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隔たる問いかけ

The Sky of Parts[27]

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

この物語は、軍事好きな筆者が作った育児モノ。


Web上での読みやすさ優先で、適当に改行などをいれたりしてあります。


【※】少し長めですが、1万文字以下なので分割無しで投稿します。

「僕の顔を見て、敬礼してくる奴がいるとは……しかも、廊下掃除中。

 洗濯物の回収時間がきたので、扉を開けただけだったのだがな。

 今日は、のんびりするつもりが、また、モップとバケツを受け取る羽目になった。

 ……ああ。

 軍用ライフルの銃口を向け、命を狙ってくるぐらいの裏切り者なヤツでも構わんので、わたくしごとの呟きにすら反応があるようなツッコミ担当を、そばに置きたくなってきた。

 ん?」


『うん。

 じゃあ、そっちの歌の話からでいいよ。

 あたしとルイが、初めて出会った時に、歌ってたやつじゃん。ある意味、思い出っていうか、そういう意味で教えてほしいな』


『柱に縛られて、タケの薬を使って、今からお前の人格全否定してやるからなっ、とかも大事件だったけど……オレとしては、父親の正体を知ってしまった日の方が、衝撃的だった。

 あっちはあっちで、生きてきた十年間のお前の人格全否定してやるからなっ、だったから』


「おやおや。

 ルイーナの奴め。

 部屋に顔を出さないと思ったら、そのままお嬢さんの部屋に直行とは。

 二人きりか。

 そういえば、ルイーナは、それとなく知っているのだったな。

 『手を取りあい、夜を共に』の本当の意味を――」


『最初、エルリーンたちに助けられた日の歌は、まあ、いろいろなオレの想いや感じた事が、ごちゃごちゃに詰まってる。

 紙に書き出したような事を考えながら歌った。

 順を追って、説明しやすいから、まずは父親から向けられて、オレが感じた事。

 黙って言う事を聞け、以上』


『説明、みじかっ!

 だけど、あいつの事だから、実際は、長々としつこく、HNEしてきたんだろうな……喋り方が回りくど過ぎるっ』


『それが、独裁の力。

 あいつのカリスマの根源。

 話を聞いているうちに、だんだん自分が分からなくなっていく。

 聞き手は、気づかぬまま話に飲み込まれ、思いが上書きされる。

 恐怖を与えられたり、優しさを与えられたりを繰り返されながら、意味も教えられずに、たった独り。心が、どんどん追い込まれていったよ』


『あー。あたしも、独裁演説攻撃は食らった事があるけど……あの時は、流されないように必死だった。

 今になって考えると、よく乗り切れたって思う』


あと、タケに、身体を押さえつけられた。わざとだったと思うけど、はねのけられる程度に、軽くね。

 父親と一緒のやり方さ。

 タケだって、丸め込んで、人を思い通りに操る方法ぐらいは知っていたんだ。

 だから、二対一。

 目の前には、柱に縛られ、ぐったりとした母上。

 窓の外は、すでにが落ちていた。

 オレをどうするつもりだったか知らないけど――声を奪うだとか言われた。

 それが嫌なら、母上を、母上じゃなくする薬を、オレの手で使えって、完全に目がいっちゃってる父親から命令されたんだ』


『……普通に、怖い体験過ぎるな。

 ルイさ、そのシーンに遭遇そうぐうする直前まで、今夜もボードゲームか、トランプで遊んでもらうつもりだったんだろ……父親に』


『うん。

 十年間、オレは、まぼろしの日常の中にいたんだって。

 母上が、物語を書いてくれていた。

 父親とタケが、悪者だってね。

 冗談だと思って、笑って読んでいたけど……。

 うわっ。

 ガチだったじゃん!』


『ルイの前で言っちゃいけないのかもしれないけど、あたしら世間の人間には、完全に悪者に見えていたよ』


『大丈夫。

 オレも、正体を知ってからは、父親は、悪者だって思っているから。

 ……えっと。

 これ、二枚目の紙。

 書いてあるのは、母上から受け取った想いと、それに対するオレの反応。

 父親の正体を知ってしまって、母上が、いかにオレの事を考えていてくれたのか分かったんだ。

 そういう内容』


『ああ、なるほど!

