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二話


 鬼条(きじょう)(じん)

 それは俺の新しい名前であり、俺の新たな承認だった。

 妖刀へとなってしまった今、俺は過去の名前を失った。だけれども、彼が生きた痕跡は未だ残り、こうして、俺がいる。過去の俺も今の俺も姿形は違えども、自分自身である事は変わらない。

 だが、姿形は俺が選んだ物であり、今更変えようのない。俺がケダモノだという事はどうやら、あのばあさんには理解されているようで「色んな人、妖怪がいますからね」と簡単に片付けられてしまった。

 現在、俺は長物を入れる袋の中へ入っており、背負われている。背負っているのは俺ではなく、鬼条家の長男、鬼条(きじょう)(しん)

 鬼条薪、中学三年生であり、鬼条焔の孫である。身長は178cmと中学生の割りにかなり高身長と言えるだろう。

 因みに俺はというと、実体化はしておらず、されど本体のままでじっとしている訳じゃなかった。

 実体化の代わりに自身の霊体を作り出して、彼の隣を歩いている。これはあのばあさん曰く、霊術の一種との事。霊力を源に扱う術であり、誰もが霊力を宿しているらしい。


 「何で、俺なんだ?」


 そう不服そうに口を開く。


 「別に(あかり)でも良かったじゃないのか?」


 灯というのは、鬼条灯。彼の弟で小学六年生だ。


 「焔さんの言い付けじゃけぇね」


 「刄さんは何とも思わないのか?これじゃあ、自由とか」


 「自由は十分あるよ。これ以上は罰が当たる」


 「そうかよ...」


 そう、これは鬼条家、前当主の言い付けである。条件として、彼と良い友になる事と付き人になるという約束の下、俺は鬼条家の養子となった。そういう訳で俺は戸籍状、鬼条焔の義理の娘となっている訳だ。

 別に霊体である必要性は感じないが、これもあのばあさんの言い付けなのだから仕方がない。まぁ、これもこれで不便ではないし、物に触れる機会はあまりないから問題でもない。

 今は登校中であり、彼が通う中学へと向かっている最中だ。


 「またか...」


 彼はそう小さく呟き、視線を向ける。そこにあったのは何やら、影みたいな物だった。その影はセーラー服の女子生徒の背後に立っており、それに対して、彼女はまるで気が付いていない。


 「あれは...」


 「生き霊

 生きてる人間の感情から生まれた存在

 あれは悪霊の類いだな。どこかの誰かが、行き過ぎた思いをぶつけてるのか、それとも、悪意を抱いているのか

 とにかく、大きくなる前に始末しないとな」


 そう言って、手のひらに火を灯し、握り潰す。その直後にあの影の真ん中に穴が空き、炎が灯り、足を止める。そして、その影は一瞬にして、全身が発火し、灰となっていくが、その様子に皆が気が付いてないような素振りを見せる。


 「見えてない......のか」


 実際、見えていないのだろう。そうでなければ、既に騒がれている。


 「あの程度なら、霊力だけ十分だ」


 彼は祓い屋の子供であり、火葬士である。火を操る一族であり、霊力を扱い、妖怪が内に秘めている力、妖力すらも持つ、妖怪退治専門家の一族なのである。

 登校後、普段通りに彼は学校生活を送っていた。

 特に変わった事は見受けられないものの、何もないというよりかは彼自身、教室で孤立していた。別にいじめを受けていたという事ではなく、ただ彼には友達がいなかった。だから、話し掛けてくる相手なんておらず、もしも、話し掛けてくるとしたら、教師ぐらいだろう。

 それの何が悪いと問われれば、何も悪くない。誰にも迷惑を掛けず、気にも掛けられない。それはまるで空気のように誰も気にされないといった感じだ。

 それに対して、俺は何も意を唱えない。俺自身、似たような事があったと思えるから。

 昼休憩、俺達は屋上にて昼食を取っていた。因みに昼食は彼の母親が作った弁当である。

 霊体では食事する事は出来ず、実体化させる。弁当の中身はおにぎりに卵焼き、焼き鮭、ブロッコリーが詰め込まれており、学生時代の弁当を思い出す。


 「...いただきます」


 そう思わず、両手を合わせて言葉にする。


 「いただきます」


 それに釣られたのか、隣に座っている彼もそう言葉にする。


 「そういや、薪君は友達おらんのん?」


 ただ、あまり積極的に関わりを作ってないで、もしかしたら、いるかもしれない。そういう訳で俺は彼にそう尋ねてみた。


 「いない。別にいいだろ

 いたって、面倒なだけだし」


 「ふーん...」


 それはそうかもしれないが、いないよりかいた方いい。だが、無駄に交友関係を広げるのもあまりよろしくないと、思う。これは俺の偏見なので、押し付けはよろしくないだろうが、それでも誰もいないというのは寂しいと思う。


