ケ〇コとマ〇ブ。
クレアの右ハイキックから回転して左後ろ回し蹴りをギリギリで躱す逸鉄。
続いてクレアの連打が逸鉄に襲い掛かる。『殲滅連打』ではないがそれに近い。すぐに逸鉄はスッとクレアの左に体を入れて両手の掌底で軽くいなす。
それを追うようにクレアの右裏拳が逸鉄を攻撃する。
逸鉄は連打をいなしたばかりだ。このままではクレアの裏拳をまともにメットに喰らってしまう。俺は逸鉄がクレアの裏拳にどう対処するか注視した。
周りの皆も二人の動きを真剣な目で見ている。フィーちゃんとフラムは噴水の所に座ってぱりんちょを食べながら観戦していた。これから格闘や武術を習得しようとしている融真、クライ、ジョニー、キースも二人の闘いを真剣に見ている。
二人の闘いが参考になるか分からんけどw
クレアは完全に我流だし、武術をやっているはずの逸鉄も時折、奇妙な動きを見せたりするからだ。それだけにその体勢から逸鉄がどうするのか皆も気になる所だろう。
その瞬間、逸鉄が面白い動きを見せた。クレアの裏拳を仰け反って避けるとそのままブリッジの体勢から、サマーソルトキックの様な動きでクレアの裏拳を脚で蹴っていなす。
そのままバク転して体勢を戻すと、しゃがんたまま素早くクレアに左の足払いを仕掛けた。逸鉄の足払いに体勢を崩すクレア。
「…チッ!!小癪な動きをするヤツッ!!」
体勢を崩して毒づくクレアがそのまま右手で側転して体勢を戻そうとした瞬間、低い体勢のまま回転した逸鉄に右腕を取られて右脚払いを喰らう。
クレアの腕を取ったまま逸鉄は身体の浮いたクレアを投げた。
低い位置からの投げ技に、クレアは背中から落ちると思われたが、落下寸前に両足を踏ん張るとゴリ押しで身体を反転させて体勢を戻した。そして地面を蹴って飛び上がると前転する。
そのまま宙での前転から逸鉄に踵落としを仕掛けるクレア。しかし、その踵落としをバックステップで避けてクレアから距離を取った。
「いや~さすがに動きが速いな~、拳打も喰らうと危険なレベルだな(笑)!!」
そう言いつつ笑う逸鉄。そんな逸鉄に、イライラを隠さないクレア。
「…貴様、格闘で勝負すると言ったであろう?何故打ち合いに応じぬのだ?」
クレアの言葉に、ふむと唸ると逸鉄が説明を始めた。
「奥さん、格闘は何も殴り合い、蹴り合いだけじゃないんですよ。打撃、関節技、投げ技があります。武術も同じですよ。それを全て組み合わせてその瞬間に最適解を出し反撃するんですよ」
「お主、そう言っても全然わらわに反撃せぬではないか?お主の技、全てを組み合わせてもわらわには攻撃が出来ないのか?」
クレアの問にしばらく考える逸鉄。
「…いや、返せるんだけどね~。そのなんと言えば良いのか…」
そう言いつつ審判をしている俺を見る逸鉄。
「返そうと思えば返せるけど、人の家の奥さんに打撃は返せないって事か?」
俺がそう聞くと頷きつつ、もう一つあると言う逸鉄。
「わたしが奥さんの攻撃いなして打撃で反撃したら…奥さんのプライドが…」
あぁ、そう言う事かw
「…ほぅ、面白い。わらわの攻撃をいなして打撃で返せると?わらわのプライドなどどうでも良い。お主の本気を見せろッ!!」
叫ぶクレア。イライラしてヒートアップしてるな…。
周りの皆も固唾をのんで見守っている。そこで俺は二人に提案した。
「お互い、攻撃寸止めでどう?ヒットカウントは触れれば有効とみなす。ここからは時間制限有りの打撃戦のみ。相手にどれだけ有効打を出したかで勝負を決める。これでどう…?」
「…ふむ。わらわはそれで良い。お主はどうだ?逸鉄よ?」
「うん、それで良い。受けるよ」
二人とも合意したので打撃戦を始める前に更に説明をした。
「払う、いなす、受け流すなどの動きでの接触はカウントしない。明らかな打撃のみ有効打って事で…」
説明の後、俺の号令で二人は動いた。
「…という訳だ。この館ではこれが日常だから心配はしなくていい。訓練だからな。怪我などは診てやって欲しい」
「ところであなたはどちら様ですかな?見た所、貴族籍の方とお見受けするが…」
