飛ばされたけど、テンプレとは当たり前だろうか!
夢だろう。
暗い、暗い世界に俺はたたずんでいた。
元から何もないはずなのに、時折何か失っている気がする。
光を見ても見たことすら次の瞬間には忘れている。
そんな夢――
意識が戻る。
知らない天井? そんなの咄嗟に言えるわけないだろ。
仮にここが病院とか、家の中ならば、知らない枕だと、俺なら言うだろう。
自慢じゃないが俺は寝相がいいとは言えない。朝目が覚めると決まって目の前には枕がある。よって、おれが最初に見るのは天井ではなく、枕のはずだった。
「知らない地面だ」
俺はベッドに横たわるでもなく、地面に寝そべっていた。
辺りを見回す。
木々が生い茂っていることからここが森だと容易に判断できる。
「どうしようか」
立ち上がって土をはらう。
「とりあえず、歩くか……」
しばらく歩くと木々が少なくなり、石で作られている街道を見つけた。それをたどって進むと、やがて大きな街が見えてきた。
「行列? まさか……」
入り口らしき門にならんでいる人だかりを見つけ、足を早める。
近くに行くと、門番が入っていく人に話しかけ、硬貨を受け取っていた……。
咄嗟に、ズボンのポケットに手を当てるが、当然のごとく何もない。どうしよう……。
ええい! こんなときは素直に言えばなんとかなるはずだ! 多分!
話を、と駆け寄る。
「あの、すみま――」
「順番だ。後ろに回れ」
「いえ、その……はい」
結果、無理だった。あの目に逆らうとどうなるかが容易に想像できる。
あの目はあれだ、いじめてきた先輩と、同じ目をしていた。関わっても、ろくなことがないに違いない。
仕方がないので、列に加わる。
とにかく、とても待った、とだけ言っておこう。
「名前は?」
と、不躾に聞いてくる。
「レト・アルトレアです」
「通行料、銅貨三枚」
右手に持っているボードに俺の名前を書き込んで、左手を前に出してくる。
「……どうした? さっさと出せ」
「いやーその、ちょっとした出来事がありまして、手持ちがないんです」
「あ? ちっ、寄るなよ貧乏人がよぉ」
手でシッシッと払いのけられるが、こちとら今日の昼飯すらろくに食べずにここまで歩いてきたんだ。そう易々とは引き下がれない。
「せめて、どこで働けるか教えて下さい」
「粋がるなよテメェ!」
俺に向かって拳を振り上げる。咄嗟に手で顔を隠す。
ゴスッと、鈍い音が響く。しっかりと閉じていた目を開けると、門番は目の前から消えて、数メートル横に倒れていた。
代わりにそこにいたのは辺りと比べても背が高く、しかし痩せてはいないのに目の熊からゲッソリした印象が漂う男だった。
「はぁ。また書類が増える……。ごめん、君だよね、うちの部下に絡まれたのは?」
「は、はい」
「ごめんね、なんか。出来れば事後処理の協力をしてもらえればと、思うんだけど、いい?」
「は、はい」
何が起こったのだろう? 結果から考えればこの人が門番をから俺を助けてくれたのだろうが、体格的に門番のほうが強そうに見える。
「はぁ、僕ねこの仕事やって結構経つけど、未だに、初めてあった人からそんな顔で見られるんだよ、毎回。そんなに弱そうに見えるかな? ま、いいやこっち来て」
と、門をくぐってすぐのところにある小屋に案内される。
「その、お金持って無くて……」
「なるほど、それでか。うん今回はこっちが迷惑を掛けたし、今回の通行料の免除と、いくらかの慰謝料は払うよ。あいつの給料からね。……あ、ちょっと待って、はいこれ。これをギルドに行ったときにでも職員に渡して。紹介状、仕事するなら必要でしょ?」
と、封筒を渡してきた。
「ありがとうございます! どこに行けばいいのか迷っていたので、助かります。早速行ってみます!」
「ああ、何か困ったときにはおいで。もう行ってよし! なんちゃって……」
「ありがとうございました。助けてくれた上、紹介状まで……本当に、この借りはいつか返します」
思ってたより早くまともに暮らせそうだ。俺は軽い足取りでギルドとやらに向かう事にした。
「はぁ、本当、危ないところだって。なんでそう、君はすぐに暴力に走るのかなぁ? 上司としては見過ごせないよ。僕が入らなかったら死んでたよ、君が。ね……」
と、今回唯一の被害者に優しく話しかけるが、周りの警備員は少し、後ずさった。
何せその男、肋が折れ、気絶していたのだから。
「? 何をじろじろと、早く仕事に戻りなさい」
「あ? ここはお前みたいなガキが来る所じゃねーよ。帰って母ちゃんの乳でも吸ってな」
これがギルドに入った時の反応である。テンプレである。
こんなときは無視に限る。ほら、もう俺に興味が無くなって……ない、だと!?
「無視してんじゃねーよ!」
「え、っと、俺です……よね。何でしょう?」
素直に認めよう。テンプレよお前の力は偉大だと!
「お前、顔がちょっといいからって調子に乗ってんじゃねえのか、あぁ! テメェみたいなのはなぁ、年上に対する礼儀って物をわきまえてないから俺みたいなやっさしい男に指導を受けるのは当然だよなぁ」
わーい、顔がいいって言われた、やったぁ。
「チビだけどなははは……ぐぼぇ」
わーい、上手く腹に入った、やったぁ。
さて、冗談はさておき、今ので完全に注目されてしまった。これが吉となるか、凶となるか……。
「あ、あれか無視される感じのやつか……そんなにガン見されても反応に困ると言うか、無視するならいいからちゃんと無視して? 受付、行ってもいいよね」
「ひ、ひゃい!」
吉になりすぎて裏返ってきたなこれ。受付の人にさえ……。
「ここって冒険者ギルドで合ってるよね?」
「ひゃい」
「登録したいんだけど……いい?」
「ひ……」
あ、倒れた。誰か居ないかな……職員の人……。
「誰かー」
「はーい、あらあらあら新人ちゃん! 何があったか聞いてもいいですか?」
奥の扉から女の人が出て来て、とりあえず、と奥の部屋に連れて行かれる。
奥の部屋、会議室のようなところでいろいろ話を聞かれた。
「冒険者って荒っぽい人が多いのよね。でも皆が皆そうって事じゃないからね」
だそうだ。喧嘩とかも結構あるらしい。でも、
「あの人、ここ辺りの両手で数えられる位しかいないCランク冒険者なのよ。実力はBランクとも言われてるけど、今回見たいに問題を起こしてるから『Cの問題者』とかあだ名をつけられるのよ」
「そうですか。俺、冒険者登録しに来たんですけど……これを」
さっきもらった紹介状を取り出して渡す。
「ああ! それで絡まれたんですね。あの人は、出る杭は打つじゃなくてねじ伏せるみたいなところ、ありますからね。登録は今すぐしますか? それかまたの機会にしますか?」
「今すぐお願いします」
物価は分からないが、慰謝料として貰ったのは銀貨三枚。精々一週間程しか暮らせない額だったはず、また強欲の書で調べておこう。
「この針で指を刺して、この板に血を垂らして下さい。それが終わったら登録完了です。去年までは書類とかあったんですけど、めんどくさいって声が多数上がりましてねー」
「そうなんですか、……はい、これでいいですか?」
「はい! これであなたも冒険者です!」
冒険者になるのは意外に簡単だった。