 「因みに俺は?」


 「...刄さんは......、ただ付き人だろ」


 「あら、そう。俺は焔さんに薪君と友達になってくれるようにって言われたんじゃけど」


 「友達って、誰かに言われてなるものじゃないだろ」


 「まぁ、そりゃ、そうか」


 確かにそうだ。誰かに言われて、はい、これから友達です、とはならない。彼の言い分は正しい。否定する所なんてない。世の中には裏切りが存在し、いじめが存在し、誰もが悪を抱えている。だから、寧ろ、俺は彼の意見を肯定する。

 その後、彼とまともに口を開かずに、黙々と弁当を食べた。彼とは特に話したい事なんてなく、基本的に俺はお喋りな人間ではなく、それは彼も同様のようで隣り合う二人の静かな食事風景となってしまった。それはそれで、何やら、気まずいような雰囲気を感じるが、それでもこれは悪い事でもない。

 俺自身、騒がしいのは好きではない。周りがガヤガヤと騒々としているのは、どうにも好きにはなれない。それが蝉や蛙、鈴虫の鳴き声なら風情だと思えてくるが、多人数の話し声はあまり好ましくない。騒がしくていいと思えるのは祭ぐらいだろうか?

 昼食を終えた後の事だった。ガチャリと屋上が開く音が聞こえ、やって来たのは顔面偏差値の高い......、顔付きが整ったイケメンだった。


 「お、いたいた。鬼条、探したぞ」


 そう馴れ馴れしく話し掛けてくる様子を見る限りだと、どうやら、知り合いらしい。

 何だ、ちゃんと友達がいるじゃないか。

 現在、俺は姿を消して、霊体となっている。生徒じゃないのが見付かって、騒ぎになるのも厄介だし、彼に迷惑がかかってしまう。


 「......何だ、ねずみ男か」


 彼は疎ましげにため息を吐いて、そう言った。撤回する。どうやら、彼は友達ではなさそうだ。

 それにしても、ねずみ男というあだ名はどこぞの妖怪アニメに出てくる主人公の腐れ縁ではあるが、見た感じ、好感が持てそうな少年のように見えるのは、俺自身、見る目がないからなのだろうか。


 「そのあだ名、止めてくんない?」


 「お前が俺を探してるって事は何かあるんだろ?」


 「俺、そんなにやましい人間に見えるか?」


 「どうでもいいから、さっさと話せ」


 「はいはい

 夏野柚希って娘は知ってる?」


 「知らない」


 「相変わらずだよな、鬼条

 校内じゃ、結構な有名人なんだけど

 夏野(なつの)柚希(ゆずき)、二年生。外見は可愛らしく、告白する男子は数知れず、恋に破れた男子も数知れず、学園のマドンナの一人に数えられるような存在」


 「で?」


 ねずみ男の説明に彼は淡白な相槌を打つ。雰囲気的に面倒臭そうといった印象を受けるのは恐らく、気のせいではない。多分、鬼条薪は彼を嫌っているのだろう。


 「......そんなんじゃ、女子にモテないぞ。鬼条の場合、一生、童貞で人生、終えそうだよな

 その子、不登校なんだ。それも一ヶ月

 それで彼女の友達がお見舞いに行ったらしいんだけど、部屋から出てこないようで何か怯えてるみたいって

 どうだ?これ、鬼条好みの案件だろ?」


 「それで、幾らなんだ?」


 話を聞き終えた彼はそう尋ねると、ねずみ男は笑顔を作って、こう言った。


 「一万円

 もう先に貰ってるから、この仕事、受けるしかないよな」


 成る程、確かに人の顔を被った妖怪だ。だけれども、社会的に考えて、こういう仕事ぐらい存在している。ただ、この場合は良心的ではないのがよく分かる。人の不幸は蜜の味とはよく言ったものだ。


