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苦行。

 俺とフラムは青龍の長老、ブルーノ爺に案内されて長老の館の上にある古めかしい木造の小屋の前にいた。エイムは青龍館道場で青龍達を相手に戦闘訓練をするようだ。


 小さな小屋の中に入る。床には円形の魔法陣の様なものが描かれてい周囲にリンゴ、木の枝、龍のぬいぐるみ、木の枝、木製の器などが並べられていた。


 小屋の中の奥にブルーノ爺が座る。


「その円の中に座るが良い」


 そう言われて俺は魔法陣のような円の中に座り、フラムも横に座らせた。


「準備が出来たら目を閉じて瞑想せよ」


 …瞑想…?疑問に思いつつも俺は言われた通り目を閉じて瞑想を始めた。


 「まずは瞑想しつつ、周囲にあるモノに意識を向けるのじゃ」


 言われた通りに目を閉じたまま、周囲に意識を向ける。…しかしなんと言うか…まさか修行が瞑想とはw戦闘を想定していた俺は拍子抜けした。そんな俺にブルーノ爺が言う。


「『神気』は戦闘修練では習得出来ぬ。先程も言うたがまずは周囲に並べられているモノに意識を向けてシンクロする事から始めるのじゃ!!」


 そう言われた俺は改めて静かに周囲に意識を向ける。…えーっと確か目の前に木の枝があったな…その隣に木製の器、その隣に…なんだったっけな…?


 そんな事を考えているとブルーノ爺から注意が飛んで来た。


「…記憶を探って意識を向けるのではない。まずは周囲に意識を張り巡らせてどこに何があるかを感じるのだ…。その為にはまず呼吸から整えろ…」


 そう言われて俺は深く息を吐いて吸う。


「…うむ。それで良い。『呼吸』とは吐いて、吸う事じゃ。呼吸を整えて心静かに周囲に意識を向けていけ…」


 静かなブルーノ爺の声が響く。


 暫く呼吸をしているとふと、フラムがうとうとしていると感じたのでパタッと寝てしまう前に膝の上に乗せる。その時、俺は気付いた。今、俺は目を開けていない。


 フラムが近くにいる事もあるだろうが、うとうとしている様に感じた。そして俺は目を閉じたままフラムを膝の上に乗せた…。フラムの静かな呼吸が聞こえる。


「…良い、その調子じゃ。今、お主は娘の意識とシンクロしたのだ。それを生物やモノでも出来るようにする事じゃ…」


 その言葉と同時に、龍のぬいぐるみが少し動き始めたのを感じた。これはっ!?…俺じゃないな…w?


「…ホホホッ、娘の方が先に習得した用じゃの(笑)。半分、寝ているような状態でぬいぐるみに意識が飛んだ様じゃな…」


 …フラムに先越されちゃったよ…。


 なまじ普段から視覚に頼ってるからこういう修業はキツイ…。どうするか…?恐らくブ〇ース・リーの『考えるな、感じろ』だと思うんだが…。


「…迷っておる様じゃの…。本来はこれを習得する為に数カ月は掛かる。しかしそんな悠長な事は言うておれんじゃろう?少しヒントを与える…」


 そう言うとブルーノ爺は俺のスキルについて話し始めた。


「…お主は『闘気』を持っておるな。良いか?全身から闘気を拡げる様にイメージするのじゃ。闘気で周囲を探りつつ『イミテーションミラー』を使うと良い。それでお主は目を閉じていても周囲を探れるようになるじゃろう…」


 言われた通り、俺は闘気を全身から拡げるようにイメージして放出する。闘気が周囲の物体をスキャンする様に通過する。同時にイミテーションミラーが最適化した。


 その瞬間、閉じている目の網膜に物体のオーラの様なものがぼんやりと見えた。直後に俺の身体が光を放つ。そしてお馴染みのインフォメーションが流れた。


≪合成上位スキル『空間掌握』を獲得しました。発動します≫


 そのスキルが発動した瞬間、目を閉じている俺の網膜に周囲の全てがモノクロでハッキリと視えた。


「よくやった。目を閉じていても周囲が見えるようになったようじゃな。その調子で瞑想を続けるのじゃ…」


 …何とか視えるようになったが…獲得したのは空間掌握というゼルクのオッサン…いや爺も使ってたスキルだ…。どうやれば神気を習得できるんだ…?


「ホワイトよ、焦るな。それは初歩の初歩。神気に至るまでの第一段階じゃ」


 …あ、やっぱりそうか。そんな簡単に習得出来るわけないわなw


「第一段階は周囲に意識を飛ばし掌握する事。第二段階は周囲に干渉し、物体とシンクロする事。第三段階、シンクロしたものに思念を飛ばし動かし操る事じゃ。つまり周囲の時空を操り、支配する事、それをすなわち神気と呼ぶ…」


 ブルーノ爺の説明を聞きつつ、俺は静かに深呼吸を繰り返す。スキル、空間掌握が周囲にあるモノと俺の意識をシンクロさせる。そして俺は周囲の物体を闘気で引き込む様にイメージした。


 その瞬間、周囲に置いてあったものが、俺の下に一気に集まって来た。


「よくやった!!それじゃ!!それこそが神気じゃ!!今回はイメージしやすい様に目を閉じて貰ったが、本来は目を開いていても出来るようにならねばならぬ!!」


 ブルーノ爺はそう言うが俺の頭に中に神気獲得のインフォメーションは流れない…。どういう事w?


