青龍の里。
俺達は東鳳の備戎領の南東にある青龍山に向かった。その青龍山の麓に堅固な砦がある。その砦の門を、青いドラゴニアが護っていた。
俺とフラム、エイムが近付くとドラゴニア達が険しい顔で槍を向けて声を上げた。
「ここは青龍様達がおわす場所である。お前達は何者か!?」
いきなり槍を向けられたので、フラムが慌ててあぅあぅ説明を始めた。
「あーぅぁい!!あぅいいおー、ぃあうお!!(ふらむたち!!わるいひと、ちがうよ!!) 」
「…ん?赤子か…いや幼児か?なぜお前達は幼児を連れているのだ?」
警戒していたドラゴニア達はフラムを見るなり槍を下ろした。
「…ふむ。可愛い子だな?」
そのうちの一人がフラムの頭を撫でて小さな手を取って握手してきた。
「わたしはアンソニー・ホワイトという者です。この子はわたしの子供なんですよ。家に置いても転移で付いて来るんで連れてきただけですw」
そう説明しつつ、俺はエイムを紹介する。
「こちらはうちの子の護衛のエイムです」
「わたしはエイム。お嬢様の護衛のエイム・ヒトリゲンです」
エイムがドラゴニアに挨拶をすると続いて俺が用件について話した。
「青龍の長老様から来るように言われていたので遅くなりましたが参りました。お取次ぎ頂きたいのですが…」
「…ふむ。そうか。では、しばし待たれよ…」
そう言うと一人のドラゴニアが奥へと入っていく。人間の子供が珍しいのか
待っている間、愛嬌を振りまくフラムにドラゴニアがほっぺをつんつんしてみたり、頭を撫でたりした。
ドラゴニアと話しながら待っていると許可が下りたようだ。俺達の前に人間にしか見えない一人の若い男が来た。その男は二十代後半の容姿に髪をオールバックにして合気道の胴着のような和装だ。
「わたしは青龍のブルームと申します。長老のブルーノ様より、ホワイト様とエイム殿を連れて来るように言われております。中へどうぞ…」
「うちの子もいるんですが連れて入ってもよろしいですか?」
「えぇ、よろしゅうございますよ」
了解を得たので俺はフラムとエイムと共に、青龍の里を守る青いドラゴニアの砦内に入った。頑丈な岩で防壁が作られており、その中は人間の町と遜色ない程に施設があった。
町にはドラゴニアに混ざって人間?もいる。そんな俺に気付いたブルームが説明してくれた。
「人間に見えるのは擬人化した青龍の若い衆です。ドラゴニアに混ざり人間の文化を学習しているのです」
木造の建物が多くどれも体格の大きいドラゴニアのサイズに合わせて大き目な作りになっていた。
「あぅぁ~っ!!あぇ、みう!!(パパ~っ!!あれ、みる!!) 」
フラムが俺の服の袖を引っ張って甘味処の旗を指差してあぅあぅ言ってくる。それを見た案内役の青龍ブルームが笑う。
「お子様は甘いものに目がないようですね。時間はありますので寄って行きましょう」
そう言って甘味処に入っていくブルーム。俺とフラム、エイムもブルームに付いて店に入った。
そこに売っている冷たいクリームがたっぷり入った洋風どら焼き?を買ってフラムに食べさせる。にこにこ嬉しそうに食べるフラム。クリームだらけになったフラムの口周りを拭いてやりながら、俺とエイムは店員に出された甘く青いお茶?のようなドリンクを飲む。
俺達はお茶を飲みつつ、プルームの話を聞いた。
「驚かれたかと思いますが龍族はどこも大体、擬人化して人間と変わらないような生活をしているのです」
山の中に町や村を作り、擬人化して生活しているという。龍形態だと場所を取る上に人間達から見えてしまう為に古来よりそうして生活してきたようだ。
そりゃ龍形態のままの龍が山にわんさかいたら人間達が見て大騒ぎになるわなw
甘味を堪能した俺達は引き続きブルームに案内されて青龍山の入り口に来た。『青龍山登山道』と書かれた入り口を逸れてブルームと共に山林の細い道を進んでいくと重厚な金属の門があった。
入り口を守るドラゴニアの衛兵達に挨拶をしつつ、ブルームに続いて門を潜った。その瞬間、山道をすっ飛ばしていきなり大きな青い木造の巨大神殿の前に出た。
「…これは!?」
驚く俺達にブルームが説明してくれた。
「本来は登山道の方から険しい道を上がり、ここまで来るのですが今回は山道を短縮しました(笑)」
笑いながら言うブルーム。稀に龍神信仰をする人間の修験者達が修行で入って来るそうだがその人たちは本来の青龍山登山道を歩いて来るそうだ…。
どこの世界にもそんな人間いるんだなw
そんな事を考えつつ俺は建物を見上げる。デカいw大仏殿くらいの大きさだ。そこに青龍館と書かれたデカい看板があった。
ブルームによると青龍館は青龍達の戦闘訓練道場らしい。そこを抜けて俺達は上に続く階段に出る。そこを登った先に青龍達の長老ブルーノがいる館があった。
「…ブルーノ様、ホワイト様とその子ども、そしてアンドロイドのエイム殿をお連れしました…」
その声に、青龍の長老ブルーノがうむ、と低く唸る。入るように促された俺達は館の中へと入った。
◇
俺はまず、来るのが遅くなってしまった事を謝罪した。
「…来るのが遅くなりまして大変申し訳ありませんでした…」
そう言いつつ頭を下げる俺に良い良いと言うブルーノ爺。