 「分かった。五千円でやってやる」


 彼はそうため息を吐いて、そう言った。


 「それが嫌だというのなら、その仕事は断らせてもらうぞ」


 「ちぇ...、分かった。鬼条がそう言うのなら、仕方がないか」


 そういう訳で彼はその仕事を受けて、彼から五千円を受け取った。その五千円を受け取るも彼自身、何一つとして嬉しそうにはしていなかった。寧ろ、嫌そうといった印象にさ、感じさせられる。


 「それで依頼者は誰なんだ?」


 「依頼者?確か、天崎(あまさき)星野(ほしの)って言ったっけ?」


 彼は依頼者の事などどうでもいいのか、思い出すようにして、そう言った。

 放課後、あのねずみ男から教えてもらった住所を辿り、夏野柚希の家へと向かっていた。どういう案件なのかは分からないが、今日の朝のような幽霊の類いなのだろう。

 到着したのはごく普通の一軒家だった。表札には『夏野』とあり、その横にはインターホンが設置されている。

 そのインターホンを押すと「はい」と声が聞こえ、「夏野柚希さんのお見舞いに来たんですが」と彼が述べると夏野柚希の母親らしき女性が出てきた。


 「ごめんなさいね。あの子、部屋に引きこもっちゃって、出てこないのよ」


 そう申し訳なさそうにそう言う。そんな彼女の周りに何だか、黒い靄が漂っているように見える。


 「あの、お母さん、後ろを向いてもらっていいですか?」


 そう声を掛ける。何を見付けたのか分からないが、祓わないといけない対象があるのだろう。


 「後ろ?」


 首を傾げながらも、彼女は背中を向ける。そこにいたのは黒い赤子のような物が彼女の背中にしがみつき、「オギャア、オギャア」と声を上げて鳴いていた。さっきまで気が付かなかったが、突然、現れるのだから、こっちが驚いてしまう。


 「これも...生き霊?」


 「だろうな」


 彼は落ち着いた様子でそう返答する。

 彼はその黒い赤子に手を伸ばし、手は炎に包まれ、撫でるようにその赤子に触れる。触れた直後にその黒い赤子は炎に焼かれ、灰と成し、消滅していく。


 「もういいですよ」


 彼はそう声を掛けて、引きこもっている彼女の母親は前へと向き直す。


 「何か、背中に付いてたかしら?」


 「ええ...、おっきいのが憑いてましたよ」


 「おっきい?」


 「あの上がっていいですか?」


 「え、えぇ。お見舞いに来たんだし。娘に声を掛けてあげて」


 母親から了承を受けて、家へと上がる。彼女の部屋の前まで行くとその扉の前に黒い靄が掛かっているのが分かった。この部屋の中身は巣窟なのだろう。大きいのが住み着いて、彼女にでも取り憑いているのだろうか?

 幽霊の類いはよく分からない。何せ、今まで遭遇した事がなかったのだから。こういう存在は基本的にはテレビのバラエティで取り上げられる。特に夏、そういう話題が浮上する訳だ。俺個人としてはそういう物が割りと好きだったりするのだが、後々、後悔したりする。怖いもの見たさという奴だ。見て聞いた後は色々と想像してしまい、それが仇になったりする。


 「刄さん、悪いけど、ちょっと中を見てきてくれ。状況を知りたい」


 そう、彼に頼まれる。人の部屋に無断に入るのは少し気が引けるが、確かに彼の言うように状況を確認する必要がある。


 「分かった」


 仕方なく、俺は扉をすり抜けて、部屋の中へと入る。部屋の中へ入ると、真っ暗でそこには大人数の影に埋め尽くされていた。その影はベッドの周りを囲っている。そして、ベッドの上には布団を被っている誰かがいるのが、こんもりと盛り上がっていた。


 「─────────────────────────────────」


 それらの影達は何か言っている。それが何なのか分からない。彼女に対して、憤慨しているのか、憎悪を抱いているのか、それとも、それとは別の感情なのかは判別の付かない。ただ、この光景はおぞましいように感じさせられる。この場にいる影の誰も彼もが、ベットに踞っている彼女に対して執着している。

 この異様な光景から抜け出すべく、部屋の外へと出て、ほっと胸を撫で下ろす。それらは何にすがり付いているのか、何を欲しているのかは定かではないが、あの窮屈な部屋にあったのは人の執着で、それを押し込んだような場所になっていた。


