禁忌のスキル。
地球の山の上の家に戻ったその夜の十時過ぎ。寝落ちしていたティーちゃんをゆりかごベッドに入れて上げた後、ゲームを放置にして寝ようとした所、フラムが起きた。
「…あぅぁ~…ぉいお~… (…パパ~…ぉしこ~…) 」
「…ん?フラム、おしっこか?」
「…うぅ… (…うん…) 」
俺は慌ててフラムを抱っこしてトイレに連れて行く。子供用の便座を置いた後、パジャマのズボンとパンツを下ろしたフラムを便座に乗せる。
ついでに俺も寝る前に用を足しておいた。
おぱんちゅとパジャマのズボンを履かせて抱っこして部屋に戻ると突然、居間に置いていたスマホが鳴った。突然の電話に俺は動揺する。
フラムを下ろして震える手で電話に出る。母さんからすぐに病院へ来いとの連絡だった。父さんの容体が急変したようだ…。
俺はすぐにフラムをベッドに寝かせると出掛ける支度をはじめた。
「…ぁうあ~…おぉいぅ? (…パパ~…どこいく?) 」
フラムが上半身を起こして、眠そうに目を擦りながら俺を見ている。
「フラム、じーちゃんが危ないんだ。もう遅いからフラムは姉さん達と寝てて良いよ…」
しかし、フラムはベッドからもそもそと降りて来る。そして俺を見上げる。
「…ふあう、ぉ…いぅ… (…ふらむ、も…いく…) 」
フラムも付いて来るというので少し考えた後、着替えさせた。ティーちゃんとシーちゃんは小さな鼻から鼻風船が出ている。
妖精達は鼻から鼻風船が出ている間は絶対に起きない。
二人は完全に寝ているので置いて行くしかない。キッチンを見るとリーちゃんがプリンを食べた後、お菓子を食べていた…。
どうやらリーちゃんは昼寝をしていたのでこの時間に起きていたようだ。俺は今からフラムを連れて病院へ行く事を話した後、寝ている二人の事を任せた。
俺はフラムを連れて車に乗り込むと、はやる気持ちを押さえて病院へ向かった。
◇
病院に到着。病室に上がると皆、既に集まっていた。母さん、俺の弟、弟の嫁さんと姪二人、姉と甥がいた。叔母さんの姿もあった。
「…スマン、遅れた…」
そう言うと俺は抱っこしていたフラムをうちの娘だと皆に紹介した。
会いたくないヤツら二人の顔もあったが、今はそんな事を言ってる場合ではないので我慢する。姉と甥は俺が抱っこしているフラムをチラッと見たが特に反応はなかった。
まぁ、話す事など何もないのでその方が都合が良い。この二人とは正直、全てにおいて俺とは考え方が全く合わない。
弟はフラムを見て驚いた。
「アニキ、ホントに子供いたのか…!?」
弟の嫁さんも姪二人もフラムを見てびっくりしていた。そりゃ驚くわな…。ずっと独身で結婚していないと思っていただろうからな…。
母さんがもう二人いるんよ、昨日嫁さんも一緒に連れて来たとティーちゃん、シーちゃん、セーナさんの説明をする。
もう既にうちの嫁さん(セーナさん)は仕事で海外へ戻り、ティーちゃんとシーちゃんは寝ているから連れて来なかったと説明した。
ベッドの上では身体中に管を付けて呼吸の苦しそうな父さんが寝ていた。叔母さんが父さんの手を握って祈る様に呼び掛ける。フラムがその姿をじっと見ている。
「…あぅぁー、いーあぅ、えぇ… (…パパ、じーちゃん、てて…) 」
フラムがじーちゃんの手と言ったのでベッドサイドに座らせて父さんの手を握らせた。
しばらく見ているとフラムの手が光を放つ。どうやら『無邪気』と『闇の渦巻き』を併用しているようだ。恐らくだがフラムはスキルを使って父さんの身体からの悪いものを吸収しようとしているのだろう。
すぐに父さんの呼吸が深くなり、少しだが心電図モニターり数値が回復した。
「…フラム、よくやったぞ!!」
おれはフラムを褒めてやる。少しだけだか父さんの状態が良くなる。
「…アニキ、その子…なんか凄いな…」
「あぁ、まだまだ小さい子だけどたまに不思議な力を見せたりするんだよ…」
適当に誤魔化しつつフラムの頭を撫でてやった。姉と甥が離れた場所でフラムの事をブツブツ言っていたが無視した。あんな奴らに関わってると碌な事がない。
俺は再び心電図モニターを見る。フラムの力で何とか状態をいい方に戻ったが、しばらくすると再び父さんの状態が悪化し始めた。
…くそっ、せっかくフラムが戻したんだ。今度は俺が何とかしないと…
その瞬間、俺はハッとして思い出した。俺が初めて神様に会った日に禁忌と言われた『御魂分け』スキルの事だ。
最初はなんのこっちゃ意味が解らなかったが今になってなんとなくだが解った気がした。
…御魂。つまり自らの魂を削って魂を付与する事によって相手の寿命を伸ばす事ではないかと考えていた。俺は震える手で父さんの手を握る。
細く骨っぽい手だ。
「…父さん、もう少し、頑張ってくれよ…」
