帰路、歓談、夕空。
停留所でバスを待っていると余がエコバックを下げながらやって来た。
「よう、余、女子たちとどこか行ったんじゃなかったのか。」
クラスの女子はロングの後すぐにみんないなくなったはずだ。
「ん?ああ、行ってないよ。私たちのグループは皆部活とかあって忙しいから。私はノート無くなったから買いに行ってたの。そこのスーパーに。あと、卵がとっても安かったから買って来た。」
余は淡々と、しかし饒舌にそう言った。
「そうなんだ。ありがと。」
エコバックの中身は卵か。今日はオムレツかな。昨日のハヤシソースが残っているし。
「そうだ。きーはやっぱり鍬柄君と組んだの?」
「うん、あれこれ考えるの面倒だから二人でな。」
そうしなかったら多分まだ教室だ。
「ああ、そ、そうだね。」
ん?
何だか思わせぶり。
何かあるのだろうか。
「どうかしたか?」
「ううん。なんでもない。ちょっとね。」
僕の問いに小さく頭を振って答えた。
「そうか。で、余は?」
「私?私はいつものメンバーの中の夏穏と組んだよ。」
乙坂さんか。
「ん?あれ?他の人たちは?」
「うん、まあ、二人だけ。」
「珍しい。いつも四、五人でいるのに。」
「うん、まあ、えーっと、みんな彼氏と回りたいけど、そんな班作りづらいからって、女子は女子同士、男子は男子同士でダミーを作ったみたい。」
「ああ、そういうこと。」
うちのクラスそんなにカップル出来てたんだ。てことは、実行委員のいたあのグループか。皆、運動部とか生徒会とか入っている奴らだ。そんな積極的な奴らだし、恋人がいてもおかしくない。
余は何だかさっきから「うん、まあ」が多いけどやっぱり何かあったのだろうか。
変にいじめとかハブケとかじゃないといいけど。
「てか、いつの間にか、カップルは増えてたんだな。知らなかった。」
「あれ、きー、もっとそういうの気付く方だと思ってた。」
なんだ、それ。僕は結構クラスメイトと関わり無いのに。
「なんで?僕見ての通りあんまりみんなと交友関係ないぞ。」
「いや、なんか、いつもクラスで、人間観察してるのかと思ってて。」
余はわざとらしくそう言った。
「別にしてないよ。基本宿題してるし。」
「そうだっけ。」
家で沢山するのも嫌だし、宿題してたらだれとも関わらなくていいしな。
「じゃあ、乙坂さんと二人だけで観光?」
「えっ、ああ、うん、まあ、そう。」
何だか得心いかない答えだけど、そうみたいだ。
乙坂夏穏さん。
余のいつものメンバーの一人で多分おとなしそうで、おっとりした眼鏡の子だ。まあ、いつもクラスでは大人しくしている子だからよく知らないけれど。
あの子だけなら余も気楽に廻れそうかな。落ち着いてる子だし。いつものメンバーだと余は気を遣い過ぎてしまう。三日間持つのか心配だったのだ。よかったよかった。
まあ、おせっかいな空言か。
「ああ。」
「あっ、バス来た。」
余が右の方を見て言った。
今日は二分遅れ、いつもより早い。
「今日は早いな。」
僕たちはバスに乗り込み、後ろの二人掛けの席に一人ずつ縦に並んで座る。
やはり、閑散としたバス。一人で二席くらいなら余裕で占領出来る。否、今日なんか僕と余でバスを半分ずつに分けることすら出来る。乗車人数二人、この路線いつかなくなるじゃないだろうか。今ですら一時間に一本だけど、そのうち二時間とか三時間に一本へ減らされるだろう。
そうなると面倒だな。
僕ら二人は、運転手以外他に誰も居ない車内で、一言もしゃべらずに乗っていく。
余は単語帳とにらめっこしているようだし、僕は英語表現のテストの見直しだ。
正直、テストの復習が好きなほうではないから、こういう時にざっとやらないとしないままになってしまう。
やっぱり、間違いが多く、多分平均よりずっと下だ。何だかどうも英語は出来ない。否、多分努力しようと思えないのが原因なのは明白か。
他の教科はまあまあ授業聞いていたら理解できるし、少々覚えるのが必要な古文漢文もテスト前に無理矢理詰め込んだだけでなんとかなる。なんだかんだ言って、日本語なわけだから頭に入りやすい。
しかし、しかしだ。英語はそれじゃあ、無理だ。単純に覚える量が多すぎてテスト前だけでは追いつかないし、かといって単語帳や、例文集を友達にする気はさらさらないからどうしたって伸びない。
そのうち翻訳機能が発達したら、英語なんて勉強しなくても大丈夫になるだろう。
多分、世界の公用語が英語になるのが先か、完全翻訳システムが完成されるのが先かどちらかだろう。前者だったら僕は終わるけれど、まあ、死にはしないだろう。だから英語なんて出来なくても大丈夫。
とはいえ、赤点で留年はつらい。ある程度はしなくてはならないけれど。
テストの見直しが一通り終わったところでバスは丁度、降りる停留所までやって来た。
余と僕は無言でバスを降り、少しの距離を開けて、家まで歩く。
我が家は少し住宅地から離れた所にある。家の中に入ってしまえば何をしていようと怪しまれることは無いけれど、流石に二人一緒に歩いていくのは目を引く。僕がカギを開けて、余が後から、人目に気を付けて入るという感じか、その逆だ。
もう夏至は済んだというのにまだ太陽は西の空を赤く染めずに輝いている。
空は久しぶりに雲一つない。僕の言葉みたいで、何だか鬱陶しい。梅雨時の透き通っていない空は空虚に感じる。青い空だったら気持ちいいのに。
読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿は7/14です。
感想など賜ることが出来れば作者は喜びます。