 「どうだ?」


 出てきた直後にそう尋ねられる。


 「なんか...、仰山、おったよ...。あれも生き霊か?」


 「どうだろうな。影みたいなのが、いたなら、そうなんだろう」


 「じゃったら、ありゃ、生き霊じゃ。生き霊が囲っとった」


 「囲ってるか......。どんな風に囲ってたんだ?」


 「どんな風って、まるで覆い被さるようにしてたけど」


 あの執着は異様だ。あんな場所にいたら、色々と壊れてしまいそうだ。ていうか、何で、彼女はあそこから出ないんだろうか?まさか、あの生き霊共に捕まっているんじゃなかろうな。


 「なら、早めに決着を付けないとな」


 彼はドアノブに触れて、回してみるも開く様子はない。


 「刄さん、内側から開けてきてくれ

 内側からじゃ、開けられない」


 「了解」


 この場には彼女の母親はおらず、見られてない今ならそういう事をしても問題という事だろう。

 そんな訳で俺はもう一度、あの部屋へと入り、今度は肉体を実体化させて、扉の鍵を内側から開ける。そうして、扉を開き、彼自身が彼女の部屋へと踏み込んだ。


 「暗いな...」


 そう言って、彼は右手の人差し指に火を灯すも一向に明るくなる様子がない。


 「ちょっと、持ってて」


 「あいよ」


 俺は俺の本体を渡される。渡された刀を手に一応の心の準備をしておく。いつでも、抜刀出来る状態にしておけば、迎撃ぐらいは出来るだろう。


 「ほんで、どうするつもりかねぇ?」


 俺は彼に対して、そう尋ねる。俺には斬る事ぐらいしか出来ない。徐霊的な事は専門外で、何を専門しているかと問われれば、何一つ特化した物は持っていない。精々、襲い掛かってくる相手を切り捨てる事ぐらいしか出来ない訳だ。


 「焼き払うしかないだろ。ちょうどいいから、説明してやる

 霊力ってのは魂由来の力、誰しも持っている力だ。その霊力で作りあげた物は魂に干渉する力

 妖力というのは妖怪と呼ばれる者が持つ力。西洋では魔力なんて呼ばれてる。要するに何らかの現象を引き起こす為の力だ

 現象を引き起こすには妖力、そんで魂に干渉するには霊力

 そういうのをちゃんと頭に入れておけよ。俺の付き人するのなら、それぐらい覚えといて当然だからな」


 おい、どうした。いきなり、偉そうだな。


 「どうしたん、急にイキイキしだして。何か、悪いモンでも食べたかねぇ」


 声を低く、目を細めて、そう尋ねる。


 「.........何でもない」


 彼は不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。俺の言った事が気に食わなかったのだろう。まぁ、何かを共有する事は悪い事でもない。

 一応、俺も鬼条焔からそういう事を教えられている。彼が話した通り、霊力は魂に干渉する力で、妖力は現象を引き起こす力だ。霊に対しては霊力が有効で、妖怪の類いには妖力が有効と聞いている。まぁ、彼の方が手慣れているのだから彼に任せた方が良さそうなのは分かるし、大方、さっきみたいに燃やすのだろう。火葬士と一族が名乗っているのだから、火に関わる力を持っている。


 「さっさと終わらせる」


 そう言った後の事、


 「──────────────」


 辺りは真っ黒に閉ざされてしまった。それらは絞め殺さんとばかりに押し潰されるような感触に陥り、肉体へと圧力がかかる。

 聞こえるは彼らの殺意の籠った怨嗟と共に捻り殺しにきている。何がどういう状況なのか分からない。

 だけれども、俺自身、このままで殺られるつもりも更々ない。

 鬼条焔から、教わった霊術は霊体の術の他に霊力を纏わせる術と霊力を放出させる術だ。


 『威圧』


 自身の霊力を一気に放ち、相手に当てる事によって、文字通り『威圧』する技術でもなければ、技でもない単純な行為である。それによって、締め付けと覆われ閉ざされた視界は取り戻し、周りを確認する。

