間一髪のお色気枠
猿轡を噛まされ、両手を結束バンドで拘束された私が連れてこられたのは、旧部室棟の片隅にあった、今は使われていないらしい倉庫だった。
雑然と古い道具が散乱する倉庫の中には使い古したマットレスが一枚敷かれており、周囲には如何にもこのゴロツキどもの根城、という感じで、酒だのエロ本だの、この名門学園には相応しくない物品が所狭しと置かれていた。
背中を突き飛ばされ、私はマットレスの上に転がった。
絶対に諦めるな、の意思と共に起き上がって睨みつけると、チャラ男――城ヶ島五郎は何故なのか喜んだらしかった。
「ふふん、ここに連れてこられてもそんな目が出来た子は君が初めてだよ。ここは僕らの聖域なんだ。過去に何人も何人もここに連れ込まれてきたけど、君は過去最高の獲物だ――」
チャラ男がナイフの鋒で私の顎を持ち上げた。
「この期に及んでそんな目をしているところを見ると、君は全てが終わった後で僕らの事を告発する気でいると思う。けれど、ザンネンながらそれは無理な話なんだよなぁ」
ほら、と後ろを示したチャラ男の背後では、既に私に欲情しきっている様子の男子生徒複数人が、スマホのカメラをこちらに向けている。
くっ、と私が猿轡を噛み締めると、チャラ男が薄く笑った。
「この動画をバラ撒かれたくなかったら、ということだ。君は今日から何度も何度も僕らに共有されることになる。それとも、それでも恥を忍んで僕らをどこぞにチクってみるかい? まぁ、そうなったらいずれにせよ君は芸能界にもこの学園にもいられなくなるだろうけど――」
チャラ男はそこで、私の制服のブラウスに手をかけ、一息に力を入れた。
ぶちぶちっ、と音がしてボタンが弾け、ブラジャーに包まれた私の胸元が露出した。
その瞬間、おおっ、と背後のゴロツキどもが声を上げるのと同時に、チャラ男が生唾を飲み込み、ヒュウ、と口笛を吹いた。
「凄いな、本当に同世代の女子高生とは思えない……。これは楽しみ甲斐がありそうだ……!」
「お、おい城ヶ島、何をもったいぶってんだ、早いとこひん剥いちまえよ」
ゴロツキどものリーダー格なのであろう笠島とかいう男が、完全に欲情しきった顔で急かした。
「それと、そいつにいつまで猿轡なんか噛ませてんだ。お前はキャンキャン鳴かせるのが趣味だろ? どうせ誰も来ねぇ場所だ、猿轡を外せ」
「うるさいな、わかってるとも。……じゃあ三津島クロエ君、くれぐれも大声は出すなよ」
そう言って、チャラ男が私にナイフを突きつけながら、左手で猿轡を外した。
猿轡を外された瞬間、私は思いっきりチャラ男の顔に唾を吐きかけた。
ウッ! と呻いて顔を背けたチャラ男の顔に、色濃く怒りの表情が浮かんだ。
「こっ、コイツ――! この期に及んでまだこんなことを――!」
「ふざけんなクズども! どんなに乱暴されたって、私はアンタたちの言いなりにはならない! 三津島クロエをナメんなっ!!」
その怒声に、チャラ男が黙らせようとするかのように私の頭を掴み、マットレスに押しつけた。
それでも私は目だけでチャラ男を睨みつけて罵倒した。
「どんなに穢されたって絶対にアンタたちのことは許さない! 絶対に告発して全員地獄に堕としてやる!! 二度と顔上げて外を歩けないようにしてやるから! その覚悟はあるんだろうな!?」
「そんなこと出来ると思ってるのか……!? 僕らに好き勝手弄ばれる映像が全国にバラまかれてタダで済むと思うな! わかったら大人しく……!」
「ふざけんなふざけんなふざけんなッ! どんな映像がバラまかれたって、私はアンタたちに屈しない! 私の初めては絶対に私の好きな人にしか捧げない! さぁ、やってみろよ、咥えさせられたもの噛みちぎってやるッ!!」
いつの間にか、私の目から理由のわからない涙が噴き出していた。
そうだ、こんなところでこんな形で、こんなクズどもにいくら穢されたって、私は絶対に言いなりにならない。
だって、私には好きな人がいるから。
好きな人がいるなら、私の全てはその人に全て捧げる、それが私の夢なんだ。
いつかその人に本当に愛されてみたいと思うから。
いつかその人と恋人同士として、手を繋いで歩く姿を夢見るから。
私は、無敵の恋する乙女なんだ。
だから絶対に、こんな奴らに初めてはくれてやらない――!!
「おっ、おい城ヶ島、何やってる、黙らせろ! 流石にこんなに騒がれたら……!」
「わ、わかってる……! おい、いい加減にしないと本当に……!」
ゴロツキどもが露骨に焦った声を発して狼狽えた、その瞬間。
「クロエ! クロエっ!!」
――不意に、私が今、世界で一番聞きたかった人の声が、倉庫内に響いた。
はっ、と、その場の全員が入口を振り返ったのと同時に、錆びついた倉庫の扉が開かれた。
嘘、なんで、どうしてここに?
私が呆然とした、そのすぐ目の前で――。
汗だくで息を切らした状態で立ち尽くす、冴えない顔立ちの男の子がいた。
零宮零士――。
私の「戦友」である男子生徒が、私たちを視界に入れ、呆然とそこに立っていた。
「続きが気になる」と思ったら
お気に入り登録、「★」での評価、
もしくはコメントにて
「( ゜∀゜)o彡°」
とコメントの投稿をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。




