼休憩に入り、皆がお昼ごはんを食べる所だ。 そして真面目は自分の席を立つ。


「あれ? 一ノ瀬君はお弁当じゃないの?」


 既にカバンから出していたであろうお弁当箱を置いた岬が不思議そうに声をかけた。


「まあね。 今回は学校の購買がどんなものかの視察をしてこようかなって。」

「視察?」

「ほら、漫画とかじゃよくあるじゃん? 「高校の購買は飢えた獣達が集う戦場だ」って。 一歩踏み入れて手足をもがれるかのような抗争の中で果たして自分の目的の品物を手に入れることは出来るのか? そしてこうしている間にも刻一刻と品物が無くなっている今、果たして購買に行って買えるのか、それとも午後は空腹に耐えながら授業をしなければいけないのか。 その狭間に揺れるものに勝利の栄光はあるのか? そう、あれは言わば食への立ちはだかる壁なんだよ。」

「凄い熱く語るね。 一ノ瀬君。」


 つい熱弁してしまったことに我を忘れていた真面目はひとつ咳払いをした後に教室から出る。


「それじゃあ行ってくるよ。 最初だから上手くはいかないかもね。」

「行ってらっしゃい。 私からはアドバイスできることはないけれど・・・」


 それでもなにか声をかけておこうと思ったのか、岬は少し考えた後に、真面目にこう言った。


「まずは怪我がないように、ね。」


 優しい言葉を受けて真面目は廊下に出る。 そして真面目は購買の位置を改めて確認する。 購買はこの建物の1階部分に存在し、別校舎である在校生も利用する。 距離を考えれば新入生の使っている教室の方が近いのだろうが、食に飢えた獣は、どんなに距離があろうとも狙った獲物を放すまいと最速を取ってくる。


 今回は下調べの名目で真面目は購買に行くのだ。 今後利用するかはその購買の状況次第だ。


 そして真面目がたどり着いた購買では、真面目の予想を裏切らない、いや、それ以上の光景が真面目の目に飛び込んできた。

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