 軍師殿の優しさっていうか、愛に包まれて、ヘリポートまで逃げてきたんだな……今さらだけど、いや、今だからこそ、あたしは、じーんときちゃったかもしれない。

 ヘリポートに来てくれたルイを、あたしが、ハシゴにつかまったまま引き上げたシーン』


『そうだね。

 あれが、エルリーンとオレの初めての出会い』


『あの日のタワー『スカイ・オブ・パーツ』でのルイの状況は、それとなくは聞いていたけど……改めて、しっかり話を聞くと……あたし、ルイに無責任っていうか、何も分かってなかったとはいえ、いろいろ言っちゃった気がする。

 謝るの遅いけど、ごめんな!』


『ううん。

 不安を吹き飛ばしてくれるぐらい元気なエルリーンがいてくれた。

 見守ってくれているジーンさんがいてくれた。

 好きなだけ泣いていいって言ってくれるダノンさんがいてくれた。

 みんなが助けに来てくれなかったら、この基地に連れて来てもらわなかったら……エルリーンが、Lunaでないオレを知る時は、エリオット・ジールゲンの『息子』になっていたかも。

 そもそも……もう、誰も、オレの姿を見る者がいなくなっていたかもしれない。

 また、存在しない人間に戻されて、鳥カゴの中で眠っているうちに、果てに到達して、絶えていたのかも――』


『この紙に書かれた事を読んだり、ルイの話を聞いてると、歌に込めた想いの深刻さが理解できたよ……。

 作者の気持ちっていうか、意図っていうか。

 ……まあ。

 これ……うん。

 お前、強いわ。

 よく頑張った。

 なのに、軟弱そうとか言っちゃった気がする……マジマジマジでごめんな!

 あとで、諸悪の根源の顔面に、蹴り入れとくから、ごめんなっ』


『……っ。

 オレから、いつもの風景ってやつを奪い去って、さらに、エルリーンを巻き込んで、タワー『スカイ・オブ・パーツ』に連れ戻してっ!

 なんだよっ!

 そんなに、『sagacity』が大事だったのかよ……オレの歌なんか、二度と聞きたくないとか言ったり、歌声をデータとして捧げろとかさ!

 ふざけるなっ。

 あいつ、オレの気持ち……一度でも考えた事があるのかよっ!

 オレのそれまでの人生を、いつか、全壊させるつもりだったなら……なんで、普通の父親なんて演じたんだよ……っ。

 だったら、最初から……独裁者エリオット・ジールゲンの『息子』として育ててくれれば……オレは……あいつについていったよ!

 たった一人の父親だったんだから!』


『ルイ……』


『あ……ごめん……エルリーン……その、あの……』


『いや。

 あたしの方が、辛そうな顔して悪い。

 よし!

 ルイ副班長っ!

 班長命令~っ。

 思いっきり言えよ。

 ここで我慢されて、これから先、毎日、下向いて元気なさそうに過ごされる方が、あたしは嫌だからな』


『でもさ……あいつは、エルリーンのお父さんの仇なんだよ……』


『ルイには悪いけど、あたしは、あいつを一生許さない。

 それは、変わらないって言っとく。

 ――だからさ、ルイの文句。

 聞かせてほしい。

 思いっきり、思いっきりな!

 あたしの心が、すっきりするぐらいのあいつへの文句を、パァッと言ってほしい』


『エルリーン、ありがとう。

 ……うん。

 じゃあ、言うよ。

 オレ、体力もないし、力だって、女の子のエルリーンよりも弱い。

 だけど、意気地いくじがないなんて事はないんだ――』


『ルイ。

 迷わず続きを、言っていいよ。

 本題に入って大丈夫。

 そんな事を聞いて、ルイを嫌いになったりしないから。

 それなら、とっくに愛想尽かしてるだろ?