 近くに何やら、黒い物があるのに気が付いたが、何やら、実体があるように思える。まるで彼らに覆われた何かのようで、彼の姿がないのに気が付いた。


 「あー...、薪君?」


 まさかと思い、そう声を掛けるも「──────」と彼の声らしき声が聞こえるも何を言っているのか分からない。どうやら、彼も閉じ込められたらしい。

 さて、どうするべきか。このままでは彼も絞め殺されてしまう。そう考えあぐねていると、その黒い燃え始め、灰となって消滅し、鬼条薪の姿が中から現れた。

 彼は「ふぅ」と息を吐き出して、ため息を吐く。

 「大丈夫か?」と尋ねてみるが、返答がない。彼は考えるような素振りを見せて周りを見渡し、部屋の電灯を付けるべく、出入り口の横にあるスイッチを押すも、明るくはならない。


 「刄さん、ちょっと、手伝ってくれ」


 彼は考えがまとまったのか、そう声を掛けてきた。

 彼は一先ず、ベッドの周りにいる奴らを自身の炎で葬り、布団をめくる。布団をめくるとそこには頭を抱えるようにして踞っている彼女の姿があり、微動だにしない姿はまるで生気のような感じだった。


 「生きてんだよな?」


 そう思わず、俺は言葉を口にする。状況が状況だった為に死んでいるようにも見えた。


 「生きてる。とりあえず、彼女を外に出すぞ」


 そう彼は言った後、彼と共に彼女を外へと運び出すが、廊下へと何か黒い物が纏わり付くように付いてきていた。

 どうやら、これが部屋を真っ暗にしている元凶のようだ。彼女が移動するのに対して、それを追い掛けるようにして、周りを浸食していくように付いてきている。余程の執着だ。彼女に何をされたというんだろうか?

 ふと、彼の悪友であるねずみ男の顔を思い出す。そう言えば、彼は夏野柚希が学園のマドンナの一人だと言っていた。そして、多くの男子生徒からの告白を受けては断っていた。つまり、この執着は未だに諦め切れない彼らの物だという事なのだろう。まぁ、推測を立てた所で実際、どうなのか分からない。

 彼女を担ぎ出す際にリビングへと通る。そこには彼女の母親がおり、彼女の様子がおかしいのに気が付き、慌てて近寄ってきた。


 「柚希、...何がどうして」


 彼女の痩せ細ったような姿に意識朦朧とした様子に戸惑い隠せないようだ。


 「お母さん、落ち着いて下さい」


 「柚希に何があったの?」


 そう尋ねられるも、それには返答はせずに、


 「庭をお借りしますよ」


 そう告げて、この家の庭まで運び出して、地面へと寝転がす。


 「こんなにデカイのも、初めてだ。それに彼女の(うちがわ)にも取り憑いてる」


 「刄さん」


 「あいよ」


 そう言われて、返事をし、俺は自身の実体を霊体化させる。彼女を運ぶ際に彼から説明を受けた。彼女の内側に幾らか取り憑いている奴がいるとの事で、実体のある肉体ではそれを外側には引きずり出せないとの事。「薪君の炎で焼けば早いんじゃないかねぇ?」と尋ねてみたが「俺じゃ彼女の内側まで焼き払ってしまうだろ。俺はそこまで技術なんて持ってない」との事らしい。


 「ほんじゃあ、ちぃとばかし、失礼しますよ...っと」


 俺は彼女の内側へと霊体を入れる。すると何やら、変な感触が手に触れた。それを引っ張り出すとそこから黒い何かが溢れ出るように出てきて


 「うわぁあああああああ

 あぁぁぁああああああああああ」


 突如として、彼女は叫び出した。


 「柚希!!」


 そう彼女の母親が近寄ろうとするも、「待って下さい。まだ、終わってません」と制止する。


 「終わってない?そんな事より、娘が!!」


 その慌てている姿の母親に「もう少し待って下さい」と声を掛けて、


 「すぐに終わらせます」


 そう言って彼は前に出る。

 外へと出てきた影達は彼女の元へとすぐに戻ろうとするが、彼はその影達に対して、炎を放つ。それはあの時見た爆炎だった。誰一人として逃さないように、誰一人として残さないように焼き払う。

 そうして、その場にあった全ての影は消失し、


 「お母さん?」


 彼女は目を覚まし、起き上がる。


 「柚希...、大丈夫なの?」


 「大丈夫って、何が?」


 彼女はどうやら、状況が分からないようだ。そして、この母親にも何も見えていない。

 その後、彼女は救急車にて運ばれていき、俺達はその場に取り残されてしまった。

 彼女の母親はどういう印象を持っただろうか?恐らく、良い印象は持たなかった筈だ。引きこもりの彼女を外へと無理矢理、出した訳なのだから、そういう風にも見えた筈だ。一先ず、これは解決したという認識でいいのだろう。