 その時、俺の心の中を読んだブルーノ爺が言う。


「今はまだごく狭い範囲故、スキル獲得には至らぬが徐々に範囲を拡げていくのじゃ。より広い範囲の時空を掌握する事が出来れば完全習得となる。神気習得は一朝一夕では出来ぬからの。これからも修練に励むのじゃ!!」


 そう言われて引き続き、俺は静かに瞑想を続けながら空間掌握の範囲を拡げて行った。


 しかしこの修行、クレアにとってはかなりの苦行になりそうな気がした。だって、じっと瞑想してろってアイツが出来る気がしないからなw


 引き続き、眠ってしまったフラムを膝の上に乗せたまま、俺は神気の修行を続けた。

 


 その頃、フィーア、逸鉄、瑠以、要、憂子、ラニエ、ベルシオ爺とライルが見守る中、クレアがキャサリン、レイザ、ルドルフ、エミル、チャビーらと対戦して攻撃を避ける訓練を行っていた。


 初期の格闘訓練をした融真、クライ、ジョニー、キースも参戦したが、まだまだ動きがぎこちなく、クレアの訓練にならないので自分達で組み手訓練を始めた。


 憂子はエミルが心配そうだったが、フィーアから攻撃を避けるだけの訓練だと聞いて少しほっとしたようだ。


 回避訓練はクレアと一対一で対戦する方式で一人、十分間とした。まずは動きが速く体力がずば抜けて高いキャサリンが挑む。


「ギャル子よ!!本気で来い!!でなくては訓練にならぬからな!!」

「…奥様、後で怒り出すとかないよね…?」

「そんな事でわらわが怒るか!!いいから本気で来いッ!!」


 仕方なくキャサリンがスキルを使ってチーター化した。その瞬間、クレアの目の前からキャサリンの姿が消えた。


 キャサリンの持っているスキル『ワイルドキャット』は、あらゆるネコ科の動物に変身する事が出来る能力だ。今回、キャサリンが選択したネコ科動物はチーターだ。


 チーターは陸上で最も動きの速いネコ科動物だ。キャサリンは動きの速さと爪による斬撃に『魔障気』を併せる。


 消えては現れ、高速で回転しながら魔障気の爪で攻撃する。その攻撃をクレアはスキルを使わず見切りつつ、避ける。


 キャサリンの本気の動きの速さに驚くレイザとルドルフ。教皇領で同じチームにいたエミルもキャサリンの本気を見た事がない。初めて見るその動きの速さに驚愕した。


 そんなキャサリンの超高速の動きを、『黒怨眼』を使わず、裸眼で見切るクレア。スキルを使わないのは単に地力を上げる為なのだが、キャサリンの動きはクレアの予想以上だった。


 褒めてやりたい所だがスキルを使っていないクレアは見切り、避けるのが精いっぱいだった。これにはキャサリンの魔障気習得率の高さにもあった。


 今では全身に魔障気を纏い、その動きは以前にもまして速くなっている。


 クレアが使っているスキルは『闘気』のみ。キャサリンの攻撃を寸前で避けたつもりが魔障気に干渉された闘気が切り裂かれた。


「…チッ!!やるなッ!!ギャル子ッ!!」


 叫んだクレアがキャサリンの回転攻撃を避けつつその攻撃をサマーソルトキックでいなした。


 魔障気で闘気を突破したと思っていたキャサリンが驚く。両腕の爪での回転攻撃に合わせる蹴りも凄いが闘気を突破したはずがクレアの脚は傷一つついていなかった。


 何かあると感じたキャサリンはすぐに退避する。そのキャサリンの攻撃をサマーソルトキックでいなしたクレアもまた、そのままバク転でキャサリンから距離をとった。


「やるな、ギャル子よ。わらわとした事が思わず『龍戯』を出してしまったぞ」

「…えッ(笑)?奥様、今までスキル使ってなかったとか…(笑)?」

「…いや、闘気は使っていたぞ?その他のスキルは使わぬつもりだったが思わず反射的に『黒閃鱗』を出してしまったのだ(笑)」

「…アタシ、全力でやってたんですケド…(笑)?奥様のスキル一つ、引き出しただけ…」


 それを見ていた融真、ジョニー、キースが顔を引きつらせていた。


「…闘気以外、使ってなかったのか…キャサリンの攻撃もかなり速かったが…」

「…さすが奥さんだな。キャサリンの全力で傷一つ付けられないのか…」


 改めてクレアの力にドン引きするジョニーと融真。そんな中、クライだけは目を輝かせていた。


「キャシーの全力に闘気のみで闘うとはッ!!さすが先生ですッ!!」


 そんなクライにも融真とジョニーはドン引きしていた…。そこで十分が経過し、一旦対戦を止めるフィーア。


「十分過ぎたでな?ギャル子よ、交代じゃ。クレア、休憩はいるんかの?」

「…母上の攻撃はこんなモノではない。ただひたすら皆の攻撃を避ける。続けてくれ…」

「わかった。次はレイザじゃ!!準備は出来ておるかの?」


 フィーアに呼ばれて頷く蜥蜴人(リザードマン)のレイザ。


「…出来ております。それではクレア様、よろしくお願いします…」


 レイザが得物の戦斧を持ってクレアの前に出た。


 一方、館の方では、アイリスがリックと未依里と共にレーナとアマナに魔法を基礎から学んでいた。


 アイリスの魔法は地球でのオンラインゲームのキャラの能力がそのまま引き継がれた形なのでこの世界での上位魔法は使えるが、コントロールが出来ていない。


 やっていたゲームでの魔法をただぶっ放すだけのアイリスは、この世界における魔法の基礎知識など皆無だった。今更、周りのハンターにも聞けず困っていた所、基礎から学ぶ機会に恵まれた。


 喜んで教えて貰おうとしていたアイリスが突如、異変に気付いた。館の庭でレイザと対戦しようとしていたクレアとフィーア、逸鉄も上空から来る何かに気付いた。

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