「お主自身が色々あったようじゃからの…」
そしてブルーノ爺はフラムを見てにこにこ笑う。そのブルーノ爺を見たフラムがペコリと小さな頭を下げた。
「あーぅぁ、おういいぁ(じーちゃん、こんにちぁ)」
「…はい、こんにちは。可愛らしい子じゃのぅ、お主の子か?」
「えぇ、置いて来ても転移で付いて来ると思ったので連れてきたんです」
俺の説明にブルーノ爺がじっとフラムを見る。
「…ふむ、覚醒はしておらぬようじゃがお主のスキルをほぼ引き継いでおるのか。末恐ろしい子じゃのぅ(笑)!!」
フラムを見て豪快に笑うブルーノ爺。その後、座るように促されて用意された座布団に座った。
「今回、お主たちに来て貰ったのはいくつか話があるからなんじゃが…まずはお主ら二人の『力』についてじゃ…」
俺達の前でブルーノ爺が話を続ける。
「ファーザーゴッドにも確認を取ったがお主らの力はこの世界の常識を大きく外れておる。力を使う際はより注意を払い行使する様にな。特にお主らが持つ『プラズマ』の力はこの世界では確認されておらぬ現象じゃ。暴走せぬよう、気を付けるのじゃ…」
その言葉に頷く俺とエイム。
「…続いて龍妃クローナとその娘、クレアの事についての話じゃ…。先にも話したが伝言を持って行ったうちの若い衆を叩きのめした事についてじゃ。謝罪を受けた故、これ以上は言いたくはないが青龍側としては納得はしておらん…。そしてそれは他の龍族もそうじゃ…」
「えぇ、話は聞いております。八大龍族全ての使いを叩きのめしたとか。お怒りは無理もないでしょう…」
そう言いつつ俺とエイムはブルーノ爺の話を聞く。
「じゃが聞く所によると、龍族の掟を破る為にクローナ様にクレアが挑戦すると聞いてな…。全ての事の発端はそもそもはクローナ様達がクレアを甘やかしておるからこうなったのじゃ。この様な事が起こること自体が他の龍族からすれば自業自得、黒龍族の汚点になる…。どちらがが勝つにせよ、我々としては少しでも溜飲が下ればよい…。
そこまで聞いた俺とエイムが目を合わせる。
何故、クローナとクレアが掟を掛けて闘う話がもう他の龍族に漏れてる?まだ黒龍の里へ向かう前だ。知っているのはティーちゃん、シーちゃん、フィーちゃんとうちの館に出入りしているヤツらだけだ。
何かおかしいと思った俺は直接、ブルーノ爺に聞いた。
「ちょっと待って下さい。話を切って悪いんですが、その情報…どこからお聞きになりましたか…?」
「…ん?この話は妖精リーアから聞いたが…それがどうかしたのか?」
それを聞いた俺とエイムは苦笑いしか出なかった、
…リーちゃんが教えたのねw確かに、リーちゃんなら次元の狭間からどこの会話でも聞けるだろう。しかし、困った事になったな…。全ての龍族に知られているとなると、こっちの手の内が漏れている可能性があるな…。
どうするか考える俺にブルーノ爺が言う。
「そこは心配するな。我ら青龍を始め赤龍、黄龍、白龍、緑龍、銀龍、金龍はこの事については黒龍側に情報を流してはおらぬ」
そう強く言うブルーノ爺。…ていうか俺の考えてること読んだなwブルーノ爺が話を続ける。
「…それを踏まえて、じゃ。間接的にじゃがお主らを支援したいのじゃ。先程の話で分かったと思うが黒龍の内輪揉めで先の叩きのめし事件の溜飲は少しでも下がる。そこで妖精リーアからお主に『神気』を授ける様に言われたのじゃ…。どうじゃ?受ける気はあるかのぅ?」
「えぇ、教えて頂けるなら…少しでもクレアの勝率を上げたいので…」
俺の答えに頷きつつ、ブルーノ爺が言う。
「ホワイト、そしてエイムよ。お主ら二人なら苦戦はするじゃろうがクローナ様には勝てる。しかし今回はそれでは他の龍族の溜飲は下らぬ。自分達が甘やかしてきた娘クレアが掟を掛けて全てを覆す事で自分達のした事の過ちを認めさせたいのじゃ…」
…そうか。色んな思惑はあるけど、俺としてはクレアを勝たせてやりたい。ある意味、呪縛からの開放だな…。
「よろしくお願いします!!」
俺は強い眼差してブルーノ爺を見て頭を下げる。
「うむ。良い目じゃ。それでは他の龍族を代表してワシがお主に『神気』を伝授する。厳しい修行になるが耐えて見せるのじゃ!!」
そう言うとブルーノ爺が立ち上がった。
◇
その頃、クレアは全員を相手に全ての拳打を避ける訓練をしていた。クレアはフィーアと逸鉄を除く全員を相手に攻撃を避けて捌き、同時に攻撃を出せるように動く。
その訓練を見ていた要がフィーアに言う。
「フィーアちゃん様、ブレーリンで訓練してるエミルって子がいるんですけど、せっかくなんで連れてきても良いですか?」
「エミルとチャビーだけじゃ訓練に限界があると思うんですよね」
要と瑠以の提案にフィーアと逸鉄が賛同する。
「そうだな~、いろんな戦闘タイプの人と闘った方が動きの訓練にはなるからわたしは良いと思うよ?」
そう言いつつ逸鉄がフィーアを見下ろす。
「うむ。わっちも異論はないでな?連れて来るとよいじゃろ?」
二人の了承を得たので、一度ブレーリンに戻った要は、エミル、未依里、チャビー、憂子にクレアの訓練の事を話した後、王都の館に転移で全員連れて来た。