ベルシオ爺さんに聞かれたウィルザーが答える。
「貧乏子爵の三男坊だ。貴族の様な格好はしているが流浪人と大して変わらんよ。ホワイトとその家族の友人でな。時々、この館に顔を出すから覚えておいてくれ」
その言葉に頷く三人。続けて三人の住居となる使用人、徒弟、料理人、庭師などの宿舎を案内する為にウィルザーが敷地の丘の二段目の東端にある大きな宿舎に三人を連れて行った。
俺はチラッと見た後、案内はウィルザーに任せてクレアと逸鉄の打撃勝負に目を戻した。
面白い事に逸鉄が武術的な動きをしている。禅爺の弟子だったから本来はこっちの方が基本なんだろう。普段の変則的な動きではなく、掌底を使ってクレアの拳をいなし、速攻で側面に周り左掌底でクレアの脇腹を攻撃。
「…チッ!!さっきのは本来の動きではなかったのかッ!?」
クレアが逸鉄の左掌底を右腕で叩き落とす。同時に左正拳で逸鉄のメットを狙う。それを逸鉄は右の掌底で弾いた。
その瞬間に、クレアの右膝が下から逸鉄に襲い掛かる。
「…ぐわっ!!」
クレアの膝蹴りで宙を舞う逸鉄。そのままバク転で着地し、追撃してくるクレアの踏み込んでからの右正拳を仰け反りつつ躱すとそのまま足を軸にして地面に倒れると両足を懐に戻し、うつ伏せの状態から腕の力と身体のバネを使って後ろに飛ぶように蹴りを放つ。
逸鉄の変則的な蹴りがクレアの腹部にヒットした。逸鉄のヤツ、酔拳みたいな動きしやがったw
…しかしコイツら、寸止めって言ったのに普通に打撃当てやがって…。まぁ、お互い手加減はしてるようなので敢えて止めませんがw
俺は逸鉄の動きを見ていた。かなり面白い。武術的な動きからいきなり変則的な格闘スタイルに変えたりしている。本人が言うようにその瞬間、自分の経験から最適解を出しているんだろう。
俺も地球に戻った時に実家に昔持ってた『通信空手』のテキストでも持ってきて練習してみるかwリックにやらせてみるのも面白いかもしれないw
そんな事を考えつつ、二人の打撃戦を見る。スキル無しの打撃戦、手加減もしているのでクレアの動きは精彩を欠いていた。
◇
クレアと逸鉄の打撃戦は僅差で逸鉄の勝ちとなった。
「…クッ、わらわとした事が…!!」
悔しそうなクレア。しかし、買った方の逸鉄は疲れたのか胡坐をかいて座り込んでいた。
「…いててっ、いや~かなり打撃を貰ってしまったな~(笑)。身体中が痛い…」
戦隊ヒーローの格好したヤツが胡坐をかいてブツブツ言ってる姿はかなり面白いんだが結構なボロボロ加減だ。
「…だから止めとけって言ったのに…」
逸鉄はジョニーに突っこまれて肩を貸して貰っていた。アマナに回復を頼んだ後、格闘訓練して貰うか。
「…主、ふがいない姿をお見せして申し訳ない…」
そう言って謝るクレアの前で、俺はフラムを抱っこしながら話した。
「いや、今回の打撃戦はかなり参考になったよ。今後の…いや、黒龍の里での対クローナ戦に役立つだろう」
「それはどういう事ですか?」
俺達の話を聞いていたフィーちゃんが俺を見上げて言う。
「おんしが言いたいのは闘いにおける戦術と言う事かの?」
「おっ、フィーちゃんも気付いた?そうなんだよ。今回、逸鉄が勝ったけど勝つまでの過程が参考になると思ってね。ダメージだと逸鉄の方が敗けてるけど今回のルールはダメージ勝負じゃなくてヒット数だからね…」
そう言いつつ、アマナに逸鉄の回復を頼む。
「…クレア、対クローナの作戦、立てるぞ?」
「…作戦、ですか…?」
「あぁ、退屈かもしれんけど重要だからな…」
そう言いながら逸鉄にクレアが打撃を与えた事を謝りつつ、面白いモノを見せて貰ったのでお礼を言っておいた。
「わっちもその作戦会議に参加するでな?」
そう言いつつフィーちゃんは逸鉄に話す。
「後の訓練はおんしに任せるからの。ちゃんと仕事したら魔界に連れて行ってやるでな?」
その言葉に狂喜乱舞する逸鉄。
…いやお前、今、全身打撲状態だろ…いきなり動くと…。
「…ぐわぁっ!!ああぁっ…いてててっ…」
…そうなるよな…回復するまで動くなよ…。
