ルイーナ、この手を握りなさい
The Sky of Parts[28]
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。
【!】『対話体小説』の読みにくさを軽減させる為、独自の「改行ルール」、「句点ルール」を使っています。
「あれ?
ルイ、共同の風呂を使ったのか。今の部屋、風呂あるんだろ」
「エルリーンは、今からお風呂?
……別に、母上とオレは、共同風呂に行くのを遠慮する必要はないし。
部屋にあるっていってもシャワールームだけ。やっぱり湯船で、足を伸ばしたい」
「まあ、たしかに。その方が疲れがとれる。
うん。
あたしは、今からお風呂。
あ。
明日は、学校休みだし、たくさん遊ぼう。
ルイ……歌の意味、ありがとう。話すの辛いところもあったのに」
「ううん。
エルリーン。
オレこそ、話を聞いてくれてありがとう。
結局、父親とは、今日も口をきいていないけど、同じ部屋にいたくない程、嫌じゃなかった。
というか、珍しく向こうから話しかけてこなかった。
ここに母上と一緒にやってきてから、あの手、この手で、オレの心をこじ開けようとしてきていて……正直、鬱陶しかった。
今日は、二人きりになってしまった時も、あいつは、ファッション雑誌を、読み耽っていた」
「ふーん。そっか。
ま。
とりあえず、文句たらたら言いながら、ルイがたった一人の父親が好きっていうのは、よく分かったから――話しかけてやれよ。
気が向いたらでいいからさ。
――あたしの事は、本当に心配いらない。
しかし、言い方が悪かったらごめんだけど、同情したくなるようなルイの人生を流しつつ、あいつへの苦情を垂れ流しつつ、世界のみんなが望んだように、あいつから権力を奪いつつ、やっぱり親が大好きね。
これって、あれだわ。
ホームビデオ」
「は?」
「他人のお宅の動画ってヤツ。
食堂でご飯食べながら、たまに、ぼけーと見てると面白い。あれの流れだ」
「えっと……ん?
エルリーン……?」
「他人の家の事情とか見てると、へぇ~って思うじゃないか。
まさか、エリオット・ジールゲンの秘密のご家庭事情が、報じられる日が来るなんて――で、世界中の人々が驚いて、ルイを応援したくなってしまったんじゃないか?」
「……は?
まさか……そんな、バカな事」
「ま。
ルイの想いが、あいつから権力を取り上げて、戦争を休止させたんだ。
あっと……そういえば、最初にルイが、この基地にきた頃に、あたしがうっかり言っちゃった事、触れてもいいかな?」
「あれかな……腕を振り上げて、下すやつ……」
「そう……ルイが、Lunaの歌声が、それを止めたんだ。
最初の奇跡。
ルイは、世界のみんなの希望に、その時、すでになっていたんだ。だから、自信を持ってほしい」
「……自信。
そ、そういえば、エルリーン。
惚れ直してくれた……ご褒美をもらう件……あれでいい?」
「あ……ああ。いいよ!
ちょっと、びっくりしたけど。
最初が、いきなり、みんなの前がいいって。
うん。
でも、少し時間があるから――カカシか何かで練習して、備えておくよ……うん」
「カ、カカシ……そ、それなら、いや、なんでもない。
エルリーン、顔が真っ赤だよ。
お風呂入る前なのに……そういえば、お風呂か……いや、なんでもない!」
「ルイだって、顔赤いぞっ。
うん。
でも、今すぐ――と思っていたから、ちょっとざんね……いや、なんでもない」
「……じらし成功かな。
いや、なんでもない! エルリーン、また明日ね!」
* * * * *
「ふはー。
いいお風呂だ。やっぱり湯船で足を伸ばすと最高だ!」
「私も、本当にそう思うわ、エルリーン。
ふはー」
「うわっ! 軍師殿……いつの間に!
いいのか。
女湯だから、女性の軍師殿がいて、驚くのは失礼すぎる。ごめんなさい」
「いいわよ。
私は、エルリーンを驚かすつもりで、作戦を立てて近づいてきたから――貴女は、見事に天王寺アリスの作戦にはまったの!