 ――だから、あたしに、ちゃんと聞かせて。

 ルイの言葉でね』


『……うん。

 あのさ……オレ、きっと、悪政独裁者の息子だって言われながら、命を狙われようが良かったんだと思う。

 それが理由で、果ててしまってもね。

 ――当たり前にしておいてくれれば、良かったんだ。

 隠し育てるつもりなら、最期まで、鳥カゴの小鳥にしておいてほしかった。

 そこで、何も知らず、絶えてしまっても構わなかったんだ……ずっと、同じ人が、父親だって思えるのなら……っ!』


『ルイっ!

 大丈夫か?

 あ……うん。

 いいよ。

 好きなだけ泣けよ……我慢してたんだな。

 机、思いっきり殴って、すっきりしたか……?』


『……ごめん、エルリーン。

 こんなんじゃ、全然、惚れ直してもらえないよね……』


『よく言えました賞やるよ。

 副班長。

 ……前も言ったけど、やっぱり、あたしと一緒。

 ルイは、あいつに父親を奪われたんだよ。

 文句っていうか、ずっと苦しかった気持ち、怒れてきた気持ちは、あの時の歌――タワー『スカイ・オブ・パーツ』から世界に向けて響かせた歌で、聴かせてもらった。

 あたし、ちゃんと、受け取っているよ』


『ありがとう……そうだ。

 これが、あの時の内容っていうか、こんな感じ。

 紙に書いてある通り、数え上げソング。

 ふふ……。

 反省がてら自虐しておくと、あの時、父親大っ嫌いオーラ出していたのに、言われるがままに、数え上げの即興そっきょうする良くできた子なオレ。

 あはは……。

 普通の飴とか、口に押し込まれただけで、勘違いのいい子に成り下がって、誘拐して頂きやすいように、自分から即座に眠ってしまうぐらいだからね……』


『な……ドボドボと涙こぼすなって。

 まあ、真剣泣きしてた時と違って、胸が潰されそうとか思っていなさそうだけど……。

 あ。

 泣くなって!

 受け止めてはいるから、さっきと違う意味で、理解してるから……ね?』


『う……うん。

 ありがとう、エルリーン班長。

 ……うん。

 そうなんだよっ!

 ふざけるなっ!

 この父親野郎めっ!

 みたいな感じになって、歌ったんだっ!

 紙に書き出すと、分かりやすいよね!

 無責任にオレを作っておいて、産んでもらったくせに、母上に逃げられて、オレは、父親とタケしかいない生活スタート。

 タワー『スカイ・オブ・パーツ』上層なんて、住宅物件としては、世界一なところに住めて幸せだろうって……そんな訳ないだろ!

 風呂、トイレ共同のこの基地に来てからの住宅環境の方が、よっぽど良かった!

 しかも、あそこっ!

 居住エリアとは名ばかりの座敷牢だったんだ!

 仕事だって……あれこそ、ふざけてるっ!

 なんだよ、恐怖政治を敷いている独裁者って。

 しかも、人でなしで鬼畜で極悪人!

 当時は、学校には行っていなかったけど……ああいうのって、親の仕事を題材に作文を書きなさいとか、無理だろっ!

 だってさっ!

 世界を恐怖で従えている支配者って書けないだろ!

 おかしいだろっ。

 ……でもね。

 歌っているうちに気づいてしまったんだ。

 あれ?

 オレ。

 この歌で、父親に勝てないか? ってね……だんだん、調子が出てきた。

 付けあがる?

 違う。

 これは、明確な反逆の開始だ……くくく』


『ル、ルイ……きた!

 悪のルイくんのお顔になってますよ……きた』


『どうせ、歌い終わったら、このオレ、消されちゃうんだから――いいじゃないか。

 最期の言葉を言い忘れると、化けて出たくなっちゃうじゃないか……オレの文句を聞けよ、父親。

 この辺りから、制御不能で、不満を垂れ流し、文句たらたらで、歌っていたと思う。

 ……あはは。

 もう、父親からすべての力、奪い取っちゃおうかな……世界とか、オレの方が手に入れちゃおうかな……我ながらぶっ壊れてるなと、録音聴くと思うよ。

 作者自身だから、意図をみ取れるからね。

 父親に逆らうオレ。

 あの時、さようならするハズだったオレが、頑張っちゃったと思うんだ。

 エルリーン。

 一寸いっすんの虫にも五分ごぶの魂って、ことわざを知ってるよね?』


『も、申し訳ありません!

