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《Alchemist Online》へようこそ!

――私はゆっくりと目を開ける。


 そこは、今までの人生で一度も見たことが無いような不思議な空間だった。

 至るところに意味不明の文字や数字が所狭しと浮遊している。

 ……というか私の身体も浮いている。


 しばらくの間そのままふわふわと浮いていると、ふいに目の前に大きな文字が出現した。



『《Alchemist Online》へようこそ!』



 ――この一言で、私は全て・・を理解した。


 ここはきっと、ゲームの世界だ。

 あのパソコンの画面から照射された光を浴びた私は、強制的にこの世界に意識だけが飛ばされてきたのだろう。

 そして、私達はこの『Alchemist Online』の世界に同じ様に転送させられてきた何万という人々と一緒に、ログアウト不能のデスゲームを開始するのだ。

 きっとそう。そうに決まっている。

 だって読んだもん。そういう感じの本。たくさん出てるじゃん。

 本屋に行けば平台にも展開してあるし。



『まずはあなたのお名前を教えてください』



 巨大な文字で書かれたタイトルが消失し、設定画面に移行する。

 ほーらやっぱりね。私の予想していたとおり。

 多分ここで諸々の設定が終了してゲームの説明を受けたら異世界に飛ぶんだわ、きっと。

 それである程度ストーリーを進めたら突如悪のGMゲームマスターが登場して『ふわーっはっは! お前等には皆で殺し合いをしてもらうぞ! 泣きわめくがいい! ふわーっはっは!』って始まるのよ、きっと。



『サナエ・クジハラ』



 何か特別な入力方法があるわけでもなく、イメージするだけで勝手に名前が入力された。あら便利。



『次にあなたの種族を選択してください』



 種族……? ほう、ということはあれか。エルフとかドワーフとか、ああいうやつね。

 私、一度はエルフになってみたいなーとか考えていたのよね。

 だって可愛いじゃない、あの尖った耳とか。腰まである長くてキューティクルな金髪とか。

 あ、でももしかしたら妖精族とかも選べるのかしら。

 そしたら空も飛べるのかもしれないし……。あらやだ、ワクワクしてきちゃった。

 あれ……? でもエルフと妖精って同じ意味だったっけ……? うーん……。



『人間族(女)』



『次にあなたの職業を選択してください』



 お、ちょ……!

 勝手に人間族になっちゃったよ!

 え? まさかの選択権なし?

 やり直しボタンは…………ねぇ。

 どういうこと……? オートで進行してるってことなのかなこれ……。

 私のエルフ耳や妖精の羽の夢は……うぅ……。



『錬金術師』



 また勝手に職業が決まった!?

 何なのよこのゲーム……!

 私、ロールプレイングゲームをやる時は必ず剣士かヒーラーって決めてるのに!!

 剣士なら絶対に大剣を装備して、前衛の高火力でブイブイ言わせたいし、ヒーラーなら支援特化型にして、みんなの後ろで戦況を見定めたり指示を出したりして司令官っぽく楽しみたいのに……!!

 それなのに……錬金術師?

 何だろう……。やけに地味な職業っぽく感じるんだけど……。

 だって生産職でしょ、どうせ。

 アイテムとか武器とかを作って販売するんだろうから、異世界でお店でもやれってことなのかな……。

 ていうか、どうしてせっかくゲームの世界に行けるっていうのに、お店で働かされなきゃならないねんな!

 まるで神様が私に『異世界でもきちんと就職活動しなさい』とでも言いたげな感じじゃん!

 …………うん。笑えねぇ、マジで……。



『名前:サナエ・クジハラ

 種族:人間族(女)

 職業:錬金術師

 以上でよろしいでしょうか?』



『では次に初期パラメータの設定に移ります。ボーナスポイントを振り分けてください〔ポイント:100〕』



 …………。

 返事すらしていないのに勝手に設定が進むのって、なんか虚しいよね……。

 うん……? もしかしてこれって、『現実世界の私の情報』がそのまま反映されている、とかかな……。

 それなら『錬金術師』っていう職業になったのだって、『薬剤師』になった私となにか関係があるのかも。

 もしその予測が正しかったら、いおり達もみんな種族が『人間族』で職業は『錬金術師』でスタートするってことになるよね。

 あー、それはちょっとつまらないかもしれない。

 例えば堀沢がゴブリン族とかになってて、それでメガネ掛けてたら腹抱えて笑ってやろうと思ってたのに……。



『HP/SP/MP/STR/VIT/DEX/AGI/INT/HIT/LUC』



 うおっ!? なんかいっぱい出てきた!

