昼休憩
ローデリヒはローデリヒで活躍していたが、スヴェンも負けてはいなかった。
大会本部が設置された屋根だけの天幕。その下に置かれた木製の椅子に座り、報告書の束に目を通しながら矢継ぎ早に指示を出していく。
「その案件は教師の方へ」
彼の後輩らしき下級生はきびきびとした動きで移動していく。
「迷子が出たか、何人くらいだ? 身分といなくなった時間を調べて優先順位の高い方から捜索班を向かわせろ」
腕章をつけた実行委員たちが休みなく持ってくる案件を次々とさばいていく。
その指示には一切のためらいもない。
僕がやると案件の多さにパニックになったりどうすればいいかわからなくなりそうだけど、スヴェンには迷いがない。
宰相の家系という、人の上に立つ者として常に下の者から上がってくる報告を対処する訓練を受けて来たのだろう。
「スヴェン様!公爵家の方が挨拶に伺いたいと」
公爵と行ったら王族の親戚クラスだ。
その家格はアプフェルよりもさらに上。さすがに少し緊張した様子が見えたが、スヴェンは少しだけ目を瞑り呼吸を整える。席を立ち、一見地味ながらも仕立ての良さがうかがえる高級な礼装に身を包んだ公爵家の方々を出迎えた。
頭の下げ方、言葉遣い、淀みも隙もない。
国賓や外国の要人を出迎えても恥ずかしくないような訓練を日ごろから受けているのがわかる。
実務能力と礼儀作法、選ばれた人間のみが身につけうる貫禄を感じさせた。
「スヴェン」
公爵家の方々の出迎えを終え、後輩に運ばせた南方産のお茶をティーカップから啜っていたスヴェンに誰かが呼びかけると、スヴェンははじかれたように立ち上がった。
「ち、父上!」
スヴェンの父親はスヴェンよりやや小柄で頭髪にも少し白髪が混じっているがその身から漂うオーラは段違いだ。アプフェルの父親もすごかったけど、スヴェンの父親は静かな山のような別種の迫力がある。
「大会は滞りないか?」
「はい、小さなトラブルは山積しておりますが対処できるレベルです」
「そうか」
それだけを言うと、スヴェンの後輩たちに軽く声をかけて生き、護衛らしき人たちと共に去って行く。
それを直立不動で見送った後、スヴェンは糸が切れたように座りこんだ。背もたれに体を預けたまま、すっかり冷めたお茶を入れ直させることもなく、口をつけていた。
スヴェンもスヴェンで色々と苦労してるんだな。
プログラムが一定消化され、昼休憩の時間となった。
この国では昼ご飯を家に帰って取る人も多いけれど、今回は祭りということもあり会場で食べる子が多い。
豪華なサンドイッチや肉料理を学外から出店している店で買ったり、生徒によっては料理人に弁当を運ばせている人もいる。アプフェルやスヴェンがそうだ。
アプフェルは父親と一緒に家の家紋が入った天幕の下で簡易式のテーブルと椅子をセットし、料理を食べている。背後には執事とメイドが立って控えており、父親をはじめとする家族と歓談しながら上品に食べていた。
パンやハム、チーズに紫色の野菜であるペーツのサラダにナッツ、タルトと言った軽いデザートまでついている。
僕はアプフェルと父親に軽く一礼すると、その場を離れた。




