ALC0000⇔なんとかお仕事頂きました
「しごとください」
あの大きなおねいさんからある意味死刑宣告を受けた私は、今一度レミル錬金店の前まで戻って来た。
「あら、どうしたのよサナエ。そんな泣き晴らした顔をして……。なんか鼻水出てるし……」
店の中はさっきとは打って変わって非常に明るいライトが燈されている。
いや、ライトじゃないな……。なんだろう、光の玉みたいな……?
「レミルしゃん……ぐずっ……取り敢えず私の不幸話を……聞いてもらえますかぁ?」
私は泣き落とし作戦を敢行する。
・・・
「……なるほど、ぜんっぜん意味が分らないわ」
暖かいココアを淹れてくれたレミルのこの言葉で、頬杖を突きながら泣きながら話していた私はずっこける。
「そんなぁ……」
せっかく全てを打ち明けたというのに『全然意味が分らない』とはこれいかに。
……いや、そうか、そうよ早苗。
ここは『オフラインの世界』。
という事はさっき私が考えていた通り『私以外の登場人物は全てNPC』という事。
ならばここにいるレミルもNPCって事じゃない。
なら私がこことは別の世界から来たとか、間違えてオフラインに飛ばされて来たとか、
そんな事をいくら力説したって理解出来る訳ないじゃないのよ。
「まあ、でも、そんなトンデモ話を悲劇のヒロイン的ストーリーで語っちゃうサナエは、頭の中までお花畑なんだな、って事だけは良く理解出来たわ」
――トドメを刺された。
「さあ、それ飲んだらもう帰ってくれる? 私だって忙しいのよ。最近また近隣のモンスター共が暴れ回っているらしくって、回復薬の注文が凄く多くてね。もうこの街の道具屋さんでも既に欠品が相次いでるらしいから……」
「そ、そんな物騒な事を言われて『はいそうですか』って引き下がる訳には行かないんですよぉ! 何でもします! 何でもしますからぁ! 私を見捨てないでくだしゃい!」
何とか意地でもここに置いて貰うと決心して来たのだ。
すでに錬金術師という『生産特化職』になってしまっているので、私自身が冒険者になってモンスターをバッサバッサと倒して行く事は出来ないだろう。怖いし。
ならば別の店で、とも考えたが錬金術師という特殊な職業で、なのに錬金が出来ないという【SUB】という不名誉な称号まで頂いてしまった私は、確実に書類選考段階で弾かれてしまう。書類選考あるか知らんけど。
一般市民として生活していくのはどうかとも考えたが、家も金も無い【SUB】という疫病神が果たしてまともに生活出来るのだろうか。
どう考えても乞食のような生活になりそうで怖過ぎる。
『住所不定無職』『仕事を探そうにも書類選考で弾かれる』
これが今の私の現状だろう。
だから絶対に引けないのだ。
石にかじりついてでもここに置いて貰う。
「だって貴女、ここで働いたって錬金術が使えなきゃ……」
「いやいやいや! 私だって役に立ちますとも! ええと、ほら! さっきの手ー繋いでぐわわーって奴とか!」
「?? ……ああ、『共同錬金』の事?」
「ええそうです! あれなら私が錬金術を使わなくてもレミルさんのお力添えが出来るんですよね!」
「うーん……。まあ、確かに貴女が【SUB】だったとしても、貴女自身が錬金術を使うわけじゃ無いから『錬金成功率』には影響しないだろうけど……」
「ほら! ね? これ良い案でしょう? これぞまさしく錬金術師のSUB! 『貴女の錬金サポートします!』的な感じでサブのポジションとしてレミルさんの錬金のお手伝いが出来ますとも!」
「貴女うまいこと言うわね……」
レミルが悩み始めた。
いいぞ、あと一押し。
私本気であっちの世界での就職先にMRも視野に入れていたから、相手を口説き落とす話術とかも色々考えてたんだから!
『どうでしょう、先生。この新薬は是非とも貴方のような信頼あるお医者様に使って頂きたく開発されたような物なのですよ。これだけ地域に貢献なさっておられて、患者様からの評判も頗る良い。先生がきちんと説明してくだされば患者様方も納得されるはず。実はこの新薬の原価は他の同じ成分の製薬と〇〇円もお安く作られておりまして……』的な!
「他にも掃除、洗濯、食事等、家事全般も引き受けます! 全力で頑張らせて頂きます!!」
「家事全般かぁ……」
ああもう! 決めちゃいなさいよレミル! ユーやっちゃいなよ!
こんだけ頼んでんじゃないのよ!
「……はぁ。良いわ、貴女には負けたわ」
「おっしゃあああああああああ!!!!」
「でも条件が2つ」
「え?」
条件って……。
共同錬金を手伝うのと家事全般ではまだ足りぬと申すか……。
鬼か。レミルよ……。
「1つはサナエが『【SUB】かも知れない』って事を秘密にする事。そんな子を雇ったなんて知れ渡ったら誰もお客なんて来なくなっちゃうんだから」
「本当に嫌われているんですね……【SUB】の人って……」
まさか本当に【SUB】の烙印を押された人間が街に現れると不吉な事が起こる、なんてのは迷信なんだろうけど……。
「で、もう1つは絶対に貴女は自分ひとりで『錬金術を使用しない事』。この意味は分るでしょう?」
「……『必ず失敗するから』……でしょうか」
先ほどの錬金では成功率99.7%+『LUC』と『腕輪』の成功率上昇補正まで掛かっていきなり失敗したのだ。
これでは何を錬金しても失敗するに決まっている。
てかさっきの緑色の臭いヘドロはなんだったの?
「その通り。しかもせっかく共同錬金で貴女の『ALC』の数値が上昇しても、貴女が自分で錬金を失敗すれば、また数値が大きく下がってしまい、そこからスタート。もちろん私が失敗しても貴女の『ALC』は落ちるけど、貴女が自分で錬金を試すよりは遥かに確率が低い事くらい分るわよね?」
「しつもーん! 私の『MED』の数値は全くレミルさんの錬金成功率には関与していないんですかー?」
びしっと肘まで綺麗に伸ばし質問する私。
「ええ、そうよ。関与するのは貴女の『ALC』の数値のみよ。当然『LUC』も『腕輪』も【SUB】の称号ですら関与しないわ。共同錬金にプラスされるのは、さっき試したとおり、貴女の『ALC』の数値+共同錬金補正の1。だから貴女が自滅して『ALC』を落とさない限り、共同錬金をして行って、私が失敗しなければ、自然に貴女の『ALC』は増えていく。そうなれば私一人では唱えられない上級錬金術もいずれは使える様になる……ていう訳」
要は本当にサブって事か。
しかも手ー繋ぐだけっていう……。
これって私、『錬金術師』と言えるのかしら……。
幼稚園のお遊戯じゃ無いんだから……。
「わかりました。ひとりではぜったいにれんきんじゅつはつかいませんせんせい」
「宜しい。その園児チックな言葉は聞き流したとして、貴女を正式にここで雇いましょう」
――そうして私は、何とかレミルの錬金店に潜り込めた訳で。