 ふーむ……。この中で、この100ポイントを上手く振り分けろと。なーるほど。

 うーん……でもどうしようかな……。

 錬金術師でしょう……? 生産職っぽいから戦闘能力を上げても意味が無い気もするんだよね。

 SPとかMPってあれだよね? スキルとか魔法を使うのに必要なやつだよねたぶん。

 錬金をするのにもそういった数値を消費するのかな……。分からん……。

 錬金『術師』って書いてあるからMPの方かな。そっちに振り分けておくか……。

 あとはDEXは『器用さ』って意味だから、出来上がり具合とかに影響しそうだし、LUCは『運』だから成功率とかにも関係してきそうだな……。うん。こっちも振り分けておこう。

 あとは……INTは『知識』か。

 薬剤師で錬金術師の私が『知識』が低いってのは頂けないわよね……。

 せっかくだし、庵達を見返すためにも、残りは全部『INT』に極振りしちゃおうかしら。

 …………。

 ………………。

 ……………………おっし! これで行こう!



『MP/9

 DEX/12

 LUC/7

 INT/72

 以上のボーナスポイントの振り分けでよろしいでしょうか?』



 ……うん。極振りしすぎたかな……。

 これでもし錬金で消費するのが実は『SP』で、その他錬金に必要そうなステータスも全然関係がなかったらどうしよう……。

 ていうか、どこかに説明書とかないの?

 私、ゲームをする時は必ず説明書を熟読してから始めるタイプなんですけど……。

 うーん……。なんかめっちゃ嫌な予感がする……。

 やっぱりやり直――。



『次に初期装備を選んでください』



 ――せなかった……。



『右手/左手/頭/胴/腰/足/アクセサリー1/アクセサリー2/アクセサリー3』



 今度は装備か……。

 錬金術師ってことは、やっぱ生産性を上げられそうな装備を――。



『以上で初期設定は終了となります。それでは《Alchemist Online》の世界を十分に堪能しお楽しみください』



 早えぇよっ!

 まだ何も装備とか決めてないのに勝手に先に進むなよっ!!

 私、初期設定にはいつも三時間くらい時間を掛けるタイプなのにぃ!!

 くっそ……なんだこの思い通りにならない流れは……?

 みんなもこんな感じでどんどん設定が進んで行ったのかな……。

 でもまあいいわ。気を取り直そう。

 あのパソコンの光で気を失ったのは私が一番最後だったから、もう皆は先に《Alchemist Online》の中で私を待ってくれているはず。

 待ってろよ、野郎ども。

 ここはリーダーである私が、がっつりと皆をまとめ上げるから。

 そしてこのログアウト不能のデスゲームの中、私たちのパーティは見事に生き残って現実世界に生還を果し、そして最後には感動的なフィナーレを迎えるのよ。

 仮想世界でより友情を深めた私たちは、現実の世界でそれぞれの道を歩みつつ、でもお互いの信頼関係は決して揺るがず、その友情の先にさらなる感動的な――。



『NEW GAME』



『ここは異界の地《グランドレグザイム》。数々の冒険者達が集うこの世界で―――』



 オープニング始まっちゃったっ!?

 語らせてっ! もっと私に語らせてよぉ!! 早いよ展開がぁぁ!!

 まだ語り途中だったじゃん!! うわ、スッゴイ恥ずかしっ!!

 あーもう嫌だ……。思い通りにならないRPGほどストレスが溜まるものはないわ……。

 向こうに着いたら庵の鼻に指を突っ込んでストレスを発散させよう。しかも二本。

 そして堀沢のメガネを奪って玲子の頭に掛けちゃおう。メガネメガネってさせてやるもん。

 待っててね、愛しの友よ。

 みんなのアイドル久慈原早苗は、もうすぐ皆の元へと辿り着くから――。



 ――この時の私はまだ、そんな悠長なことを考えていたわけでして。




『初期ステータス』


NAME サナエ・クジハラ

LV 1

HP 1000/1000

SP 200/200

MP 1200/1200

STR 7

ATK 23

VIT 12

DEF 31

DEX 29

AGI 14

INT 108

MAT 126

MDE 154

HIT 9

LUC 15

MED 1000

ALC 0


『初期装備』


右手/闇の腕輪〔E-〕

左手/光の腕輪〔E-〕

頭/錬金術師の髪留め〔D-〕

胴/錬金術師の服〔D-〕

腰/錬金術師のスカート〔E+〕

足/錬金術師の靴〔E-〕

アクセサリー①/薬学全書

アクセサリー②/なし

アクセサリー③/なし


2021.11.19改稿

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