とある酒場での出来事②
目の前に置かれた炒め物を見つめる。とても美味しそうだ。
酒を飲みながら料理を見ている男の名はロイド、冒険者だ。
この前まで海底ダンジョンに遠出をしていたのだが、街へ帰る道中に問題が生じた。
道中にゴブリンの群れが冒険者達を襲ったのだ。
ゴブリンはそこまで脅威では無いのだが、問題は彼らの行動だった。
どうやら彼らは物資を、食糧を強奪する為に襲い掛かって来たのだ。
どれだけ強固な守りを作っても必ず死角は生まれる。
奪われまいと必死に抵抗したが、それなりの数の食糧を奪われてしまったのだ。
取り返しに向かおうという提案も出たが、それを却下したのだ。
理由は、量を考えるとギリギリ街まで戻れる範囲だったからだ。
それなら危険を冒して取り返す必要は無いというリーダーの発言によるものだ。
ただ、計算を間違えたのか。一日分の食糧が足りて無かったのだ。
故に、昨日から何も食べていない。とても腹が減っていた。
普段は温厚なのだが、イライラして酒場で声を荒げていた。
そこかしこで怒号が響くのは、皆昨日からご飯を食べれていないからだろう。
店員にはすまないと思っていたが、目の前の料理を見てそんな考えは吹き飛んでいた。
香ばしい匂い、照りのあるベーコンが食欲をそそる。
早く、早く食べよう。いそいそと箸を使いベーコンを摘まみあげた。
口に入れたと同時に味わおうと噛んだ。
「「痛ってええええええええ!?」」
なんだこのベーコン、とんでもなく硬いぞ!?
まるで石を噛んだかの様な衝撃が広がる。
あまりもの衝撃に手にしていた箸ごとベーコンを地面に落としていた。
地面に落ちた箸を拾おうと目線を下にした。
その時、ベーコンと目が合った。しかも二本の足で立っていた。
頭の中の整理がつかない、ベーコンって立つの?ってか目が合うって何?
あまりにも異常な現象に思わず手がベーコンに伸びていた。
それに気付いたのか、ベーコンが脱兎のごとく逃げていった。
「お、おい。待ってくれよ、俺の昼飯!」