【おまけ そのよん】岬家長女目線
お久しぶりの投稿です。
二人の長女・桃目線です。
私の名前は桃。
岬家の長女、中学二年生です。
そして私には三人の弟と二人の妹がいます。もちろん両親も。
岬家は、毎日とっても賑やかです。
今日は私の通う中学校の創立記念日で、休校です。
この日に会わせて休みを取ってくれていた母と一緒に、お菓子作りをしていました。
母は料理がとても上手で、今日はアップルパイの作り方を教わりました。
突然「お菓子作りを教えてほしいの」と言った私の思惑に気づいているのかいないのか、母は機嫌よく鼻唄混じりに教えてくれました。
今は、出来上がったアップルパイを二人で味見しているところ。私が淹れた紅茶を母は幸せそうに飲んでいます。
「ねえお母さん」
「なあに?」
「どうしてお父さんと結婚したの?」
母は驚いたように目を瞬かせました。自分の母をこう言うのもなんですが、とても愛嬌があって可愛いです。父が未だに母一筋なのも無理はないと思います。
一度、小学校六年生の弟、楓が反抗期からか母に「うるせえババア」と言ったことがありました。
私も弟妹も、可愛らしい母が大好きですが、高学年男子ともなると友人から色々言われたりもするのでしょう。ちょっと悪ぶってみたわけですよ。ええ。
その時の父の怒りは凄まじかった…。
普通は、いや普通の日本人の父親は、「母親に向かってその口の聞き方は何だ!」みたいに叱るじゃないですか。
うちの父は違いました。
「てめえ、俺の妻に向かってババアだと? 歯ぁ食い縛れ!」
…そうです。俺の女に手を出すな、的な叱り方をしたわけですよ。
特殊ではありますが、お年頃な娘の私にとっては、「え、お父さんカッコいい」ってちょっと思いました。
そして楓は予想外の展開に涙目でした。楓だけでなく、弟たちは皆父親が大好きです。スポーツ万能でイケメンで、家族の贔屓目を差し引いても格好いいんです。そんな尊敬して止まない父に、父親としてではなく大人の男として、図らずも売った形となった喧嘩を買われれば、さぞ怖かったでしょう。
ですが、そんな空気を変えるのも、やはり母で。
「楓、今のは反抗期ですか! 反抗期ですよね! きゃああとうとう息子の反抗期という名の成長を目の当たりにできるなんて! お赤飯炊かなきゃ!」
…父親以上に斜め上の反応に、さすがに開いた口が塞がりませんでした。ええ、家族全員。
そんな母に、父が言い返します。
「いやちょっと待てひまり! 今日は鍋にするって言ったじゃねえか! もうスーパーで材料買ってきたのに!」
子どもたちは全員、心の中で突っ込みました。
そこじゃねえよ! と。
「大丈夫です隼人くん。両方作りますから!」
母はご機嫌です。どうやらお赤飯を炊くことは確定したようです。
ちらりと楓を見ると、何だか遠い目で窓の外を見つめています。あ、ちょっと泣いてる。
わかるよ楓。親への反抗という思春期特有の行動を大っぴらに祝福されるほど虚しいものはないよね。でも父の怒りが何となく落ち着いたので安心もしたんだね。
楓の一つ下の弟、紅葉はそんな両親と兄を見て青ざめています。
紅葉はきっと今こう思っている。この家で反抗期を迎えるなら、相当の覚悟がいるのだと。
きっと紅葉は兄の悲劇から学び、下手な反抗期は迎えないでしょう。
そして楓の反抗期も、この日で終わりました。そうだろうね。まさかの形で心を折られたね。
この日の出来事を教訓に、楓と紅葉は母親に喧嘩を売ってはならないことと、女性に乱暴な言動をしてはいけないと認識したようです。
母や私、九歳の双子の妹の苺花と双葉にも優しくなりました。
岬家の女性陣にとっては良いことづくしでしたが、母はあっという間に反抗期が終わってしまってしょんぼりしてました。本当に変わっています。
話を戻しましょう。
どうして母が父と結婚したのか、という私の質問に、母は笑顔で言いました。
「成り行きですね!」
「ええ!?」
まさかの答えです。成り行きで結婚した夫婦が、子どもを六人ももうけていまだにラブラブとか有り得るの!?
「付き合ってもいなかったのに、売り言葉に買い言葉というか…。ジュエリーショップに連れていかれて、好きな結婚指輪選べって言われたんですよ」
何と!
積極的と言っても良いのか?
というかイケメンの父の割にはスマートではないというか…。
「そこでケンカになって、そうそう私、隼人くん…、お父さんにがっかりイケメンって怒鳴りましたね」
がっかりイケメン! 今の話で行くととてもしっくり来る言葉!