そして俺は後の訓練を逸鉄に任せてクレア、ティーちゃん、フラムと館に戻った。館に戻るとウィルザーが三人に館の内部を案内していた。
ウィルザーと三人に館内の部屋で診療所を作る事を提案した後、俺達は執務室に入った。
◇
「…それで主、先程の話の続きをして下され…」
「あぁ、その前に今回の逸鉄との打撃戦でお前がどう感じたかを話してくれ…」
そう言いつつ、俺はフラムをソファの上に座らせる。フィーちゃんもその隣にびょんっと飛び乗る。その向かいのソファに座ったクレアが話し始めた。
「…そうですな。今は悔しいの一言ですな…」
「他に何かあるか?」
「…うむ。戦闘中、かなりイライラしましたぞッ!!」
そう言いながらテーブルを両拳でドンッ!!と叩くクレア。思わずフラムがびっくりしてビクッと反応した。
「クレア、そんな大きな音出したらフラムがびっくりするでな?それでは母親として教育によろしくないじゃろ?」
「…あ、あぁ、済まぬ…思い出して感情が昂ったのだ…」
「まぁ、落ち着け。館の中のモノ壊すなよ?メチャクチャ高い家具だからな…」
俺はクレアに注意を促しながら上座のソファに座る。
「…今回はその感情がキーになる。これから簡単に説明するからよく聞いてくれ…」
真剣な眼差しのクレア。俺は話を続ける。
「…クレア、お前をイラつかせて感情の乱れを生み出したのは逸鉄の作戦だよ。最初から最後までな…」
「…あやつの…作戦…?」
「あぁ、そうだ。逸鉄は武術、格闘技をほぼすべて習得している男なんだ。ちなみにベルファの禅爺の一番弟子でもある…」
「…ほほぅ。あの者、ベルファのお爺様の弟子なのか…」
「戦いにおいて戦う前からそれ始まっているんだよ。それは個人の闘いにもある。逸鉄は鑑定に近いスキルを持ってるんだ。ついでだから言うけどシーちゃんの無属性魔法での格闘を指導したのも逸鉄なんだよ…」
俺の言葉に衝撃を受けるクレア。
「…なッ、なんですとッ!?シーの魔導格闘の…師ですとッ…!?」
「あぁ、やっぱり知らなかったのか。まぁ今はそれは良い。とにかく逸鉄はクレアを見て龍種だと気が付いた。だからお前に『一戦』と言われた時、その情報を活用したんだ…」
「…主、それが対母上とどう繋がるのですか?」
「いいか?ここからは勝てない相手にどう勝つか?の話になる。対クローナと置き換えて考えてくれ…」
俺の言葉にフィーちゃんは黙ってクレアを見ている。フラムは眠くなってきたのかソファから降りて俺の足元に来たので抱っこして寝かせた。
「…逸鉄がスキルと魔法なしでの格闘戦を提案したのは勝てない相手を自分の有利な条件に引き込む為のものだ。当然、人間相手だからお前はスキルと魔法がなくても勝てると踏んだろ?」
「…そうですな…」
「これで逸鉄は少しでも自らが有利な状況を作った」
俺は続けて話す。
「その後、対戦したが逸鉄は避けるばかりで一向に攻撃して来ない。当然、コイツ、ヤル気あんのかよ?ってお前はイライラしてきただろ?」
「…そうですな…」
「そこで逸鉄は更に有利な状況を作る為に周りの状況を使った。人の嫁、殴れないですよって言いつつ、龍種のプライドを利用した訳だな…。まぁ、寸止め打撃戦を提案したのは俺だけど、それも読んでたとしたら…まぁ、お前ら全然寸止めじゃなかったけどな…」
「…そうか…そう言う事だったのか…」
俺の話を聞いたクレアはようやく気付いたようだ。そんなクレアを見てニヤッと笑うフィーちゃん。
「わっちが説明する必要がなくて良かったでな?」
「…そうか。闘いは始める前から始まっている…情報の活用と自分に有利な状況を作り出す…確かに、今回の打撃戦は学ぶ事があったな…」
そう言いつつ、クレアは喜びを見せる。そんなクレアを見て俺は驚いた。
クレアの口から『学ぶ』ってワードが出た事に…。
「ついでにもう一つ、話しておく事がある」
そう言いつつ、俺はクレアの戦闘における癖?について指摘した。
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