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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
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【おまけ そのいち】ひまりの母目線

本編から一ヶ月後の話です。


 私の名前は吉川明美。

 大手企業「天堂カメラ」の広報部部長。

 家族は娘が一人。

 先日、その娘が結婚したの。人付き合いが苦手で「顔面凶器」なんてあだ名をつけられるほど笑顔が苦手な娘のひまり。

 不器用な子だけど、夫になった岬隼人くんは、今ではちゃんと理解してくれている。

 隼人くん、この前までは岬くんって呼んでたんだけど、もう息子になったんだからいいわよね?

 隼人くんが吉川家に来て「ひまりさんを僕に下さい!」って定番の台詞を言った時はテンションが上がったわ! イケメンがやると迫力が違うわね! 嬉しくって即返事したわ。


「はい、どうぞ」


 ひまりも隼人くんも「え、それだけ?」って顔してたわ。面白かったわー。

 だって断る理由ないもの。

 まあ、お付き合いすっ飛ばして結婚まで飛躍したのはさすがに驚いたけどね。

 結婚が決まってから、ひまりは少しずつ表情が明るくなってきたわ。隼人くん、グッジョブ!


 二人はつい一週間前に入籍し、二人で暮らし始めたわ。え、寂しくないのかって? 

 全然! だって職場に行けばひまりに会えるし、スポーツクラブに行けば隼人くんに会えるもの。

 住んでる場所も近いし、幸せそうな二人をしょっちゅう見られるのは役得だわね。



 そんなある日、私が夕方に仕事を終えて会社を出ると、会社の前に見慣れたシルエットが。


「ひまり? あなた何してるの。今日は午前上がりだったのに」


 ひまりはぱっと顔を上げて私に駆け寄ってきた。


「お母さん、お疲れ様です! あの、お願いがあって」

「あら、なあに?」


 ひまりは手に持っていたトートバッグを差し出してきたの。紺のチェックの、実家では見たことのない小さめのトートバッグ。


「今日もスポーツクラブ行きますよね? これ、隼人くんに渡してくれませんか?」


 受け取ると、あら、ずっしり重い。これはきっとあれね。


「お弁当?」

「はい。隼人くんが遅番だったから、帰ってから作ろうと思ってたら出勤時間早まったらしくて、間に合わなかったんです」

「だったらコンビニとかで買うんじゃないの?」

「そうなんですけど、…作りたかったので…」


 あらあら、赤くなっちゃって可愛い。そういえば、前に娘から聞いたわ。隼人くん、ひまりの手料理をすごく誉めてくれるんですって。確かにこの子の料理はハイレベルで美味しいから、きっと胃袋掴まれたのね。


「分かったわ。渡しといてあげる」

「! ありがとうございます!」


 嬉しそうな顔。本当に表情が豊かになったわね。隼人くんには感謝しなくちゃ。



 スポーツクラブでTシャツとストレッチパンツに着替えると、ドリンクボトルとお弁当を持ってインストラクターの控え室へ向かうことにしました。だけど、そこまで行く必要はなかったわね。

 トレーニングルームの前で、たった今教室が終わったらしい隼人くんがおばさま方に囲まれてたのを発見したの。

 相変わらず人気ねえ。だけど何かしら、いつもよりおばさま方が殺気立ってるわ。これは義理の母として助けに入るべきかしら?


「こんにちは。どうしたの?」

「明美ちゃん! ちょうどいいところに来た。ちょっと聞いてよ!」


 おばさま方は私とも仲良し。気の合うお友達で、全員が面食い。


「岬くんたら、一週間前に結婚したんですって!」

「仕事中は指輪してないから騙されたわー」

「ショックよ! うちの娘の婿に貰おうと思ってたのに!」


 ああ、そう言うことね。

 隼人くんが困ったように私に目配せしてきた。あら、勘のいい私には分かるわ。もし嫁が私の娘と知られたら、私がこのおばさま方から敵視されるんじゃないかって心配してくれてるのね?

 本当にいい子なんだから!

 だけど心配はいらないわ。私、そういうの得意だから。


「あらあら、バレちゃったの。まあちょうど良いわね」


 おばさま方はええっと声を上げる。


「明美ちゃん、知ってたの?」

「もちろんよ。あ、隼人くん」

「は、はい」


 皆の前で隼人くん呼びしちゃった。あら、焦っちゃって可愛い。


「これ、あなたのお嫁さんから預かってきたから」

「え?」


 隼人くんは驚いたようにトートバッグを受け取りました。


「弁当? 間に合わないって言ってたのに」

「作って私のとこまで届けに来たのよ。作りたかったんですって」


 隼人くんが照れたように頬を赤らめた。まあ初々しい。


「すいません、ありがとうございます」

「ちょ、ちょっとちょっと明美ちゃん! どういうこと!?」


 ああ、うちの娘と息子、なんて可愛いのかしら。皆に自慢したいわあ。


「隼人くんのお嫁さん、私の娘なの。うふ、ごめんなさいね?」

「えええええ!!」


 その声の大きさに隼人くんがびっくりしてるわ。分かるわよ。年を取ると、無駄に声が大きくなるのよね。


「どどどどういうこと!?」

「どうやって娘さん紹介したの!?」

「私は何もしてないわよ。気がついたら二人がそういうことになってたの」

「そんなわけないじゃない!」

「あの、吉川さんの娘さんは俺の同級生で」


 隼人くんが助け船を出してくれたけど、私は他の部分が気になります。


「ちょっと隼人くん」

「…はい?」

「吉川さんなんて他人行儀ね。いつも通りお義母さんって呼んでいいのよ?」

「いやいや、ここ職場ですから!」


 顔を真っ赤にして拒絶する隼人くん。可愛いわ。


「えー。いいなー」

「私も岬くんにお義母さんって呼ばれたーい」

「ていうか、隼人くんって呼びたーい」


 おばさま方も可愛いと思ったようで、驚きモードからからかいモードに変わった模様。


「いやその、ホント勘弁してください」


 あらあら、隼人くんホントに照れてるわ。可愛いけど、そろそろかわいそうかしら。


「隼人くん、そろそろ次の教室あるんじゃない?」


 隼人くんははっとして壁掛け時計を見て、やべ、と呟いたわ。


「ホントだ。皆さん、お疲れさまでした! 吉川さん、弁当ありがとうございます!」

「お義母さん」

「呼びませんて!」


 むきになっちゃって、かーわいい。


「かーわいい!」


 心の声が出たのかと思ったら、他のおばさまの声だったわ。

 そそくさとその場を離れる隼人くんの後ろ姿に、皆がため息をついてます。


「羨ましいわー」

「明美ちゃん、やったわね!」

「ていうかイケメンなのにあの初々しさ、何なの。母性本能くすぐられるわ!」

「でしょ? 娘もあんな感じだから、もう見てて微笑ましいったら」

「あら、そうなの?」

「ちょっと詳しく聞かせてちょうだい!」

「いいわよ。ストレッチしながらでもいい?」

「もちろんよー!」


 ああ、楽しい。


 おしゃべりと若い子を見守る、もとい、からかうのはおばさま方の生き甲斐なのよ。

 隼人くん、ひまり。これからも私を楽しませてね!



おばさま方って皆さんパワフルですよね(笑)

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