忘れる事だってある、人間だ〇の。
俺はクレアの逸鉄との打撃戦を参考に対クローナ戦についての作戦…というほどではないが話をした。その後、戦闘におけるクレアの癖?について話しをした。
「いつも思うけどお前、一々相手の打撃受けてるよな?」
「そうですな。相手の攻撃を受け切ってわらわには効かんと言う事を暗に教えてやろうと思ってるんですが…それがどうかしましたか?」
「…うん、逸鉄を見て思ったんだけどな…」
そう言いつつ、俺はどう説明しようか考える。
「クローナはクレアの戦闘に付いて良く知ってるんだろ?」
「えぇ、わらわは成龍になるまでは黒龍賊の戦闘教官である母上の下で修行しておりましたからな…」
「そうか。それならクレアが以前とは違う動きをしたら…クローナは驚くか?」
「それは驚くでしょうな。わらわは母上と対戦して一度も勝った事がない…。そうか…意表を突くですな?」
クレアの答えに俺が頷く。
「それだよ。少しでも勝機を上げるならなんでもした方が良いと思ってさ。そこでさっきの逸鉄との一戦に話を戻すぞ?」
「えぇ、ヤツとの一戦がどうしたのです?」
フィーちゃんは真剣な顔で俺達の話を聞いている。
「お前の方が手数が多かったのにヒット数でギリギリ敗けた。その原因はお前の癖にあるんじゃないかって思ったんだよ」
「…癖?ですか?」
「あぁ、お前は一々逸鉄の攻撃を受けてから連打を出している。対して逸鉄の動きはお前の攻撃を捌くか避けつつ、同時に攻撃していたんだよ…」
俺の言葉に驚きを見せるクレア。
「…よく思い出してみてくれ。お前の右正拳を右手で流しつつお前の右側に入った逸鉄は低い姿勢から左掌底を出してる。攻撃を流しつつほぼ同時にだ」
続けて俺はクレアに説明する。
「お前の蹴りを避けながら体勢を下げて回転しつつ左脚での脚払い。体勢を崩したお前の腕を掴んでからの投げ…。もう分かっただろ?俺も驚いたんだがアイツ、防御とほぼ同時に攻撃してるんだよ。防御は何も受けて立つだけが防御じゃない。特にクローナが相手なら受けた時点でダメージを喰らうだろ…?」
俺の説明にクレアは気付いたようだ。自分の両手を見ている。
「…そうか。今までわらわは避けるばかりのヤツなど弱いヤツがする事だと思っていた…龍族の矜持と共にわらわは母上からそう教えられてきた…」
一人呟くクレアにフィーちゃんが続けて話す。
「クレア、おんしは『黒怨眼』、『ダークプラズマ』とクローナ様の知らないカード、切り札を手に入れておるでな?更に勝機を上げる為にはほわいとが言うように戦闘スタイルを変化させてみるのもクローナ様の意表を付く事になるじゃろ?その為には逸鉄と他のヤツが戦っているのをよく観察するのが良いじゃろうな…」
「…あぁ、そうだな。着々と強い手札を揃えているのに肝心の戦闘スタイルが変わっていなければ母上には勝てんな…」
「そうなんだよ。相手の攻撃を受けるのも良いが、それが有効なのは相手が格下だった場合だ。今回のクローナ戦では今までの様には行かない。だから今回、逸鉄の動きを見て対クローナ戦に使えると思ったんだよ」
「…そうですか。さすがは我が主、感謝しますぞッ!!必ずや母上に勝って見せます!!」
真直ぐ俺を見ながら強くそう言い放つクレア。
「ほわいと、おんしが『神気』を獲得し、クレアに伝授すればクローナ様とも少なくとも五分以上には戦えるでな?」
フィーちゃんの言葉に俺は頷く。
「明日からエイムと青龍爺さんの所に行ってくる。俺も修行してくるからクレア、お前はひたすら皆の攻撃を避けて、捌いて、いなす訓練をしてくれ」
そう言いつつ、俺は話を続ける。
「俺はお前の戦闘センスは天才的だと思ってる。龍族以外の種族と関わって来たお前の強みを見せ付けてやれば勝てる」
