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告白されるお色気枠

 お弁当を食べたその後、俺たちが昇降口玄関に戻ったとき。


 おや? と声がして、俺が振り返ると、三津島クロエが大きな大きなため息をつき、自分の下駄箱から一枚の封筒を取り出した。


 それを見て、おおっ、と俺も声を上げた。


 生前は学校なんてほとんど通ったことがない俺でもわかる。


 茶色ではない、真っ白い封筒が下駄箱に――十中八九、ラブレレターと呼ばれるものに違いなかった。

 



「ああっ、また、また手紙が入ってる……! 八百原にフラれてからもう四通目なんですけど……!」

「おっ、おお……! ラブレターって本当に下駄箱に入れるもんなんだな……! はっ、はじめて見た!」

「ハァ、そんな感動するんだったら零宮にあげようか? そんで私の代理で断り入れてきてよ。全くもう、人がフラれた側から次々と……」




 俺なら相手が誰かはともかく、とりあえずドキドキするだろうに、三津島クロエはまるで汚物がなすりつけられたもののように、うんざりとラブレターを見つめている。




「あれ、なんだその表情? まさか嬉しくないのか?」

「嬉しいわきゃねぇでしょう。だってラブレターなんて貰い飽きてるし。自慢じゃないけど、オトコにコクられるたびに十円ずつもらってたら今頃50インチテレビぐらいは買えてるかもだもん。……ハァ、めんどくさいけど一応読むかぁ」




 言うなり、三津島クロエは弁当袋を小脇に抱えて封を開け、中にあった手紙をスラスラと読み出した。




「『今日の放課後四時、旧部室棟の倉庫近くで待ってます』……だって。なによ、なんか随分と変な場所で待ってんのね」

「旧部室棟の倉庫? 校舎から随分と離れてるな。なんでまたそんなところに?」

「おおかた、私にフラれるところを誰かに見られたくないんでしょ。ハァ、本当に私の胸って罪なデカさ、魔性の乳よね……」




 そう言って、三津島クロエは自分の右乳を自分の右手でわしわしと揉みしだいて切なそうな表情を浮かべた。


 うぐっ、と俺が目を逸らすと、三津島クロエが手紙を封筒に戻して胸ポケットにねじ込み、俺を見た。




「ということで零宮、悪いけど、放課後は私が戻って来るの待っててくれる? 秒でフッて帰ってくるからさ」

「び、秒でって……フるにしても考えるフリぐらいしてやれよ。あんまりぞんざいに断り入れると逆恨みされるぞ?」

「なぁにを言ってるのよ。私は今は零宮以外の誰にも靡くつもりないし。私はアンタのことが好きなんだもん」




 ウッ、と俺は再び唸り声を上げ、顔を赤面させながらぼそぼそと抗議した。




「だっ、だから、そういうことをポンポンと言うのは……!」

「なによ、もっと言ってやろうか? 零宮、好き好き大好き、超愛してる。零宮ならこの乳はいつでも揉み放題の吸い放題ウェルカム。将来的には零宮と結婚して子どもは三人はほしい――どう? 私が本気なの伝わった?」

「だっ、だから……! そういうことを簡単に言うな! そっ、そりゃ、お前がそこまで言ってくれるのは正直、嬉しいけどさ……」

「んふふ、素直でよろしい。……ということで、私のこと待っててくれるよね?」

「あーもー、わかったよ。その代わり、あんまり酷いフり方はするなよ。恨まれて刺されたら損するのはお前なんだからな」

「んふふ、りょーかいだよ戦友。いい子してて待っててね?」




 俺の憮然とした返答に、三津島クロエはニッコリと笑った。







「あーもう、誰だか知らないけど、これからコクる予定の相手にこんなクソ広い敷地突っ切らせるなよなぁ……! その時点で完璧にフられるっつーの……!」




 私はブツクサと文句を言いながら、広い広い青藍学園の人気のない庭を歩いていた。


 一応、全国的にその名を轟かす私立名門校である青藍学園は、各種のやんごとなき上流階級の子女や旧華族のお家柄のお坊ちゃまが多数在籍しているため、敷地面積がやたらと広い。


 なおかつ、旧部室棟とは、老朽化して今は使われていない古ぼけた建物が立ち並んでいるうら寂しいエリアで、在校生でも訪れる人はめったにいない。


 そんな場所をわざわざ告白場所に選んでくるということは、相手はよっぽどの甲斐性なしか、それか歩き疲れてくたくたになっている私を見たい変態か。


 いずれにせよ、付き合うどころか友達になるのすらとんでもないやつなのは間違いなさそうだと頭の片隅で考えながら、私は十分ほどもかかって指定された場所に来た。




「旧部室棟の倉庫――ここかな?」




 おそらくは運動部などが使用する運動器具が格納されていたらしい倉庫は一見しただけでボロボロで、鉄製の扉の塗装は剥げ、色濃く錆が浮いていた。


 倉庫自体も相当に古めかしく、ところどころ壁面が崩れかかっていて、お世辞にも甘酸っぱい青春の1ページには加えられそうにない、告白場所としては相当に冴えない場所である。




 倉庫周辺には、人影はなかった。


 こんなところに人を呼び出しておいて、先に来て待ってないのかよ――。流石にちょっとムカっとして、私はきょろきょろとあたりを見回していた、その時だった。




 ふと――ピリッ、とこめかみに突き抜ける、殺気としかいえない気配を感じた私は、眉間に皺を寄せた。




 見ると、人気のない部室棟の脇から、大きく制服を着崩したガラの悪い男子生徒が、ゆっくりと歩み寄ってきた。


 はっ、と背後に視線を走らせると、似たような風体の男子生徒が更に二人、どう考えても友好的とは言い難い雰囲気で近づいてくる。


 素早く周囲を確認すると、男子生徒が合計五名、私にのしのしと歩み寄ってきて、あっという間に私は取り囲まれてしまった。




 ああ、チクショー。


 私は純真な恋する乙女でありすぎた、数時間前の私を呪った。


 旧部室棟の倉庫。そんな辺鄙な場所を告白場所に指定してきている時点で、ちょっと考えればわかったはずの悪意が、男たちの肉欲に濁った白目には色濃く浮かんでいた。





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