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阿弥陀仏よ何処に  作者: ソンミン
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第二部第八章

 無二の親友が自分の下を去っていくかもしれない……。

「また、俺は一つ大切なものを失うのか!」

 住蓮は、安楽の諸国行脚実現に賭ける決意を聞いた夜、一人で床に入ると、あらためて事の重大さに気付かされて、暫く茫然自失としまった。

 時子を失って、もうすでに七年が過ぎた。――その時の喪失感から、ようやく立ち直れたかと思い始めていたこの頃であったのに……。

 七年前のあの日……。

 あの日のことは今でも鮮明に覚えている。時子が血を吐いた、という安楽からのしらせに、一目散に駆けつけたあの日……。

 祇園舎へ到着して、時子の小屋へ入ると、まず、血に染まった地面が目に入った。そして次に目に入ったのが奥に寝かされた時子の姿であった。

「時子!」

 彼の呼びかけに、彼女は住蓮を見つめるとにこりと頷いた。

 しかし、その次の瞬間、ゴホッという咳と共に、再び血を吐いた。

 真っ赤な血であった。

「大丈夫か!」

 思わず源太を顔を見ると、彼は首を横に振っている。

 源太に言わせれば、肺病、それも労咳(結核)に間違いないという。真っ赤な血は、労咳の何よりの証拠であると源太は言う。長年の経験で分かるらしい。

 彼の言によれば、胸からの出血は真っ赤であるが、腹からの出血はどす黒いのだと……。

 白らいに侵されると、いろんな病への抵抗力も失われる。その結果、白らいの病状進行が緩やかな者でも、結局、肺病で命を落とすものが多いのだと言う。

 幸い、喀血しながらも命を長らえる者もいる。しかし大量に出血するとそれだけでも命取りだと源太は言うのだ……。

「時実様、馬渕の里で、あなたと過ごした毎日が本当に懐かしく、また楽しく、その思い出が何よりの冥土への土産でございます」

息も絶え絶えに、語ったあの日の彼女の言葉はすべて脳裏に焼きついている。結局、彼女はそのままこの世を去った……。

 それ以後、住蓮の心にはぽっかりと大きい穴が開いたままである。

「何をもって、これを埋めればよいのか!」――あまりにも大きい喪失感であった。 

 住蓮は、この喪失感を補うために学問に没頭した。浄土経典をひたすら読む毎日が続いた。

 しかし喪失感は満たされない…。

 そして次には、六時礼賛に全身全霊を込めて打ち込んだのだ。そして安楽と見事なパートナーシップを確立するに至ったのだ。

 喪失感がようやく埋まりつつあるのというのに…。

「しかし友の布教への熱心さを、その友に支えられてここまで立ち直った自分が、今支えて応援しなければなるまい」

 そう思いを新たにし、住蓮は弱気になるまいと、強く自分に言い聞かせた。

「本当に、あの時、安楽はそばに寄り添って、共に悩み共に苦しんでくれた…」

 時子の死後、住蓮は「果たして本当に時子は往生かなったのであろうか?仏典には女人往生について、何と解いてあるのだろうか?」と、心にとげが刺さった状態で、思い煩う日々を送っていたのである。

 当時の仏教では、女人は穢れたものとして、往生叶わぬものとされていた。そして法然自身も、この問題について、公に見解を表したことはなかった。

 そこで住蓮は自分が仏典を広く研究し、自らが答えを見つけるしかないと思い立った。

 すると無量寿経の中に、このようなくだりがある。のを見つけた。

 法蔵比丘の第三十五願……。

 ――たとい、我仏を得たらんに、その女人にあって、わが名字を聞き、歓喜信楽して菩提心を発し、女身を厭い、寿終(寿命)の後、未だ女像たらば正覚を取らじ。

 これはどういうことか……。

 住蓮は混乱して安楽に助けを求めた。すると安楽は住蓮を慰めるように、優しい声でこう諭したのであった。

「住蓮、前後をしっかり読まねばならん。---法蔵比丘の第二十願にはこうある、『十方の衆生が阿弥陀仏の名号を聞き、想いを浄土に懸け、この仏と血縁した者は、必ず極楽往生を遂げる』とな。すなわち、念仏往生に、男女の差別無し。死に臨んで来迎する諸仏諸菩薩も男女の差別無く及んでいるのは間違いなし、とわしは見る」

 住蓮は、そんな友の言葉を思い出しながら、常に自分のそばにあって、自分を励まし続けてきてくれた友に、改めて心で深く感謝した。

「ありがとう、本当にありがとう…」

 そう、心で感謝を捧げたのち、また思うのであった。

「そうだ、ここまで俺を支えてくれた友が、自分の歩むべき道を模索しているのであるなら、自分はそれを支え、また励まし、頑張れと言って暖かく送り出してやるべきではないか!――たとえ彼が去っても俺はやるべきことをやるしかないのだ……」

 と。

 いろんな思いを交錯させながらも、彼は、さらなる強い義務感と責任感を感じながら、いつしか眠りに落ちていった。

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