「…分かりました。必ずや、期待に応えて見せましょう!!」
強く言い放つクレアに俺とフィーちゃんが頷いた。
◇
翌日、青龍の里に向かう前にブレーリンに飛んだ。エイムと合流してから東鳳に向かう為だ。俺はフラム連れてブレーリン転移した。
ブレーリンのギルド訓練所でストレッチをしているエミルとチャビー。エイムは離れた場所で二人の準備運動を見ている。俺とフラムに気付いたエイムが近付いて来た。
「ホワイトさん、戻って来ていたのですか。フラムお嬢様もお久しぶりです。お元気そうですね(笑)」
「うぅっ!!(うんっ!!) 」
エイムの挨拶に元気よく愛嬌を振りまくフラム。
「それでご実家の方はどうなりましたか?」
「…あぁ、全部終わらせて来たよ。まだ時々、地球に戻る必要があるけどね…」
そう言いつつ、俺は地球での父さんの葬儀を終わらせた事を話した。
「…そうでしたか。それは残念でしたね。ところで今日はどうされましたか?」
「地球での事は終わらせたから、そろそろ東鳳に行こう。青龍の爺さんが待ってるからね」
「そうですか。それではエミルとチャビーに今後の訓練の事を話しておきますので少しお待ちください」
「…訓練状況はどうなってる?順調か…?」
「えぇ、少しづつですが進んでいますよ。今日からエミル、チャビーで組み手で対戦して貰う予定なんですよ」
エミルはもう組み手での戦闘訓練に入るようだ。俺の予想よりかなり速い。俺はエミルの戦闘センスの高さに改めて驚いた。
「そうか、俺はロメリックに挨拶してくるよ」」
そう言った俺はフラムと一緒にギルドへ向かう。ギルドに入ると瑠以、要と一緒にアイちゃんがいた。
「…おっ、アイちゃん久しぶり(笑)!!瑠以と要もかなり久しぶりだな?二人とも亡命申請の許可は下りたのか?」
三人に挨拶をしていると瑠以と要を見たフラムが陽気に愛嬌を見せながら。すぐに鞄から幸せターンを出して上げる。
「フフフ、ありがと、フラムちゃん!!」
「フラムちゃん、ありがとう!!」
瑠以と要にお菓子を渡すフラムを見てアイちゃんが言う。
「…えーっとフラムちゃん?わたしのは…?」
そう言われてフラムはしばらくじーっとアイちゃんを見る。しばらくしてアイちゃんの事を思い出したのかにこにこ笑う。
そしてもう一つ、鞄から幸せターンを出してアイちゃんに渡した。
「ありがとーっ!!わたし、これ好きなのよ!!」
そう言って喜ぶアイちゃんの隣で瑠以と要が俺を見る。
「そう言えばホワイトさん、何か大事なこと、忘れてませんか?」
メガネをクィクィッと上げながら瑠以が言う。
「…大事なこと?えーっと…なんだっけw?」
俺の返事に瑠以が要を見て得意気に言う。
「ほらね!!完全に忘れてたでしょ(笑)?」
「…そうだね。でもホワイトさん、結構忙しいんでしょ?忘れるのは仕方ないんじゃない?」
瑠以と要が話しているのが何の事についてなのか思い出せない。なんかあったっけかな~…。
「ホワイトさん。魔界ですよ、魔界。魔界に行くって言ってましたよね?」
「…あぁ、その事か…スマン。あの後、フィーちゃんから呼び出されて魔界へ一度行ったんだよ。ただ魔界に攻め込んできたヤツらと戦闘になってたからね…しかもその後も色々ありまして…」
そう言いつつ俺は経緯を二人に話した。
「亡命許可が出たんだったら一度、王都のうちの館に来てくれ。今、皆の戦闘訓練でフィーちゃんも連日、来てるんだ。煉の近況も聞けると思うよ?」
俺の提案に二人は顔を見合わせて頷く。
「そう言う事なら王都にあるホワイトさんの館にお邪魔しますよ。その館がどれだけの規模か見てみたいですね」
「わたしも煉がどうしてるかフィーアちゃんに聞きたいので行きます!!」
瑠以と要に続いてアイちゃんが俺に聞いて来た。
