ALC0218⇔新しい商売の相談に向いました
「へえ、『錬金素材』の買取か。面白い事を考えるね、サナエは」
ルーファスの部屋でお茶をご馳走になりながらも相談をしている最中。
「ええ。レミルもそうだけど、他の錬金術師って自分で素材を収集するか、オーダーメイド品だけ『素材持ち寄り』をしているだけでしょう? どうせ『錬金素材』なんて錬金術師以外にはアイテムボックスを圧迫するだけの使い道の無いアイテムじゃない? なら私が買い取って錬金して、お店に安値で陳列販売した方が私も助かるし、急激な『価格高騰』なんかも防げると思うのよね」
メリウスさんの入れてくれたお茶に口を付け、そう説明する。
「成程……。確かにその通りだ。アイテムの流通が滞らなければ、価格高騰を狙った悪質な販売をする輩も排除する事が出来るだろうし……。ふむ」
思案顔のルーファス。
この街を代表する伯爵家としては物資の安定流通はすなわち税金の安定回収にも繋がる内容だ。
私の話を無視出来ないだろうという下心があっての提案。
新しく『買取』という商売を始めるにはルーファスを納得させるだけでは無理なのだ。
その背後にいる『四大伯爵家』を納得させなければならない。
「流通関係の責任者はデメリュース伯爵家だからな……。僕の方からも当然話はさせて貰うけど……」
その先を少し濁すルーファス。
しかしこれも予想通りだ。
「ええ。私が『直接』交渉しなくてはならないのでしょう? デメリュース伯爵家の当主、『ザザリ・デメリュース』様に」
『ザザリ・デメリュース』。
何度かルーファスのお屋敷で顔を合わせた事はある。
そして『前回』での『吸血鬼問題』に関する議事堂での会議。
3日間にも渡る伯爵家と教会の協議に私は招かれ、彼らに『てんかん』についての説明を繰り返し行ったのだ。
その説明の際、ずっと鋭い視線で私を見据えていた一人のつり目の男。
黒々とした髪をオールバックに固め、両手には真っ黒のレザーの手袋を装着した年齢不詳の紳士。
(まさに『やり手』って感じだったわよね……。あのザザリとか言う男……)
彼を納得させる為にはどうしたら良いのだろう。
今はまだ時期尚早なのだろうか。
やはり伯爵家全体の信頼を得た後の方が交渉もスムーズに行く気がする。
ならばやはり……。
「取り敢えず交渉の件、話を通して貰えると助かるわ。でもその前にもう1つ、貴方にお願いがあってここに来たのよ」
そう。
私のもう1つの目的。
「なんだい? 何でも相談してくれ。僕は君に凄く興味があるのだから」
ルーファスの視線が熱を帯びている気がする。
私はそれに気付かないフリをして話を先に進める。
――『呪いの街』に住む住人についての話を。
◆◇◆◇
「はぁ……疲れた」
店に戻った私は薄暗い店内を通り抜け、そのまま奥の部屋へと進む。
「クウン」
「あ、ただいま~くまごろう~///」
ドアを開けると早速くまごろうが出迎えてくれた。
「ゴメンね~。おなか空いちゃいまちたか~? すぐ用意しちゃいまちゅね~///」
表情筋が崩壊した私はすぐにミルクを用意し、くまごろうに与える。
抱き締めたい。抱き締めたいが、今はくまごろうの食事が優先だ。
そしたら抱っこしてスリスリしながら一緒にベッドで寝るのだ。
これぞ至福の瞬間。
仮面を外し、普段の私に戻れる瞬間。
くまごろうが食事をしている間、私はその様子を椅子に座り眺めながらも思考する。
『呪いの街』に関する情報に、流石のルーファスも腰を抜かしていた。
それもそうだろう。無理は無い。
『ハクナ族』の件は『旅の話術士』の詐欺行為による被害だったのに対し、『呪いの街』の問題は四大伯爵家と教会側が仕組んだ、云わばこの異世界の『闇』の部分だ。
約半世紀にも渡り、この街の総人口の約1%の頻度で現れた『てんかん症状』を発症した患者達。
まるで何かに取り憑かれた様に、理解不能な行動を起こす彼らには『状態異常回復薬』も『教会での祝福』でさえも効果が現れなかった。
そして彼らに下された判断。
四大伯爵家は彼らを『呪われた民』と称し隔離する為の街を作り、
教会は禁術と呼ばれる『呪いの魔法』を彼らに掛け、街から周囲30UL以上は出られない様に街へと軟禁した。
そしてその街はいつしか『呪われた街』と呼ばれ、周囲30ULに生息する【デザートスネーク】を貴重な栄養源として、貧困生活を強いられた彼らが生き残る為に行ってきた行為。
それが『吸血行為』だった。
肉を焼き丸ごと食べるだけでは栄養が足りない。
そう独自に判断した彼ら『呪われた街の住人』は、蛇の『生き血を吸う』行為を覚え。
それが慣習付いたある日、近くを通り掛った冒険者に対し『吸血行為』を行う者が現れた。
その噂が一人歩きし、いつしか『呪いの街』の住人は皆、『吸血鬼』だと恐れられる様になる。
(……てんかん……隔離……貧困……ヘビの生き血……。そして冒険者への吸血行為……)
全ては偶然により発生してしまった彼らの吸血鬼としての物語。
これに『奴』は関わっているのだろうか。
それともこれは『イベント』のうちの1つなのだろうか。
関わっているのだとしたら50年も前からどうやって?