えっへん!」
「そっか。
あー。
でも、軍師殿と、一緒にお風呂に入るのって、小さい頃以来。
前の基地とは、違う場所だけど、昔は、よくこうやって、裸の付き合いをしたもんだ。
ふはーん。
あ。
そっか、ルイと結婚したら、本当に軍師殿が、おかあさんになってくれるんだ。
不思議だな。
小さい頃、どうにかして軍師殿に、おかあさんになってほしくて、アレコレしたんだけど、ことごとく失敗してたっけ。
で、最後にあたしが捨て台詞みたいに、『じゃあ、あたしが、軍師殿の息子を助け出して、そいつと結婚するっ!』って。
……あはは。
マジ現実になってしまいましたなのか……意外と、忘れてた……はは」
「あったわね。そんな事。
エルリーン、大丈夫?
本当に、ルイーナのお嫁さんになってくれる?
世界レベルで知られているけど、我が家……とは、呼びたくないな、エリオットの奴は、天王寺家の人間じゃないから。
まあ、それは、今は置いておこう。
父親は、あいつですけど、ルイーナが相手でいい?
将来、子供ができると、どうにも、あいつが入ってきてしまうけど――」
「二歳の頃のお風呂上がりのルイのパジャマ姿が、可愛くてさぁ。
肩上の赤髪が、まだ乾ききっていないんだ。
それが、すごく愛らしくて――あんな子供が、手に入るのかなぁ。
楽しみだなぁ。
えへっ。
もらった写真データを眺めながら、ついついニヤニヤしちゃうんだよな。えへっ」
「二歳の頃のルイーナの写真データ?
……『三十二等兵』め。
私の可愛いエルリーンを、密かに買収しているな……」
「そういえばさ、軍師殿。
やっぱり、うちの父さんは、知ってたの? その……あの……軍師殿とあいつの関係」
「……知っていた、みたいね。
あの人とミューリーに、閉じ込められていた軍事施設から、助け出してもらったから――タケと私の会話を聞いていれば、それとなく分かってしまうはず」
「そっか」
「ま。
貴女のお父さんにやられて逃げ出す、不様な竹内イチロウの姿を、ご想像下さい」
「はは。
ザマぁみろだな。整髪料のにおい振りまくスーツにネクタイ野郎っ」
「ありがとう、エルリーン。本当に、私の娘になってくれて――」
「うん。おかあさん」
「ちゃんと、ルイーナの口から、正式に婚約して下さいって言わせるつもりだから。
覚悟して待っていてね」
「覚悟って、へへ。
うん。
あたし、覚悟して、楽しみに待ってる」
* * * * *
「夜風が気持ちいいの? ルイーナ」
「あ、母上。うん、ちょっと眠れなくて――。
母上、その黄色いパジャマ、似合ってる。可愛い」
「ルイーナの薄青いパジャマ姿も可愛いわ。
父さんと二人で、部屋にいるのが嫌だった? 母さんが、お風呂に行っていなかったから」
「……母上は、あの人の事を、そう呼んで違和感ないの?」
「ん?
ああ……ずっと名前で――エリオットって呼んでいたから。
うーん。
たしかに、『父さん』って呼ぶ方が、他人行儀かも。
初めて会って、名前を聞いてから、エリオットは、ずっとエリオットだったから」
「母上、自分の事を『母さん』って言うじゃない。
オレに、本当はそう呼んでほしい?
『母上』って呼び方は、あの人に言われて、そう思い込んでいただけだから」
「自分で、自分を呼ぶ時に、『母上』なんていうのは、私は、仰々しいって思うの。
だから、『母さん』。
――でも、ルイーナに呼んでもらうなら、『母上』の方がいいかな。
タワー『スカイ・オブ・パーツ』に、強制連行された時ではあったけど、ルイーナの口から最初に呼んでもらったのが、『母上』だったから。
それからも、ずっと、そう呼んでもらっているし。
今さら変えられると、母さんも心の準備ができないかも……さっき、会話上で『母さん』って言われて、ドキドキしちゃった。
ドキドキ」
「あははは。
ふざけた事を言いながら、ニヤニヤする時の母上の顔も、大好き。
じゃあ、『母さん』っていうのは、オレも、母上にイタズラしようと思った時に、使う事にするよ!
へへん。
オレ、すっごく、すっごく、イタズラ大好きだから」
「ルイーナは、イタズラっ子ね。
そんな、イタズラっ子なルイーナに、天王寺アリスから任務を与えます!」
「え? なになに? 楽しそうな事なの」
「うん。ルイーナ、耳を貸して――」
「――えっと……母上っ!
