【にじゅうさん】がっかりイケメンです
今回で完結です!
「馬鹿じゃないですか!?」
かなり大きな声が出ました。当たり前です。動揺しています。
「順序が違います! 普通は先にエンゲージリングです!」
「じゃあそれも買ってやる。二つ選べ!」
「違う!」
そもそも指輪の順番ではありません! 何でお付き合いすら断ったのに結婚まで飛躍した!?
「お前が信用できないって言うから誠意を見せたんだろうが! 結婚して責任とるなら信用できるだろ!?」
「そんな喧嘩腰なプロポーズがあってたまるかー!」
思わず叫びました。岬くんがちょっと怯んだ気配があります。
「大体、普通プロポーズってもっとムードとか大事にしません!? カクテルに指輪が入ってるとか!」
「馬鹿お前、そんなもんに入れたらベタベタになるし劣化するわ」
冷静に返されます。何でそこだけ常識的なんですか!?
私も落ち着こうと大きく息をつきます。
「…がっかりです」
「何だと?」
「普通、イケメンってもっとスマートにプロポーズするものでしょう!? あーあ、がっかりです! 今日から岬くんはがっかりイケメンです!」
あ、ちょっと言い過ぎたかな。形はどうあれ、プロポーズしてくれたのに。
私の言い分を聞いていた岬くんが、ふっと笑いました。
な、何がおかしい!
「スマートにプロポーズもできないがっかりイケメンなら、浮気の心配なんかいらないだろ?」
…あっ! 揚げ足を取られた!
私が反論を考えていると、岬くんが指輪のガラスケースに視線をやります。
「これなんか、お前に似合いそう」
思わずつられて視線を向けると、そこには花のモチーフの可愛い指輪。
一緒にフラワーパークに行ったことを思い出します。
岬くんも、同じことを考えているんでしょうか。
不意に、泣きそうになりました。今日は涙腺が弱まっているせいです。きっとそうです。
「結婚指輪って、シンプルな方がいいんだっけ? よく知らねえや」
「…エンゲージリングは、華やかでもいいんですよ」
気づくとそう答えていました。岬くんがこっちを向きます。
私は岬くんの隣に立ちました。
「…じゃあ、エンゲージリングはこれでいいです」
「…承諾?」
「そういうことになりますね」
私、何でこんな偉そうにプロポーズを受けてるんでしょう。理想と全然違う。
「さっきまで全力で断ってたのに」
岬くんは意地悪です。言わなくていいのに、そんなこと。
「人は変わるものですよ」
「やっぱりやめるって変わるのはやめてくれよ」
「それは岬くん次第です」
「厳しいな」
そんなことを言いながらも、岬くんは嬉しそうに笑いました。
その笑顔が、昔から大好きでした。
また涙が出てきて、岬くんに借りたタオルで思いきり鼻を咬みました。
「もう、最悪です。こんなスッピンですごい汗かいた日にこんなプロポーズされて承諾しちゃうなんて」
「まあまあ。あ、お前指のサイズ何号?」
「マイペースですね!」
本当にマイペースです。でも許せてしまうのは、惚れた弱味というやつでしょうか。
「おめでとうございます」
気がつくと、三人の店員さんが私たちを祝福するように拍手していました。
は、恥ずかしい!
顔を真っ赤にしている私をよそに、岬くんは花の指輪を見せてくださいと声をかけています。
彼の心臓は鋼で出来ているんでしょうか。
後日、「人生で一番恥ずかしかったけど普通にする以外何もできねえ」と言っていて思わず笑いました。
店員さんに色んなアドバイスをもらい、エンゲージリングには最初に岬くんが選んでくれた指輪を、そして本当に結婚指輪まで買ってしまいました。ペアのシルバーリングです。
お店を出ると、もうすっかり日が暮れていました。
「岬くん」
「ん?」
「お腹が空きました。この前行けなかったイタリアンのお店に行きたいです」
岬くんが笑いました。心から楽しそうに。
「いいよ。行くか」
岬くんが私に右手を差し出します。
私はエンゲージリングが光る左手でその手を握り、歩き始めました。
ありがとうございました!
このあと、おまけの話を数話考えております。
そちらもよろしくお願いします!