「ホワイトさん、ティーちゃんとシーちゃんは?ホワイトさんとこの館にいるの?」
「二人は今、別件で出てるんだよ。二人に何か用でもあるの?」
「…クレアさんはいないし、ティーちゃんもシーちゃんもいないとなると誰もわたしの魔法訓練してくれる人がいないんだけど…?」
…あぁ、確かにそうだな…。
どうしようか考えつつ、フラムが瑠以の方へ行こうとしていたので預けた。瑠以と要にフラムを見てて貰いつつ俺は考える。
…アイちゃんにもうちの館に来て貰うか…。しかし魔法指南が出来る人、うちにいたかな…?フィーちゃんだとスパルタになりそうだし、アマナの魔法は回復系だし…。
その時、俺はふと思い出した。セーナさんがリーちゃんが視えていると話していた時に魔法適正が高いって言ってたな…。
セーナさんも忙しいと思うけど頼んでみるか…。
「アイちゃんもうちに来る?魔法指南出来そうな人いるけど…?」
「…その人って…厳しい?」
「…ん?何でそんな事聞くの…?」
「…いや、なんて言うかあんまり厳し過ぎる人だとちょっとね~…」
…あぁ、やっぱりねwそう言うと思ったわw
「いや、その人はハンターじゃなくて王立図書館の司書してる穏やかな人だからそこは心配しなくていいよ」
と言う事でアイちゃんにも館に来て貰う事にした。
ロメリックに挨拶して、エミルとチャビーにも会ってエイムと青龍の里へ行く事を話した後、俺とフラム、エイムは瑠以、要、アイちゃんを連れて一度、館に戻った。
◇
館に戻った後、早速、訓練中の皆にアイちゃんと瑠以と要を新しくうちに来たラニエ達と共に皆に紹介した。続いてフィーちゃんが来たのでアイちゃんを紹介しつつ、瑠以と要が煉が元気か気にしていると伝えた。
「煉は元気でな?はんどぼーるを指導しながらわっちの秘書もしてもらっておるんじゃ」
その話を聞いた二人は煉が元気だと聞いて安心したようだ。
引き続きフィーちゃんにクレアと皆の訓練を任せた後、アイちゃん、瑠以、要を連れて館に戻る。
「…前の防衛戦で最高殊勲受けたって聞いてたけど…まさかこんな大きいお屋敷貰ってるとはね…」
そう言いつつ驚くアイちゃん。
「…フフフ、想像以上に大きい館ですね。さすがホワイトさんです」
「…うん、凄いとしか言いようが無いよね(笑)」
瑠以も要もうちの館の大きさに驚いていた。敷地の広さもそうだが丘の上にある館もデカい。元々は公爵邸だったことを話しつつ、館に入る。
ちょうど玄関ホールにレーナさんとリック、ラニエ、ベルシオ、ライルがいたので三人を紹介した。
セーナさんは仕事に出ているのでアイちゃんの魔法訓練の話をレーナさんにしたところ、訓練を引き受けてくれた。
「うちの家系が元々魔法適正が高いんですよ。セーナは仕事に出るので基礎からの訓練ならわたしでも出来ますよ?」
そう言われたのでアイちゃんの魔法訓練はレーナさんに任せる事にした。聞くとリックにも家事手伝いの傍ら魔法の基礎を教えてくれていたようだ。
アイちゃんの魔法訓練をレーナさんに任せた後、瑠以、要、アイちゃんに空いてる部屋を使ってくれと伝えた。一部屋が二十四畳ほどあるので三人は喜んでいた。
その後、ようやく俺とフラム、エイムは東鳳に転移した。
東鳳に転移した後、アマルとリベルトに挨拶をした後、リベルトにはラニエ達と瑠以、要が館に来た事を話しておいた。
「分かりました。折を見て一度、館に戻って挨拶をしておきます」
「これから徒弟達も入って来るから諜報活動してるみんなにも伝えておいてくれると助かる」
そう伝えた後、青龍の里へと向かった。
青龍の里は東鳳の備戎領の南東にある青龍山にある。その青龍山の麓に堅固な砦があった。俺達の目の前に青いドラゴニアが槍を構えて門を護っている。
俺達を見た青いドラゴニアの衛兵が険しい顔で槍を向けて来た。