俺は呟くとスキル『御魂分け』を発動した…。
◇
数日して近くの葬儀場で父さんの葬式をした。
俺の使ったスキル御魂分けは発動後、生命エネルギーを父さんに渡す直前で突然消えた。俺は慌ててスキルを再発動しようとしたが、スキルが全く反応しなかった…。
結局、俺はそれ以上何も出来なかった…。
何も出来ず俯いていた俺にフラムが肩をポンポンと叩く。俺が顔を上げるとフラムがあぅあぅ言って上を指さしていた。
…心肺停止の後、俺とフラムは『魂』が抜けている父さんを見ていた。父さんは魂のまま、フラムの頭を撫でて笑いかけた。
その後、父さんは少しづつ、上へと昇っていく。
フラムが必死に手を伸ばして父さんの魂を捕まえようとしたが、それよりも早く魂は昇っていく。父さんは俺とフラムを見下ろしてメッセージを送って来た。
≪…嫁さんと子供達を大事にしろよ…?≫
それだけ言うと天に昇って消えた…。
「…フラムちゃんはお爺ちゃんが見えてたんじゃないの…?」
叔母さんから聞かれて俺は頷いた。フラムのつぶらな瞳からポロリと涙がこぼれた…。
しかし、こんな時でも場の空気を壊すヤツらはいるもんだ…。叔母さんや弟達は凄いな、とフラムの頭を撫でてくれたが、病室の角の方で姉と甥は見えるわけないだろ、と呟いていた…。
…コイツら、マジでスクリューブロー喰らわしてやろうかと思った…。
親の年金で暮らしてる親子を殴り飛ばしたい衝動に駆られたがこんな状況だ。だから我慢しといてやった。
そして、数日後、俺はフラム、ティーちゃん、シーちゃんを連れて父さんの葬儀に参列した。葬式の後、火葬場で納骨して家に戻った。
ティーちゃん曰く、魔素や魔力と同様にこの地球にはスキル素粒子が少ないそうだ。フラムのスキルは上位スキルではない。だから発動して一定の効果は出た。
しかし俺の御魂分けスキルは神様が『禁忌』と言う程のスキルだ。
「スキルが強力な分、スキル素粒子を多く必要とするんじゃ。だから発動はしたがスキル素粒子が足らずスキルを持続出来なかったんじゃろう…」
そう説明してくれた。
次は四十九日に法事だ。更に翌日から一週間に一回、四十九日まで『おかんき』(うちの地方だけにある慣習)という仏教儀式?があるそうで一週間に一回はこっちに戻ってこなくてはならなくなった…。
しばらくはあっちの星とこっちの星を行き来しないとな…。
◇
数日、遺産整理の為に子ども達を連れて実家へ行く。三人ともお片づけをよく頑張ってくれたので帰りにソフトクリームを食べさせに行く。
「ソフトクリームってなんじゃ?」
ティーちゃんに聞かれたのでコーンの上にグルグルとぐろを巻いた様に冷たいクリームが乗せられたモノだと説明した。
「おぉっ、それは良いでしゅね!!」
「おぅぉういーぅ、あぇぅ~(そふとくりーむ、たべる~) 」
実家のある町の商店街へ行く。老夫婦が経営する食料品店に入りソフトクリームを三つ頼んだ。店の主人の爺ちゃんが、外は暑いから店の中のカウンターの奥で食べなさいと勧めてくれた。
俺はお礼を言いつつ、三人と奥へ行って座敷に座る。俺はピザまんを買って食べる。ソフトクリームを食べつつ、三人が俺の食べるピザまんをチラチラ見る…。
三人とも欲しそうな目をしていたので爺ちゃんにあと四つ、ピザまんお願いしますと頼んだ。一個はリーちゃんの分だ。
リーちゃんは今日は南極の方に行っている。本当に南極の地下に宇宙人の基地があるか確認しに行ってる。俺が録画していたCSの番組を先に見たな…。
ピザまんを食べ終わった後、子ども達が興味を持った和菓子なども買っておく。いちご大福、どら焼きなどだ。
和菓子は向こうの世界に持ち込んでも大丈夫そうなので皆にお土産として持って帰る事にしたのだ。ついでにトメ婆にも少し分けてあげた。
俺は数日の間、異世界の館と地球の山の上の家を往復した。おかんきや、母さんの事も心配なのでフラムとリーちゃんと時々、地球に戻ってくる。
実家に行って遺産整理を手伝いつつ、家に帰った時に空いた時間で俺は地球でスキル素粒子を集める訓練を始めた。
地球でもそれなりにスキルを使えるようにしておきたい。今の世の中、何があるか解らないし、肝心な時にガス欠起こしてスキルが止まると困るからだ。
瞑想しつつ、スキル素粒子を周辺の土地をイメージしつつ呼び込む。俺の隣でフラムも同じ様に座って瞑想の真似をしている。
うとうとして眠りそうだが…。
リーちゃんから少しづつ意識を拡げて行くと良いとアドバイスを貰って、呼び込む範囲を少しづつ拡げていく。
この訓練が『神気』獲得に役立つ事となった。
皆さん、いつもアクセスありがとうございます。来週から『黒龍の里』編を始めます。何卒、よろしゅうお願いします~<(_ _)>