(……いや、『奴』ならそれも『可能』だわ……)
奴はこの異世界の『矛盾』を楽しんでいる。
そして彼らの『無知』を垣間見てほくそ笑んでいる。
しかし奴の行動には一定の法則が存在する。
そして私はそこに気付いたからこそ、奴の『正体』に気付き『殺害方法』を思いついたのだ。
(……絶対に、許さない)
私は静かに決意する。
NPCとは言え、彼らは確かにこの世界で『生きて』いる。
飢餓や貧困もあれば、それを乗り越えようと必死になっている人達もいる。
痛みも感じるし、人を愛する事も出来る。
既にここは『ゲームの世界』では無いのだ。
現実がここに存在している。
そして私はこの世界を救いたいと思っている。
なのに奴はそれらを真っ向から否定するかの行動を取っている。
人々を騙し、嘲笑い、自分だけが楽しめれば良いと考えている。
これは決め付けでは無い。
全ては奴の行動が物語っているのだ。
私はそんな『奴』を決して許す事が出来ない。
ルーファスを、ゼギルを、アーネルを、レミルを、ケリーを。
私の大事な人々を悲しませる行為が許せない。
……私のこの世界に対する『感情移入』は異常なのだろうか?
のめり込み過ぎだと『奴』は笑うのだろうか?
ならば何故お前はこの世界に現れては詐欺行為を繰り返し、人々を欺き、楽しんでいるのだ?
彼らが一体何をしたと言うのだ?
NPCになら何をしても良いと言うのか?
痛みも感情も持っている彼らに?
「クウウン」
「……あ、うん……。もう、寝ようか、くまごろう……」
心配そうに私の顔を見上げていたくまごろうを抱きかかえ私は寝室へと向う。
明日はまたルーファスから分けてもらった錬金素材で商品を作り、明後日にはまた店をオープンさせよう。
店を開けたり閉めたりしてしまうのは仕方が無い。
『呪いの街』に遠征し問題を解決させ、伯爵家の信頼を更に高めた後で、デメリュース伯爵に『買取業』の相談をする。
それから錬金素材を買い取りしながら、合間を見て商品を作っていく。
その頃にはアルバイトを2名程雇わないと回らないだろう。
洋裁店の娘のルーリーちゃんとゼギルの妹のジュリアちゃんにでも頼んでみようか。
彼女らならば喜んでやってくれるかも知れない。
華もあるし笑顔も可愛い彼女らには、お店の店員はぴったりな感じがする。
私は今後の計画を立てながら――。
――傍らでスヤスヤと眠るくまごろうの頬を撫でてやるのだった。
【ザザリ・デメリュース】
四大伯爵家の1つである『デメリュース伯爵家』の当主。
つり目に黒髪、オールバック、黒革の手袋がトレードマーク。
主に街の商品流通を担当。
笑う時は口元を僅かに吊り上げる癖がある。
【ルーリー・グロッサム】
『グロッサム洋裁店』の1人娘。
店主である父親と仲が悪く、店の手伝いはバックレ気味の今時の少女。
少し茶色掛かった髪に超が付くほどのミニスカートが特徴的。
『前回』はサナエとは良くスイーツを食べに行く間柄だったらしい。
【ジュリア・スパイラル】
伯爵家御用達の馬引き兼『盾護士』であるゼギル・スパイラルの妹。
兄とは似ても似つかないくらいの可憐な少女。
黒髪にポニーテールが特徴的な全国民の妹的存在。
『前回』はサナエに「本当のお義姉さんになって下さい」と迫り、ゼギルの顔がゆでだこになっていた事で有名らしい。