 ルイ副班長!』


『あれ?

 知らないんだ……ひたいに汗を浮かべて、必死に首を横に振ってる。

 この前、学校でも習ったような気がするんだけど。

 エルリーン、授業中に寝てた?』


『ぎくっ!』


『まあ……いいや。

 柱に縛って逃げられないようにしたし、独裁演説駆使して、オレの心の揺さぶりOK。エルリーンが人質で、お人形にされた母上の様子を見せつけて……だけど、オレ、意外と意気地いくじがあるんだよっ。

 根性だってね。

 弱者とあなどるなかれだよ!

 もう、父親いなくても生きていける。

 うん。

 冗談ではなく、本気でそう思ったら、どんどん歌えちゃったんだ!

 あいつが逃げ出してから、エルリーンが点滴抜いてくれて、もう歌わなくてもいいのに、文句が尽きなくて――ふふ……あはは』


『たしかに、あたしが、あの薬を使われる立場に追い込まれていて、何か頑張れる手段があったら、徹底的に抵抗してたと思う』


『十まで数え上げると、また最初に戻って――なんでオレを独裁者の子にしたんだよっ! と、文句が始まる。

 これの繰り返し』


『あれ?

 でもさ、録音聴いたり、当時の状況を思い出してて、気づいたんだけど――あいつが、逃げ出したあとの内容が変化してない?』


『え?

 ……言われてみれば。

 途中から、数え上げ歌じゃなくなっているね。

 エルリーンに点滴針を抜いてもらって、もう消される事はなくなったけど、ダノンさんたちが、助けに来るまでは、歌わなきゃって。

 オレのなまの歌声が、『sagacity』に流れ込んで毒に変化してるのなら、止めちゃダメだって思ったから。

 ……それに、歌っていないと怖かったのかも』


『怖かったと言えば、怖かったな。

 月のない晩だったけど、空に浮かぶヘリが、何機も見えた。

 爆撃で、あいつの執務室の大きな窓に、風穴かざあなが開いたし。

 外に、いくつものが見えた。

 点滴針はすぐに抜けたけど、ルイを柱に縛りつけてるのが、ちゃちなロープとかじゃなくて、全然ロックが解除できなくて……拳銃で撃って壊そうかと思ったけど、万が一、たまが跳ね返って、ルイを傷つけたりしたら、どうしようって。

 やば……。

 思い出したら、怖くなってきた……。

 ダノンたちが、本当に、あたしとルイを助けに来てくれるか分からなかったし、そもそも爆撃でやられたらどうしようとか……最後は、ルイの身体にしがみついて……』


『エルリーン!

 落ち着いて、大丈夫っ。

 怖かったよね……ごめん。

 あの時は、巻き込んでしまって……でも、今は、怖くないよ。ここは、エルリーンが、毎日を過ごしている部屋じゃないか』


『……うん。

 ありがとう、ルイ』


『オレも怖かった。でも、エルリーンが感じていたのとは、違う怖さだったのかもしれない。

 外が、戦闘状態だったのは、歌い続けていたオレも気づいていた。

 ああ。

 これが戦争なんだって、震えあがるぐらいに怖くなった。

 ……あの時。

 小さい頃、何度か見た悪夢を思い出していた気がする。他にも、いろいろな想いがまじっていたと思うけど。

 点滴のせいだったのかな』


『点滴針は抜いたけど……本当に、大丈夫だったのか? あの薬が、ちょっとでも入ってしまったとか、そういう事か?

