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【第二章開始】月の静謐  作者: 奔らない筆
第二章 ―旧王都の亡霊―
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言いかけた言葉


 目を覚ましたエルザは見慣れない天井を見ながら、無事に地下水道での目的が達成できたことに安堵する。

 そして同時に、自身の持つ力について改めて知るべきだと考える。

 ウ=トトの両親を見つけ出すために『力』を使う予定だったが、思い通りに視通す事ができなかった。そもそも、この力に目覚めた要因がなんなのかすら、彼女にはわからない上に、発動するための条件もわかってはいない。

 月廻りの儀の最中に突如として発現した力は、一体どういう能力を秘めているのか、何のために自分に備わったのか。


「私、駄目だなぁ……」

「……ボボさまぁ、だめですよ服はちゃんときないと……」

「え?」


 突然、ウ=トトがこの場にいない彼の師である小鬼族ゴブリンの長、ラ=ボボの名を呼んだ事に驚いて、エルザは身体を起こし、彼の方へと視線を移す。

 どうやらウ=トトは眠りながら夢を見ているようだ。


「なんだ寝言か……」


 相棒であるウ=トトは、夢の中でラ=ボボとどんな風に過ごしているのかを考えて、思わず笑いだすエルザ。たった今自分の持つ力について考えていたが、実際問題詳しいことは現状わからないのだから、今はあまり深く考えるべきではないとそう結論付ける。

 しかし、知るべきであることには変わりないのだ。何か機会があれば詳しい発動条件について検証してみることを心に決めて、眠るウ=トトやナー、レオを起こさないように客間を後にする。


 居間へ向かうと、隅にある調合机に座り作業をするこの家の主、テネブラエを見つける。


「あ、おはようございます!」


 エルザが朝の挨拶をすると、作業の手を止めた彼女が振り返り、優しく微笑みを返す。


「あらあら、おはよう。他の子たちはまだ眠っているのかしら」

「はい、その……安心して眠れる環境じゃなかったので……」

「それもそうね。この地下は今、危険だもの」

「その……お邪魔じゃなければ、作業を見ていても構わないですか?」

「えぇ、もちろん構わないわ」


 エルザが椅子を持って調合机の側へと座る。机の上にはニザ大森林で見た事のある植物や、薬草、毒々しい色の液体等が置かれている。

 テネブラエは手元の乳鉢で黒い石のようなものを砕き、水の張った小さな鍋にそれを加えていく。


「ギギさんの薬を作っているんですよね」

「えぇ、街に行く事になったもの。今のうちにできることはしておかないと、ね」

「テネブラエさん……は、治療師なんですか?」

「いいえ? 私は治療師ヒーラーではなく技術者エンジニアよ」

「えっ?」


 ウ=ギギの治療にあたるテネブラエ本人が、自身は治療師ではなく技術者であると口にする。

 エルザは驚きながらも、昨日ウ=ギギがテーブルに広げていた魔道具の設計図等の事を思い出す。


「じゃあ、ギギさんが昨日テーブルに広げてた資料とかは……」

「あぁ、私が描いたものばかりね。ギギさんがここに来てからはずっと魔道具なんかの話をしているわよ」

「そうだったんですね……すごい!」


 目を輝かせながらエルザはテネブラエを見つめる。ウ=トトが彼女の事を知れば、同じように目を輝かせて話を聞くだろう。


「ふふ、あなたの瞳、とっても綺麗ね」

「えっ、あっ……ありがとうございます……」


見つめ返してきたテネブラエから、自身の瞳について褒められ少し驚くエルザ。


「……あら? あなたもしかして――」

「おはようございます!」


 テネブラエが何か言いかけたその時、居間に元気よく響いたのはウ=トトの声だった。


「あらあら、元気がいいのねぇ」

「あの、今何か言いかけませんでした?」

「気にしないで? 私の気のせいだったみたい」

「二人で何の話をしているんですか?」


 部屋の隅で話す二人に、ウ=トトがゆっくりと近寄ってくる。すると、テネブラエは立ち上がって入り口の方へと歩き出していく。


「スクトゥムを呼んでくるわね、食事の用意をしましょう」

「あ、はい……なにか手伝えることはありますか?」

「あら、それじゃあ他の人たちを起こしてきてくれるかしら?」


 そう言い残してテネブラエは居間を後にする。残されたエルザとウ=トトは、滞在している家の主からお願いされた事をこなす為にそれぞれの部屋へと向かうのであった。



ここまでお読みいただきありがとうございます!

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