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私は僕に恋をする  作者: 黒瀬玄絵
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一、序章(叙情)

はじめての投稿です。

少しでも多くの人に読んでもらえたら嬉しいです。

昔の良き時代のラノベを意識して書いてみました。


これから毎日、少しずつ投稿していきます。

よろしくおねがいします。

「アンドロイドについて、どう思う?」

 ほとんど独り言のように呟いたその言葉は、潮風に掻き消される事無く、私の隣で波の行く末を眺めていた赤目へと無事に届いたようだ。

 先程まで船の上だというのにも関わらず、持ち込んだバッドで素振りをしていた彼だったが、千五百回を超えたところで流石に飽きたようで、今は所在なさ気に、百八十センチを超えるその巨体を八月の日差しに晒している。

「アンドロイドって、あのアンドロイドか?」

 赤目が怪訝な顔をしながらこちらを向く。怪訝とは言っても、健康的に日に焼けたその精悍な顔には嫌味は無く、むしろ主人に腑に落ちない命令をされた忠犬の様で、可愛気すらあった。

 しかし、残念ながらその返しでは、私には赤目がどのアンドロイドを指しているのか分からない。まさかスマートフォンのオペレーションシステムの事だとは思ってはいないだろうが。そもそも彼はオペレーションシステムという存在そのものを理解していないだろう。ちなみに私はブラックベリーを愛用している。

 まぁ、そうは言ってもこの場合は、余りに抽象的な質問をした私に非があるだろう。仕方ないと、私が補足のために口を開きかけたところで、しかし、赤目は律儀にも言葉を続けた。

「うーん、一言で言うなれば夢の技術だよな。二つの意味で」

「二つとは?」

「深い意味は無ねぇよ、あったらいいなと、出来たらいいなさ」

 その答えから察する限り、彼は私が意図した通り、人造人間について思考を巡らせてくれたようだ。

 しかし、面白い言い回しをするものだと少し感心した。相変わらず知恵が回る男だ。

「なるほど、つまり需要が十分に見込める、未だ未開拓の新規市場と捉えているわけか。それと同時に実現の可能性の低さを嘆いていると」

「いや、別にそういう訳じゃないけど」

 そうか、違ったか。今度こそ赤目は私の事を少し訝しみの入った怪訝な目で見た。赤目と出会ってもう四ヶ月程経つが、その間、何度もその目を見てきた。そして何度見ても傷つく。

「夏木、お前はどう思うんだよ。と言うか何でそんな質問を?」

 多分私が悲しい顔をしていたからだろう。赤目が慌てたように質問を返してくる。見た目こそ厳ついが、相変わらず優しい男だ。思わず頬が緩んでしまう。

「何笑ってんだよ」

 また、怪訝な目で見られる。しかし、その目からは、すでに険は取れていた。怪訝な目一つでこれだけの感情を表せるとは、なんとも感情表現が豊かな男だ。一緒に行動していれば、いつか私もこんな風に、分かり易く感情を表に出せるようになるだろうか。

「いやいや、すまない。質問に特に深い意味は無いよ。出来れば良いなという気持ちも一緒だ。特に今回のような、やりたくも無い仕事は、是非ともアンドロイドに代わりにやらせたいものだ」

 と言い終わった後で、今度は私が傷ついた目で見られる番になった事に気が付いた。  

 しまった、失言だったか。

「やっぱり、俺のせいで、島流しにされた事を根に持ってるのか?」

 島流しとはまた面白い表現を使うものだ。確かにこの状況は島流しか。もっとも私達が流されたのは状況だったが。

 私、榎夏木と鬼ヶ島赤目の二人は大学一年生である。本来なら八月の今頃は大学も夏休みに突入し、下宿先で赤目と二人で、ひたすら無為に時間と暇を潰し続けていた事だろう(私には赤目以外の知人はいない)。そんな平穏な日々が訪れなかったのは、一つのミスが原因だ。いや、厳密にはミスでは無い。あんなものはただの不運だ。

