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私の夫を殺してください  作者: 三愛 紫月


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5/5

準備開始

 帰宅するとすぐに自室に入る。

 書き置きをするために、レターセットを取り出すとすぐに手紙を書いた。

 書き終わるとすぐにリビングへ向かう。


 ダイニングテーブルの上に手紙を置きながら周囲を見渡す。




「愛していた」


 ポツリと呟いた言葉が静まり返ったリビングに吸い込まれていく。

 どれを見ても、どこを見ても。

 私は、夫を愛していたのだ。

 この空間は、私が夫を愛していた場所。



「ここにいたら私……」



 壊れてしまうと直感で感じた。

 ここに夫が帰ってきたら。



 夫への愛情は少しずつこの手から溢れている。

 それなのに、今さらここで向かい合うことなど出来るの?

 


 夫を愛していた空間に、夫を殺して欲しいと願った私がいる。

 正反対な想いは、私を壊すのにピッタリだ。


 



「無理。こんなの無理」



 置くはずだった手紙を持って自室に引き返す。

 すぐに出て行かなくちゃ。

 だから。


 すぐに手紙を書き換える。

 こんなに急ぐなんて、まるで従姉妹が重病みたいだ。

 それでも。

 ここから離れたい。

 すぐに。


 手紙を書き終えるとすぐに荷物を積める。

 持っていく服や鞄は夫との思い出がないものにした。

 夫が帰ってくる前にさっさと出なくちゃ。


 リビングに向かって、手紙を置く。

 結婚したいほど愛している人で。

 きっと、この先。

 同じような感情は手に入らないかもしれない。


 いっそのこと段ボールを掃除し始めた過去に戻って。

「部屋に入るな!」と忠告する?


 そんなことをしたところで。

 いつかは、夫の正体に気づくのだ。

 気づいて、また絶望したとしても。

 その時には、月城さんはいないのだ。

 


 迷っている暇はない。

 自室に戻って荷物を持つ。

 私は、過去に戻って人生をやり直す。


















「な、何で?」

「どうしたの?その荷物」


 何故、今日に限って夫が早く帰宅してきたの。

 


ーーもしかして!?

 これも、先生が仕組んだこと。

 だとしたら、私はずっとあの医者の手の中で踊らされていたってこと?



「どうしたの?」

「えっ、あっ。従姉妹がね」

「また失恋して死にたがってるの?」

「あっ、うん。そうなの」

「そっか……それなら急いで行ってあげなきゃ」

「ご、ごめんね。落ち着いたら、すぐに帰ってくるから」

「わかった。気をつけてね」

「行ってきます」



 従姉妹は失恋する度に、死にたくなるタイプだったのを思い出した。

 いろんなことにドライな彼女だけれど、好きな人には違う。

 全てをさらけ出しのめり込むタイプだから。

 振られた時の落ち込みようはすごいのだ。

 まあ、数日すればケロッとしちゃうタイプでもある。


 夫と付き合っていた時も2度ほど「死にたい」と言って連絡がきたことがあった。

 そのことを私はすっかり忘れていた。

 だって、最後の連絡があって駆けつけてからは、もう1年以上は経っているのだから。

 今回は、従姉妹に助けられた。



 早足で家をあとにする。

 夫の笑顔が好きだった。

 だけど、さっき見たら。

 体が震えた。

 あんなに大好きだったのに。

 今は、得たいの知れない怪物のように思えた。

 これから向かう過去の私は、何も知らずに生きている。

 過去を変えたところで、戻ってくるのは、今の私だ。

 

 夫に出会わなかったとしても。

 夫があの男であるという事実を私は知っているし。

 何も、変わらないのだ。



 だとしても。

 駅のコインロッカーにスーツケースを預ける。

 何も変わらない未来だとしても、私は過去を少しは変えたい。

 だから、何かヒントになるようなものを……。





 神倉医員で情報を掴むしかなさそう。

 今の時間だとまだ診察が始まってはいない。

 だとすれば……。

 でも、盗聴機をすぐに用意出来るわけじゃないし。

 

 あっ、そうだ。

 



「久間さん」

「偶然ですね。宮森さん」

「今日は、院長先生に用事ですか?」

「いえいえ。ここのコーヒーが飲みたかったんです」

「まあ、そうなのね」



 宮森さんは、午後から神倉医院で働いている看護師さんだ。

 午後からと行っても、宮森さんが出勤するのは夕方の17時を回った頃。

 それから、2時間だけ働いて帰宅する。

 理由は、母親の介護をしているからだと言っていた。

 ご主人が帰宅するから入れ違いに宮森さんが神倉医院に出勤するのだ。

 日中もヘルパーさんが来てくれる時は、神倉医院に出勤している。

 介護は、何かとお金がかかるのだ。


 私は、椅子に置いてある宮森さんの鞄に自分のスマホを忍ばせる。

 昔、夫が義母に私の悪口を言っているんじゃないかと思って利用した方法を使わせてもらう。

 神倉医院の非常口の階段にいれば、確実に盗聴できるはずだ。

 失敗した場合は、仕方ないけれど。

 試す価値はある。

 

 スマホを回収するのは簡単だ。

 19時15分に宮森さんは、またこの店にやってくる。

 その時間になると、このカフェで売っているドーナツやサンドウィッチが3割引になるからだ。

 その時に鞄から取るか。

 宮森さんになくしたと素直に伝えればいいだけだ。





「久間さん、メンテナンスにはこなくちゃ駄目よ」

「わかってます」

「定期的にしなくちゃ、全体的に下がってきたりしちゃうからね」

「はい」

「まだ若いから大丈夫だと思うけど。あっ、もう行かなくちゃ。またね、久間さん」

「また……」



 宮森さんを騙すのは、心苦しい。

 神倉医院の看護師さんの中で、一番優しく接してくれた人。

 困ったことがあったり、不安なことも、相談にのってくれた。

 そんな人を騙すなんて。

 本当に辛い。



 でも、何か証拠を掴まなくちゃ。 

 過去の私は納得しない。

 宮森さんが店を出て10分後。

 私は、ココアを買って店を出る。

 たぶん、上手く行くはず。

 神倉医院の入っているビルにつき、非常階段を登る。

 

 大丈夫、絶対にうまくいく。




ーージジジ

ーージジジ


 階段を上がっていく度にノイズ音が強くなる。

 大丈夫。

 この感じだと絶対に音声が聞けるはず。


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