 ルイ、無事なのか?』


『点滴の件は、絶対とは言えないけど、大丈夫だと思う。

 ことを聞いたダノンさんたちが、あとで、念の為に、器具を調べてくれたけど、作動せずに済んだみたい。

 いやいや。

 違う思い出の話。

 オレの六歳の誕生日だったから、はっきり日付をおぼえているんだけど、すごい悪夢をみた事があって……それから、しばらく同じような夢を毎晩みたんで、忘れられなくなった。

 誰かに、『このままだと、お父さんとお母さんの顔を忘れてしまうかもしれない。助けて』って、言われるんだ。

 すごく怖い場面。

 見える世界が、すべて真っ赤。

 巨大な岩に、男の子が縛られている。なんか、変なチューブみたいなもので』


『……なんなの? その夢、やけにリアルだな』


『最初に悪夢をみた日。

 目をさましたら、タケがいた。

 うちの父親が呼んだらしいんだけど、お酒飲み過ぎたから、点滴で薄めてるって。

 誕生日会をやったんだ。

 父親も、お酒を相当飲んでへばっていたけど、オレも、騒ぎまくったせいで、眠かったから、またすぐに寝てしまった。

 あれだ。

 点滴チューブを、寝ぼけまなこで見たせいじゃないかな。

 六歳になったし、これからは、少し厳しくするって、父親に言われたのも影響してたかも。

 今日は誕生日だから、好きなだけ騒げって言われたけど、明日からは、オレどうなっちゃうのかなって。

 結局、反故ほごにされてしまったけど、いい子にしていたら、次の年から、たぶんだけど――学校に行かせてくれるっぽい話をされていて、オレも、頑張ってみようかなとか、変な緊張感があったんだと思う』


『は? あれ?

 そんな話あったんだ。

 学校に行くって……じゃあ、その時に、ルイをタワー『スカイ・オブ・パーツ』の外に出したり、正式に『息子』ですって展開があった……って事?』


『だったかもね。

 はっきり学校という言葉を聞いた訳じゃなかったし、子供のオレを、からかう程度だったんじゃないかな。

 気づいていると思うけど、オレ、意外といたずらっ子だったので、いい子にさせられる為のダシに使われたんだよ。

 きっと』


『でもさ、良かった。

 いや。

 さっきの話とかも、いろいろ聞いて、受け止めた上だけど、その時に……ルイが、世の中でって意味で、エリオット・ジールゲンの『息子』になっていたら――あたしと付き合ってる、今には辿たどり着いていなかったかもしれない。

 そもそも、友達って形から、出会っていないかもしれない。

 あたし、ルイの事をすごく恨んでいたんじゃないかな。

 お前が六歳って事は、あたしの親は、すでにジーン叔父さんになってる時なんだ。

 で、軍師殿も行方不明になっていたから、あいつに、手を引かれて嬉しそうにしているルイが、最初に見かけた姿だったら……あとから、だまされていたって分かっても、受け止めきれていたのかなって……』


『うん。

 オレも、思うよ。

 あの時に、学校じゃないかなってトコ、行かされなくて良かった。

 エリオット・ジールゲンの『息子』にされなくて、良かった。

 十歳で、エルリーンたちに助けてもらうまで、座敷牢生活で、本当に良かったって思う』


『タワー『スカイ・オブ・パーツ』の中に、ルイがいてくれて良かったよ。

 あの……気づいていなかったから良かったけど、あんな窓の外にしか世界がないのは、本当は大変だったと思うんだけど――』


『ううん。

 エルリーンたちに会えた今では、良かったって、本当に思ってる。

 それに、六歳って、もういろいろ理解していたから、今日から急に、軍人になれとか言われていたら、いろんな意味で、たえられなかったんじゃないかな。

 ぷっ……あはは!

 ついでに、思い出したっ。

 学校っぽいトコ行くって話、だまされたと気づいて、食器棚の皿とか、落として割ってやったよっ!

 あいつが、大事にしてた服、ハサミでちょきんとか!

 すごい嫌な顔をさせてやったよ。

 ザマぁみろって思った!』


『ぷっ。

 ルイ。お前、本当に悪ガキだったんだな。

 ま、それで今でも大人しそうだったり、優しそうだって、思われがちだけど、あたしには、意地悪する!』


『極悪独裁者を困らせる事ばかりするような、幼少時代を送ってきたから、オレは、世界一の意地悪だと思うよ。

 あはは。

 エルリーンが、真剣な顔したり、怖そうな顔しかしないから、少し心配してた。まだ、少し不安そうな顔をしてるけど、元気なエルリーンに近づいてきて良かった!

