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私の夫を殺してください  作者: 三愛 紫月


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まさかの人物

「次の方、どうぞ」

「先生、今日は目尻の皺が気になり出したんです」



 私は、宮森さんが鞄をロッカーに仕舞わない人であることを知っている。

 神倉院長と施術の話をしている時に、宮森さんが鞄を取りにきたのだ。



 その時に聞いた話が、神倉医院の前に働いていた病院で、ロッカーに置いた鞄の中からお金を盗まれたことがあったからだと話してくれた。


 犯人は、同僚だったこともあり。

 宮森さんは、あれから心配性になったのだとか。

 神倉院長は、診察室の中に鍵の掛けられる小さな棚を設置している。

 その棚に宮森さんの鞄を仕舞えるように……。


 診察中、鞄を取りに来る時は嫌だったなーーって言うのを今、思い出した。

 でも、そのお陰で宮森さんと話すことになって。

 だけど、今、役に立っているのだからよしとするか。

 過去の私よ、ありがとう。



「じゃあ、手術予定日を受付で取ってくださいね」

「はい、ありがとうございます」



 診察が終わり、次の人が呼ばれる。

 


「先生」

「また、君か。診察中に来るのはやめてくれ」

「どうして話してくれなかったんですか?」

「何をだ?」



 もしかして?

 来た?



「彼女が、芽衣子だってことをですよ」

「もし伝えていたら、君自身も。名乗っていたのか?」



 神倉は可笑しそうに笑いながら「無理だろうね」と言った。

 


「どういう意味だ?」

「惹かれ合うのは運命だったんだ」

「運命?それは、あんたが作った」

「私は機会を与えただけだ。その先に進んだのは君じゃないか?」

「ふざけんな!」



 受付の人達が異変に気づき入ってくる足音がする。


「警察呼びますよ」



 そう言われて西山は出て行ったようだ。

 機会を与えたということは、私と同じだったということ?




「院長、大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫。恨まれることはよくあるから」

「でも……」

「次からは、彼を見つけたら通さないでくれるかな?」

「わかりました」

「ありがとう」


 

 神倉は、次の患者を呼ぶように伝える。

 それからは、ただ患者がやってくるだけでたいした収穫は得られなかった。

 

 宮森さんが帰る時間だ。

 私は、急いで階段を降りて。

 回収するために、宮森さんを待つことにした。




「あら、久間さん」

「宮森さん、こんばんは」

「珍しいわね。こんな時間に合うなんて」

「これが食べたくなっちゃいまして」

「あらーー、奇遇ね。私も食べて帰ろうと思うの。よかったら、一緒に食べない?」

「もちろんです」



 19時半にこの店で焼き上がるチョコバスクチーズケーキ。

 宮森さんは、出勤した時はそれを食べて帰るのだ。

 ほろ苦い中に、甘さが隠れているケーキで。

 疲れた時や嫌なことがあった日に食べるだけで、何だかホッと出来る。

 しかも、焼きたてのプルプル。

 ひとくち頬張るだけで、幸せになれるのだ。


 お会計をして4人がけの席に座る。

 宮森さんの鞄からスマホを回収するには、トイレに行ってもらうしかないかも。




「結婚生活は順調?」

「ええ。幸せです」

「それは、よかったわ。久間さんも、神倉院長の紹介だったわよね」

「で、ですね」



 ぎこちない笑顔にならないように頑張って笑ってみせる。




「神倉院長のお陰で、結婚した人多いのよーー。その人に合う人をしっかりリサーチして見つけてきてるんじゃないかって噂なのよ」

「そうなんですか」

「そうらしいの。あっ、ここだけの話なんだけど。だいたい結ばれる人は、神倉院長の患者さんだったりするから。おいしい」



 宮森さんの話だと、神倉はリサーチをしてるってこと?

 それで、自分の患者同士を引き合わせている?

 だとしたら、何のために。




「これは、あくまで噂だから気にしないでね」

「あっ、はい」

「出会いを用意してくれたのは院長だけど。選んだのは、自分たちの意思じゃない。久間さんもそうでしょ?」

「……そうですね」



 確かにそうだ。

 神倉は、出会いを提供しただけ。

 夫を選んだのは、私の意思だ。



「そうよね。だって、人の気持ちまでコントロール出来るわけないものね」



 コントロール?

 もしかして、私は自分の意思で選んだわけじゃなかったってこと?

 でも、そんなことどうやって。

 



「少しお手洗い行ってくるわね」

「どうぞ」

 



 宮森さんはなにも警戒することなく鞄を置いてトイレに向かった。

 見えなくなった瞬間に私はスマホを回収した。

 

 もし、夫を選ぶようにコントロールされていたとしたら?

 神倉は、私が夫にいじめられていたことを知っていたってことになる。

 でも、それを神倉に聞いたところで教えてくれるわけがない。



「ごめんなさいね」

「いえ」

「久間さんは時間大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「そう。それならよかった」

 


 宮森さんの顔が曇っているのがわかる。

 神倉が本当にコントロールできるとしても、証拠はどうやって手に入れる?



「あの」

「なに?」

「他に私みたいに神倉先生に紹介されて結婚した方っているんでしょうか?」

「そうね。いるわ。確か、20組ほど」

「20組もですか……」



 調べるにしても多すぎる数に小さくため息をついた私を見て宮森さんは「久間さんと同じ時に結婚した人がいたわよ。内緒だけどね」と言った。



「同じ時って」

「1年前にね。先生が紹介したワインの試飲会に言った子が結婚したのよ」

「その方は、うまくいっているんですか?」

「そこまでは、ごめんなさい」

「そうですよね。守秘義務がありますもんね」

「ごめんなさいね。あっ、私、そろそろ帰らなくちゃ」

「引き留めてしまってすみません」

「いいの、いいの。楽しかったから、それじゃあね」



 宮森さんが帰って行くのを見送ったあと。

 私は、スマホを開く。

 ワインの試飲会……そう多くあるはずはない。


 調べるとすぐに見つかった。

 私が料理教室に行った次の日にある。

 ってことは、私と同じ日に招待状を渡されている可能性が高い。

 過去に戻って、その人に接触することができれば名前がわかる。

 名前がわかれば、こっちに戻ってきた時に調べられる。


 これを月城さんに教えてあげなくちゃ。

 待ち合わせには、まだ早いけれど私は店を出て向かうことにした。

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