 あれは三週間前、期末試験も一段落し、いつもと変わらない昼休みのこと。いつもと変わらないのだからいつも通り、私と赤目はグラウンドで二人野球に興じていた(二人野球とは、一方が投げた球をもう一方が打つという、友達が少ない者特有の遊びである)。

 私が投げた球を綺麗にアッパー気味のスイングで捕えた赤目の打球は、グングンとその飛距離を増し、まるで風に乗った海鳥のように、綺麗に青空に白い姿を輝かせて、フェンスの向こうで昼寝をしていた村上教授に直撃した。

 大学一の変人でありながらも、世間的には文化人類学の権威と言われる村上教授はこれが元で休職。薄れゆく意識の中、介抱する私達に、代わりに葉山島の巫女文化に関する調査を依頼して、病院へと運ばれていったのだった。

 その意志を汲み(幸い遺志とはならなかったようだ)、私と赤目が罪滅ぼしを兼ねて、期末試験の終わりを待ってから、貴重な夏休みを潰して(無為に潰すか有意義に潰すかの違いしか無い)、葉山島へと渡る船へと乗り込んだったのだった。

 そんな経緯な訳で、当然私の答えは、

「お前に非は無いよ。気にするな」

 だった。

「そうか、そう言ってくれると助かるけどよ……」

 どうにも煮え切らない風の赤目だったが、どうやら一旦は考えない事にしたようだ。

「だけどよ、自分の代わりって言うのなら、普通はクローンを思い浮かべるものじゃないか? 何でアンドロイドなんだ?」

「別に深い理由は無いよ。別にクローンに置き換えてもらっても問題ない。ただ、強いて言うなら、クローンだと自分の出来る事と同じ事しか出来ないが、アンドロイドなら製造の過程で拡張性が持てるからかな」

「一々言い方が難しいから理解が追いつかないんだが、つまり、自分の出来ない事が出来るようになるからって事か?」

「そういう事、まぁそういう意味では、私達もアンドロイドの様なものかもな」

「さっきから質問ばかりで申し訳ないが、その心は?」

「私達だっていつかは子孫を残す訳だろう。言うなればコピーだ。そしてそのコピーは十分に私達を超える可能性を秘めている。私達が出来無い事を成し遂げるかもしれない。そう考えれば、私達は私達が理想とするアンドロイドだ」

 詭弁だがな。と最後に呟いたが、どうやら赤目は途中から聞いていなかったようで、何故か顔を赤くして、「夏木と俺で子孫を……」と呟き続けている。どうしたんだこいつは?

 まぁ良いかと視線を船の先に向けると、どうやら目的地が近付いてきたようだ。島の木々が輪郭をはっきりさせ始め、島の侵入者を選別するかのような、大きな鳥居が山の中からその姿を見せ始めた。その鳥居こそが、私達が目的地としている早馬神社、その入口であろう。


 不意に、

 視線を感じた。


 怖気と言っても良いかもしれない。

 意識するまでもなく、本能でその視線がどこから向けられたものかが分かった。

 あの鳥居だ。

 目を凝らして、その鳥居の上に意識を向ける。

 残念ながら私の視力はそこまで良くはない。

 ギリギリ眼鏡を必要としない。その程度でしか無い。

 だが、そんな私の目でも、その影は不思議とハッキリと視認することができた。

 町中でよく見かけるものとは少し違う、少し古いデザインのセーラー服に身を包んだ人影が、鳥居の上に腰掛けている。

 そして私に向けて手を振るその人影は、遠目には私に向けて微笑んでいるように思われた。まだ島までは数百メートルはあるだろう。顔なんてはっきりと見える訳もないのに、何故か私の脳裏には、桜の花びらのような薄く、淡い笑みが浮かんだ。

 背中に寒いものを感じると同時に、ヒュウっと一際強い潮風が顔に当たり、思わず顔を伏せる。

 次にもう一度鳥居を見た時には、その人影は風に攫われたかの様に消えていた。

 きっと見間違いだったのだろう。

 そして、私は本当に言いたかったことを再び胸に仕舞い込む。

 アンドロイドに私の代わりを果たして欲しいという気持ちに偽りは無い。だが、正確ではない。

 私は、他の何かに全てを託して、死んでしまいたかったのだ。

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