 ああ。

 昔話の続き。

 やりすぎたのか、部屋の外から鍵をかけられるようにされたり、食器棚とかにロック機能ついたりになったけどね。

 まあ、でも。

 ごめん。

 さっきも言ったけど――たった一人の父親だったから。

 エルリーンのお父さんの仇だって分かっているけど、エルリーンが巻き込まれた、タワー『スカイ・オブ・パーツ』での一連の事件でも……オレ、あいつを心の底から恨みきれていたのか分からない』


『あいつは、間違いなく父さんの仇だよ。

 だけどさ。

 あたしが、その立場だったら――どうやって、父さんを恨みきったらいいか分からない。

 だから、ルイが、それができないって気持ちは、分かってやれるよ』


『あ、うん。

 エルリーン。

 本当に、ありがとう。

 えっと……逆に、今さら、あいつを親として許していいって、みんなが言ってくれても、もう自分の気持ちが分からなくなってしまっているんだ。

 あの数え上げソングで、文句を思いっきり並べてしまったせいかな?』


『あのさ、ルイ。

 あたしの方も、いろいろ、もろもろ忘れて、今は、世界の為にって感じで言うけど――お前、父親の事を嫌いじゃないんだろ?』


『え……あ……うん。

 たぶん、嫌いじゃない。

 でも、好きとかでもないかも。

 小さい頃は、何も知らなくて、そうだっただろうし……親だからと、愛していたと思うけど……』


『歌の後半。

 これ。

 あいつが、軍師殿を連れて逃げ出したあと、ルイ。お前、親に対して、置いていかないでほしいって想い込めて歌ってない?

 も、メロディも含めて。

 歌い方が、切なかった。

 表情も切なそうだったんだ。

 世界で唯一、あたしが、なまで歌っているルイの姿を見ていたんだけど、歌の内容が変わったのって、あたしとルイが、二人きりになってから。

 たぶん、それであってる』


『……母上が、連れ去られたからじゃないかな……それで、不安になって』


『録音を聴きながら、自分でも確認できたりしないか?

 つがいって言葉とか、動物の夫婦って意味じゃなかったっけ。

 この前、学校の先生が教えてくれた気がするんだけど、間違っていたら、ごめん。

 机に突っ伏して寝てる時の夢の中で、教えてもらった出来事だったら、ごめん』


つがいは、鳥の親を表現する時に、よく使うね。

 小鳥の両親。

 ……小鳥の父親も、含まれているって事?』


『そう!

 それに、最後の方は、目の前に戦争が見えていたからだろうけど、『戦争って、本当に必要だと思うの?』。

 そういう、問いかけとして、を作ってないか?

 これは、聴き手の感想だけどな。

 作者の方は、自分で聴いてみて、どうなんだよ?

 あの時は、気がれた様子で歌っていたから、おぼえていないのも本当なんだろうけど、さっき、自分で言っていたじゃないか。

 録音聴くと、意図をみ取れるって。

 作者自身だから』


『あ……うん。

 嫌な思い出が多すぎて、録音、しっかりと自分では聴く事がなかったけど――』


『しっかり、聴いてみろよ。

 というか、この部分を歌ってみてくれないか?

 ……すごく切ないんだけど、とても、きれいだった。もう一度、なまで聴きたい。

 あたし、惚れ直すかも――』


『分かった。

 絶対に、エルリーンを惚れ直させる。ファーストキスは頂くからね』


『ああ。あたしを、惚れ直させたらな』


『歌うよ。

 その前に、み取った意図を言うね。

 オレが、作者本人だから――み取ったあとは、主旨しゅしになるのかな。

 言葉の表現としては、最近、オレが想った事とかも、まじってしまうけど、主旨しゅしは、あの時と変わっていないと思う――』


「……ルイーナ。

 僕は、それは、知らなかった……そうか」


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