なんとかなる
藪の中から、音の元が襲撃してきた。
茶色い毛並み、口元から突き出た白い牙はひしゃげたフォークの様。人間ではありえないほどがっしりとしていて丸みを帯びた体格。鼻の先から臀部までは150センチほどだろうか、大きめのイノシシだった。
「マリグネですの?」
アプフェルが魔法杖を構えながら油断なく尋ねる。
「さすがに、これだけだとわからない」
マリグネと通常の獣の相違点は、人間の攻撃は魔法しか通じないか、人を見ればすぐに襲いかかるか、体のどこかに金色の体毛が混じっているか。細かい点は他にもあるけれど、主にこの三点だ。
身を伏せているので腹の部分が見えず、マリグネかどうかがわからない。
「マリグネでなくても、野生の獣は、下手に刺激したら、襲いかかってくる。この大きさの獣を、無理に相手するのは、避けたい」
今にも剣で襲いかかりそうだったローデリヒをツィトローネが止めた。
「し、しないよ。騎士の名にかけて」
むしろ不安になるんだけど。
このやりとりの間にも僕たちはイノシシと対峙している。
迂闊に背中を見せて逃げれば驚いて襲ってくることもあるし、それにマリグネかどうかを見極めるためでもあった。通常の獣なら驚いて攻撃してくることはあっても、こちらが背を向けずに対峙していれば去っていくはず。
こちらは四人だし、騎士の家系で明らかに強者のオーラを放つローデリヒもいる。
人が獣を恐れるように、獣もまた人を恐れる。
下手に手出しをしなければ、危うきに近寄らずで去っていくはずだ。
だが、目の前のイノシシは引き下がらなかった。
黒い瞳を僕たちに向け、荒々しく息を吐きながら威嚇するように構えている。
「これでは、埒が明きませんわね」
「マリグネであれ獣であれ、文字通り僕たちに明らかに牙を向こうとしている」
アプフェルとローデリヒの言葉で、ツィトローネも腹をくくったのが伝わってくる。
僕も、決断するべきなのだろう。
「うん。倒そう」
自然とその言葉が出て、何の後悔もためらいもなかった。
ズィーベンと戦ったときも生き残ったし、ラ―べと戦ったときも勝てた。
今回もきっとなんとかなるだろう、そんな風に思った。
木々の隙間から見える狭い空が少し暗くなり、森の中を湿った空気が満たしていく。