 「それより、あれらって生き霊って認識でええんかねぇ?」


 「ああ、あれは生き霊だ

 恐らく、彼女の場合は自分を好きでいる対象の執着が原因なんだろ。マドンナというのも、大変だな」


 などと彼は興味なさげにそう言った。

 彼には友達がいないらしい。いるのは悪友で、俺は付き人。悪友とはただ腐れ縁のような存在で、俺はまだ出会ったばかりで親しい仲という訳ではないようだ。


 「それと、刄さんがいなかったら、どうにも出来なかった。ありがとう」


 「どうしようもない時は、どうするつもりだったんかねぇ?」


 「それはばあちゃんを呼ぶしかないだろ。ばあちゃん、プロだからな」


 その後、彼の手元の五千円は依頼者へと返金された。


 『天崎星野様、ご依頼の仕事を完了しました。この封筒に入っているお金はお釣でございます

 現在、彼女は○○病院にて入院しています。もしよろしければ、お節介とは思いますが、お見舞いへ行かれてどうでしょうか

 では、ねずみ男にはお気を付けて』


 封筒に五千円と手紙を入れて、彼女の机の上へと置いて、彼は返す。元から彼は金を稼ぐ為にこんな事をしていなかった。ただ情報網があのねずみ男である事と金儲けとして利用しているという事に何か思う事があるのだろう。

 彼は火葬士。霊力の扱いに長け、妖力を宿す者。その在り方は妖怪に近い存在であれど、人間だった。

 今日も憂鬱に学校へと通う。


◇◇◇◇


 ある日の昼休憩、私の机に一つの封筒があった。その中身には一枚の手紙と支払った一万五千円の三分の一が返ってきていた。手紙の内容としてはこの五千円札はお釣だそうだ。それにしても大きなお釣だな、なんて思ったりする。


 「ねずみ男?」


 ふと、そう言葉を口にする。

 どこぞの妖怪アニメに出てくる半妖だ。この学校には妖怪が住み着いているとでも言いたげな締めくくりだったが、差出人の名前が書かれていないので誰が私の机の上に置いたのか分からない。

 話によると見知らぬ三年生が私の机に置いていくのを見掛けたらしいが、顔まで見なかったらしい。

 さて、これから私が話すのはこの中学で噂になっている都市伝説的な存在の『山田君』だ。この『山田君』が何者なのかは定かではない。噂によるとこの中学の生徒で死後、とある教室に取り憑いているらしい。その教室というのは美術室で、もしも、困った事があれば内容を書いた手紙をロッカーに入れるようにしたら解決してくれるらしい。

 私の場合は金銭を要求されたが、これが本当の話しかどうかなんて、定かではない。もしかしたら、誰かの悪戯でただ単に噂になっているだけで、それを真に受けた私が馬鹿なだけかもしれない。

 さてと、この話を照らし合わせるとするのであれば、都市伝説として語られる『山田君』は三年生であり、在籍している事となる。そうなるとこの都市伝説は虚構となり、非現実的ではないという事となる。つまり、これはただの悪戯で『山田君』なる存在は否定されてしまった事になる。姿を見たという証言があるのだから、そうなのだろう。

 それはどういう事を示すかというと、私の友人である夏野柚希は引きこもりから脱却出来ず、そして、私の見た『何か』から解放されていないという事となる訳だ。


 「はぁ...」


 一万五千円の金額は中学生からしたら、高い金額であり、それでも友達を助けるには安い金額だと思える。

 これが嘘だったというのであれば、怒りさえ覚えてしまうが、信じてしまった私が悪いとも言える。

 柚希は大丈夫だろうか?一生、あのまんまでいるんだろうか。そう思うと一抹の不安がより一層大きくなっていくようにも思える。

 何かに取り憑かれているように見えるのは、今の所、私だけのようで、彼女の母親には見えてないようだった。それは恐らく、この世のものではない存在。例えば、幽霊とかそういうオカルト的なものなんじゃないか。そう思ってしまう以上、寺の坊主にでも駆け込んでお経を唱えてもらった方が手っ取り早いと思う。それとも、専門家を探してでもお願いするかだ。


 「はぁ......」


 二度目のため息を吐いて、やるせなさだけが残る。私では彼女を救えない。救う事は出来ず、出来るとしたらお見舞いだろうか。

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