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今回は比較的会話文が多めです。
その日、私はとてもそわそわしていた。
今頃、ガイウスはルキウスの家を訪ねているはずだ。
前回のことがあったせいか、ガイウスは私も付いていくという主張を頑なに拒んだ。
私は窓からルキウスの家の方角を眺めながら、大人しくお留守番をしていた。
あの2人が話し合いをしている姿がどうしても想像出来ない。
一体、どうなっているのだろうかー。
「とりあえず、お茶を淹れたけど、吸血鬼って飲めるのか?」
恐る恐る、ガイウスの前にお茶を出すルキウス。
「ええ、液体物なら辛うじて。固形物は消化が出来ないので、体内で腐ってしまいますが」
そうか、とルキウスは顔を引きつらせて答え、ガイウスの向かいの席に座った。
「ガイウスと世間話する気にもならないし、お前達吸血鬼の生態を教えてくれないか」
ルキウスの言葉にガイウスは苦笑いして応じた。
にんにくや十字架が苦手で、招かれないと家に入れないということはない。
しかし、銀製の武器や杭を身体に打ち込まれれば、死んでしまうこと。
日光には耐性のある者とそうでない者がいる。
身体能力は人間の数倍で、蝙蝠に変身出来るなどの特殊な性質を持つものの、不老不死ではなく、人間と同様に老いていくこと。
そして、人間の血を啜ることはタブーとされており、その禁忌を破った多くの吸血鬼が中毒者となり、過激な行動を取ること。
多くの吸血鬼は人間と同様に家畜を餌とすること。
村人を襲っている吸血鬼は、吸血鬼の2割程度ということ。
ガイウスに実態を聞いたルキウスは青ざめた表情をしながら、相槌をうっていた。
「2割…しかいないのか」
「…ええ、多くの吸血鬼は村人の生活を脅かさない為に、山から出ません。しかし、私は貴方を責める気はありません。暴徒化した吸血鬼を制御できなかったのは、見て見ぬ振りをし続けた私に問題がありますから」
ガイウスは一通り、ルキウスに話を終えると、今度は村の現状をルキウスに尋ねた。
小さな村の人口は右肩下がり。その原因は吸血鬼による失血死だということ。
村人は村を出ることが許されず、外部との接触を遮断されていること。
吸血鬼の存在は悪だと昔から言い聞かされており、絵本など多くの物語の悪役は吸血鬼で、幼い頃からそう教えられてきたこと。
山を占領されてる為、自給自足の生活を強いられているにも関わらず、狩猟や山菜を取ることが出来ないこと。
吸血鬼を取り締まる法がない為、無法地帯で村人は怯えながら生活をしなければならないこと。
「閉鎖された村で吸血鬼を縛る法もなく、精神的な負担が後を絶たないということですね」
「ああ…いくら襲っているのがほんの僅かだとしても、他の村に比べたら異常なくらい人が死んでいる。ひと月に20人も人間が死んでいるんだ。村人の吸血鬼に対する不信感はそう簡単には拭えない」
力で制して、どちらかを潰すことは失敗している。
環境を変えるには、もう共生するしか道はないのだ。
「政府に持ちかけるのは無理だろうな。アイツらは俺たちのことを家畜にしか思っていない」
「私達から交渉も難しいでしょう。あの方達は、私達と接触することを嫌がって、この村に閉じ込めたんですから」
所詮、ここの村にいるのは人間だろうと吸血鬼だろうと籠の中の鳥でしかないのだ。
違う生き方をする鳥とどう過ごしていくか。
抜け出せないから、それを考えるしかない。
「村としてのルールを作り上げるしかありませんね。暗黙だったルールを可視化する。それを破ったら、それ相応の罰を与える…例えば日光に耐性のない吸血鬼が村人を襲った場合だったら、森の木に縛って一日放置しておけば灼け爛れますから」
さらっと、とんでもないことを提案するガイウスにルキウスはたじろぐ。
「村人は吸血鬼を襲ったら、牢屋のようなものを作って、そこで謹慎させ、罰金も課すのはどうだ?こんな村だから駐在員しか居ないし、警備を強化したり、罰があり、それを受ける場所を与えれば、気軽に吸血鬼を叩くことはなくなるだろう。こんな閉鎖的な村で悪いことをしたら、噂がすぐに広まって居場所がなくなるだろうしな」
ルキウスが言うと、ガイウスはそれは良い考えですね、と賛同した。
方針が固まった2人は村人と吸血鬼に課すルールを考え始めた。
「警備隊を組みましょうか。吸血鬼と村人を混合させて、24時間体制を整えましょう」
「問題は人材が集まるかだよな。今まで敵対していた連中と組んで警備をする物好きがいるか…」
「…とりあえず、信頼の置ける穏健派な方達にそれとなく相談してみます。そちらはどうですか?」
「俺の方もそうしてみるよ。争いを好まなくて、比較的体力と力があるやつ。昔は村ぐるみで仲良くやってたから、片っ端から当たってみるよ」
ルール1.警備隊は24時間体制で村およびその周辺を警備する。事件が起こった際は、村人だろうと吸血鬼だろうと関係なく罰する。
「では、どんなことを起こした時にその方達を罰しましょうか?」
「互いに危害を与えた時だろうな。人間でいう傷害罪になると思われる事をしたら、即罰すること」
「精神的な危害を与えた場合はどうでしょうか?」
「それも罰するべきだが、それは要相談だな。複数の村人と吸血鬼を集めて判断させて、多数決で決めよう」
「そうですね。とりあえず最初はそうしましょうか」
ルール2.危害を与えたと判断した時点で、罰則を与える。精神的な危害を与えた場合は慎重に判断し、必要に応じて罰則を与える。
「棲み分けはどうしますか?このままでも不自由はありませんが」
「住処はこのままにして、互いの出入りを行き来しやすくするか。吸血鬼でも売り買い出来るようなシステムを構築しよう」
「ただ行き来をするだけでは、警備が大変になるだけですよ。行き来できる時間を決めて、その時間の警備を強化する形にしましょう」
ルール3.吸血鬼は山に、村人はその他で住むこと。互いの縄張りへの行き来は15時から18時の間のみとする。
「…もしさ、吸血鬼と村人が恋をすることになったら、どうする?」
「良いのではないですか?誰を想うかなんて、個人の自由ですよ…私の可愛い妹に手を出したら、許しませんけどね」
「べ、別に、そういうつもりで言ったわけじゃない!大体、あの子はまだ10歳とかそこらだろ…」
「年齢なんて関係ないと思えるくらいに、私の妹は魅力的ですから」
ルールその4.異種間の交際及び結婚を認める。
「とりあえず、ルールはこんなもんか?」
ルキウスは腕を組んで、ルールが書かれた紙を眺める。
「問題はどうやって説得するかですね」
「それなら俺に考えがある」
ルキウスはにっと笑った。
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