「それで、どうなったの?」
「婚約指輪と結婚指輪の両方を買いました」
「何その急展開!」
前々から、うちの両親変わってるとは思ってましたがここまでとは!
母はどうしてがっかりイケメンのがっかりプロポーズを受けたんだろう?
だけど思い出話をする母は何だか幸せそうで、詳しい話は分からないけどこれだけはわかります。
母も、父が好きだから結婚したんだと言うこと。
当たり前だけれど、何だかすごい。
そんなことを考えていたら、母がにこにこしながら今度は私に聞いてきました。
「で、桃の好きな人はどんな人?」
危うく紅茶を吹きかけました。不意打ちです。
「な、何で急に」
「突然お菓子を作るなんて言うから、ねえ?」
くっ、いつもおっとりしてどこかずれているのに、こんな時ばっかり勘が良いと来ている!
…正直に言うと、ちょっと親には言いづらいお相手です。
反対されたら、とか、否定されたら、と思うと、言うのは勇気が要ります。
だけど、目の前の母はとっても穏やかに微笑んでいて。
母は、大抵のことを受け止めてくれます。今回も、大丈夫かもしれないし。
「…葵の保育園の先生」
母の大きな瞳が、さらに大きく見開かれました。
葵は一番下の三歳の弟で、両親が共働きのため今年から保育所に入っています。
私ももう中学生なので、時々お迎えに行くんです。
その時に出会った保育士さん、杉原先生と言うんですが、…一目惚れです。超タイプです。
否定されるかもしれない、とどきどきしてたけど、母は予想外に満面の笑みを浮かべました。
「やっぱり桃も面食いでしたね!」
「えっ、そこ!?」
思わず突っ込みました。ていうか。も、って何だ、も、って。
「桃のおばあちゃん、明美ちゃんも面食いなんですよ。で、私と隼人くん…、お父さんが結婚のお許しをもらうときも、イケメンだから即OKしちゃった! って言われましたねぇ」
おばあちゃんは孫がいるとは思えないほど若々しい人です。
おばあちゃんって呼ばれたくないようで、孫は全員「明美ちゃん」と呼んでいます。
お父さんにも呼ばせようとしていましたが、そこはお父さんが断固拒否していました。
…そう、杉原先生はイケメンです。
現在二十四歳。私より十も上です。
笑った顔が人懐っこくて、小さな子どもたちと遊んでいるところなんか、もうたまらんのですよ。
はっきり言って、絶対にモテると思います。
何なら子どもたちのママたちも色めき立っています。…ライバル多しです。
相手になんてされないことは分かってますけど、好かれる努力はしたいじゃないですか。それが乙女心というものです。
「杉原先生、甘いもの好きなんですか?」
「そうみたい。疲れてるときとかつい食べちゃうって言ってたから」
母はにこにこしています。反対はされていないみたい。よかった。
「桃は器用だから、他のお菓子もすぐ作れるようになりますよ。次は差し入れに持っていきやすいクッキーにしましょうか」
「うん、そうする」
私が安心したあまりふにゃっと笑うと、母は私の頭を優しく撫でてくれました。
これ、とってもほっとするんです。男じゃなくても惚れてしまうレベルです。
「ああ、そろそろ葵のお迎えの時間ですね。…桃、お願いできます?」
「えっ、は、はい!」
にわかに緊張して声が上擦ってしまいましたが、母は相変わらず微笑んでいました。
急いで無造作にまとめていた髪を整え、ワンピースに着替えます。
今日は差し入れの用意までは出来なかったけど、先生に会えるだけでわくわくします。
「桃、帰りにスーパーでおうどん買ってきてくれます? 葵のお菓子も百円までOKとします!」
葵はスーパーに行くと、いつもお菓子をねだります。その対策でしょう。
「わかった! 行ってきまーす!」
私は母に話せた安心感で、清々しい気持ちで家を飛び出しました。
* * *
いってらっしゃい、と私は桃を見送りました。
「あの子もいつの間にか、年頃になってたんですねぇ」
顔を真っ赤にしていた娘の可愛らしさに、思わず笑みがこぼれてしまいます。
子どもの成長を感じる度にお赤飯を炊く私ですが、今回はやめておきましょう。
「隼人くんにバレると、面倒くさそうですからね」
男親は、娘の恋愛事情には平静でいられないものです。
だからここは、私と桃、女同士の秘密です。
ごめんね? 隼人くん。
最後に少しだけひまり目線を。
仲が良いようで何よりですね。
ちなみに岬家の子どもたちは6人です。大家族!
長女 桃 14歳 中2
長男 楓 12歳 小6
次男 紅葉 11歳 小5
次女 苺花 9歳 小3
三女 双葉 9歳 小3
三男 葵 3歳