それって。
み、みんなを騙せって事?
その……あの……エルリーンも!
ダノンさんも。
……あの人すらも。
タ、タケと手を組んだって……え……え……!」
「そう。その通り。
素敵じゃない。
この天王寺アリスの息子が、すべてを制するって――ダノンには、悪いけど、手駒になってもらう。
軍のバックアップも、あなたが世界の支配者になるのならば、必ず必要だから。
ね?」
「軍のバックアップって……え?
あの……母上っ!
だって、戦争を終わらせるって話で……あれ……母上っ!」
「ルイーナ。
私の計画、今のあなたは遂行したいでしょ――ふふ。
しばらく前から、あなたの心に芽生えていた支配欲にも似た感情、母さんが、満たしてあげるわ」
「でも……は、母上……オ、オレ……エルリーンに、そんな事……」
「できるでしょ?
母さんが、お願いしているんだから。
ふふ。
でもね、ルイーナ。
あなたは、自らの手で、すべてを成し遂げたいと思うはず。さあ、母さんと手を組みなさい。とても、魅力的な案でしょ?」
「あ……でも、この基地のみんなを……タケに頼んで、軍を出撃させるって……母上。
オレ……オレっ!」
「ルイーナ。
結果だけを見なさい。
過程ではなく、得られる結末を見つめなさい。
わき上がる欲望を、抑えつける事はないわ。
母さんの案に対し、拒否は許さない。
さあ。
お返事してちょうだい。
作戦に、参加してくれるわね?」
「……は、はい。母上。
断固、拒否できません……」
「ふふ。
よく言えました。
ルイーナ。
明日の朝、朝食後に決行するわ。軍の方で、陽動作戦が実行され、基地から対象外の人間がすべていなくなる手はずよ。
ダノンはもちろん、エリオットすらも欺騙の対象。
ふふふふふ。
みんな、この天王寺アリスに、謀られるのよ!」
「ほ、本当にタケと手を組んだんだ……母上は、あの人と一緒にいたけど……いつか、復讐してやるつもりだったんだね」
「当然っ!
エリオットめ、この天王寺アリスを敵に回した事、後悔するといいわっ!
あはははははっ。
ルイーナだって、エリオットには、怨みがいっぱいあるでしょ。
母さんと共に、奴が、不様に倒されている様子を眺めてやりましょう!」
「そ、その為に、ダノンさんを手駒として使うって言うの!
オレ、できるかな……いや、でも、欲望を満たせる……ううっ。
みんな、ごめんっ!」
「母さん配下のルイーナ。
よく聞きなさい。
攻略対象の中には、エリオットもいるわ。
今回は、徹底的で完璧な、心理制圧を速やかに成功させる必要があるのは、理解できたでしょ。
火器類を使用するつもりはないけど、制圧射撃作戦を実行するような――敵が、冷静に行動できなくなる、絶え間ない牽制が必要。
その上で、反撃を許さない事が重要よ。
そのように行動する必要があるわ」
「……YES、母上」
「ふふ。
戦というのは、ただ単に、力をもって制圧すれば良いってものではないわ。
討ち取る事が重要な時もあるけど――こちらの都合が良いように精神的に支配して、条件をのませ、降伏を余儀なくさせる!
こうする事によって、その後の有利を勝ち取るの!
敵の行動を阻害しながら、作戦をこなすというのは、弾を、ただ命中させるよりも、難しいと思うわ。
ルイーナ。
あなたに、その覚悟があるかしら?」
「は、はい……母上の為に。そ、そして、オレの為に!」
「ルイーナ。期待しているわよ。
ふふふ。
――これ。
手渡しておくわ。
できたら、エリオットのいないところで、開けた方がいいと思う。
この紙袋の中身に目を通し終わったら、部屋のベッドの下にでも置いておいて。
母さんが、回収しておく。
ああっと。
タケから受け取っているものもあるの。
それは、明日の朝、渡すわ。
ダノンに使ってもらうつもり。
効果は……ふふ……事前に確認済なの!
天王寺アリスとダノン・イレンズが、旧知の仲だからこそ、試す事ができた。
あはははははっ。
もちろん分かっていると思うけど、他言無用で、よろしく頼むわ」
「い、YES、母上!」




