生まれた意味を知る陰キャモブ
『私、やっぱり八百原が好き! 一回フラれたぐらいじゃ絶対に諦められない――!』
瞬間、俺の視界にそう絶叫する三津島クロエの姿が見えて、俺は首を傾げた。
アレ? 俺、三津島クロエにフラれた? あんなに頑張ったのに?
俺が愕然とするというよりも戸惑って、周囲を見渡すと、どこかの病室の中の一幕であるらしかった。
『八百原は私を助けてくれた! あのゴロツキどもに乱暴されかかってた私を、こんなボロボロになって……! やっぱり好き好きっ! 八百原のことが好きっ!!』
えぇ、そりゃなんかの間違いだ。
三津島クロエをあのゴロツキどもから曲がりなりにも助けたのは俺だぞ。
俺がちょっとムッとしていると、ベッドの上でガーゼと絆創膏を所狭しと顔面に貼り付けた八百原那由太が、困ったような表情を浮かべた。
『い、いや三津島、申し訳ないけれどお前とはやっぱり……!』
『嫌だ、私、諦めない! いつか絶対に八百原を振り向かせてみせる! 一葉さんにも二階堂さんにも走らせない! これは二回目の宣戦布告なんだから!』
……んん? よく見るとこの世界、なんかおかしいな。
なんか現実じゃない、窮屈なコマ割りの中で展開してないか?
そして、「俺」は今、それを見ている、いや、読んでいる――?
『八百原、好きよ! 大好き! こんなボロボロになってまで私のこと守ってくれる人、八百原以外にいるわけない! 私、やっぱりどんな手を使ってでも八百原をオトしてみせる!! 絶対に私のこと、好きにさせてみせるからッ!!』
――不意に、俺は理解した。
これ、多分、「俺」が死んだ後の、本誌での展開なんだ。
やはり、あの場に駆けつけるべきだったのはモブで陰キャの俺などではなく、主人公の八百原那由太だったはずなんだ。
そして、ゴロツキどもにボコボコにボコられてなお、からくも三津島クロエの危機を守りきった八百原に、三津島クロエは惚れ直し、どうしても八百原のことを吹っ切れない自分に素直になる。
ここから始まるべきだった三津島クロエの恋の第二ラウンド、それをこの世界にとってはモブでしかない俺が台無しにしてしまったんだ――。
やっぱり、俺の如きモブがストーリーに絡むべきじゃなかったんだ。
フラれて泣きじゃくる三津島クロエにハンカチなんか渡すべきじゃなかったんだ。
お弁当を対価に三津島クロエを慰めたりしなきゃよかったんだ。
一緒に山に逃げ込んでゲリラ戦を戦おう、なんて、言ってはいけない一言だったんだ――。
そう思うのとは正反対に、「俺」の中で、ムカムカとムカつく思いも、同時に膨らんできた。
ふざけんな、俺があの世界にとってはモブだからってなんなんだ?
あの時俺があの人にハンカチを渡さなかったら、あの日あの人はちゃんと家に帰れたか?
俺があそこで慰めてやらなかったら、誰があの校舎裏で号泣し始めたあの人に胸を貸せた?
俺が一緒にゲリラ戦を戦ってやらなかったら、一人ぼっちになってしまったあの人を――誰があそこまで立ち直らせることが出来たというのだ。
俺はこの世界でちゃんと生きている。
どっくんどっくんと、俺の心臓はたくましく鼓動を続けている。
二本の足があって、どこにでも歩いていける。
つまらないラブコメ漫画のお約束なんて、この手でいくらでも跳ね除け、ひっくり返すことだって――出来るはずなんだ。
もう、あの人はあの人を捨てた八百原那由太のものじゃない。
拾った俺のものだ。
あの、男の子の夢が全部詰まったような爆乳だって。
制服のスカートでは包みきれない大きさのプリチィな尻だって。
天使が手ずから紡いだかのような、輝くような銀髪だって。
全部全部が既に俺のもの、といったって、三津島クロエ本人だって否定しないはずだ。
そう思うと、お前がでしゃばらなかったら本来はこうなってたんだぞ、というのを見せつけられているこの状況が不愉快に思えた。
「俺」は上であろう方向に向かって言った。
「知るかよ、俺が死んだ後の展開なんて。さっさと俺をクロエのところに戻してくれ」
「俺」は「俺」にこの光景を見せつけている何者かに向かって抗議した。
「あの人は俺のもんだぞ。好きとか嫌いとかはどうでもいい、とにかくもう俺のもんなんだ。全部見てたならつまんないことしてくれるな。あれだけ慰めたし、ボコボコにされてまで取り戻したんだぞ。俺にはあの人の隣にいる権利ぐらいあるだろ」
そう、たとえ三番目の、お色気枠のヒロインという設定のヒロインでも。
ラブコメが終わるまで主人公以外の誰かと幸せになっちゃいけない、そんな法はないはずだ。
すぅ、と息を吸って、俺はこの状況を展開させている何者か、おそらくは「俺」を零宮零士に転生させた何者かに主張した。
「主人公が、ラブコメ世界があの人を幸せに出来ないなら、モブである俺が幸せにしてやるんだ。それが俺が転生した意味、俺の役目……それでいいだろ」
決然とそういうと、フッ、と、誰かがどこかで失笑したような、意味深な低い声の含み笑いが聞こえ、真っ暗だった世界に光が満ち始めた。
やれやれ、誰だか知らんが、随分とドラマチックな仕掛けを用意してくれるんだなぁ――。
半ば呆れながらも、転生した俺を今も見守ってくれている誰かに感謝しながら、俺は目覚めていった。
「続きが気になる」と思ったら
お気に入り登録、「★」での評価、
もしくはコメントにて
「( ゜∀゜)o彡°」
とコメントの投稿をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。




