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格好つかない再会

 その姿を見つけた時、ほとんど『考える』という行為は投げ捨てていた。

 叫んだ本人の顔を確認する前に、体が自動的に動く。人混みが邪魔だ、とか思う前に、『跳躍』を使っていた。

 短い腕を、彼女の方へ伸ばす。

 こうやって駆け寄って、抱きしめられる脚と腕があって良かったと、頭のどこかで思った。







 ……ミスった。

 今の現状を確かめたくないのと、恥ずかしさのあまり、俺は両手で顔を覆う。

 ヒナさんを見つけて、ショートカットするために『跳躍』を使って人混みを飛び越えたら、着地点を間違えた。

 というか、力加減間違えた。

 俺が着地した途端、勢い余ってステージが崩壊したのだ。そのまま姿勢を崩し、瓦礫の中に落っこちそうになった俺。

 土台が崩れる前に、俺はお姫様抱っこでヒナさんに救出されていた。


「怪我、ない?」

「アリガトウゴザイマス……」


 二重の意味で恥ずかしかった。

 他の人は巻き込まれなかっただろうかと辺りを見渡すと、いつの間にか人が居なくなっていた。

 急に周りが静かになる。あれほど騒がしかった人の声も、音楽も、物音も、何も聞こえなかった。

「ええと」尋ねるヒナさんの声がよく通った。「ヒムロさん、だよね?」

 そう言えば俺、人の姿になってたんだった。そう思って見上げる。

 ヒナさんの金色の髪が、夜空の上で揺れていた。目が霞むほど月の光が眩しくて、それを弾くヒナさんの髪がキラキラしていた。


「――綺麗だ」


 滑るように言葉が勝手に出ていた。

 ……な、何やってんだ俺――!?

 冷や汗を流しながらヒナさんの様子を見る。

 ヒナさんはきょとんとして、その後すぐに顔を真っ赤にした。


 え、何その反応かわいいんだが。


「え、えっと、どうしてヒムロさんここにいる――んですか!?」


 パニックになっていたのか、敬語になっているし、何故か語尾に近づくにつれて声がデカくなった。

 とりあえず、下ろしてもらってから説明することにしよう。







 全部説明し終えた後、土下座するヒナさんが出来上がった。


「ごめんなさい本当にごめんなさい心からごめんなさい」

「い、いや……顔上げて」


 なんか思ってたんと違う。

 寧ろ俺は、勝手に精神世界に入り込んだことを怒られるかもしれない、と覚悟していたんだけど。


「いやそうですよね普通目の前で人が倒れたら驚くし怖いですよね本当にごめんなさい」

「いや、ヒナさんのせいじゃないだろ!?」


 俺は慌てて膝を着いて、土下座するヒナさんと視線を合わせる。

 悪いのはあの兄モドキであって、ヒナさんは被害者だ。そう言う俺に、「違うの」とヒナさんは言う。

 ヒナさんが告げたのは、意外な真相だった。

 なんとヒナさんは、ローレンス伯爵邸に行く前から、兄モドキが取り憑いていることを知っていたのだという。同時にそれは、ローレンス伯爵自身が人質に取られている状態でもあった。

 なのでヒナさんは、あえて『魔眼』を受けることで、兄モドキをローレンス伯爵の体から追い出そうとした。

 が、そのためには『精神の門番』のスキルを制限して、精神に関するセキュリティを下げる必要があって。

 結果、ダメージを受けたヒナさんは昏睡状態にはなったものの、自分の精神世界からローレンス伯爵の精神を修復していた。そしてそれが完了して、そろそろ現実世界に帰ろうとしていた。――とのことだった。


 ここまで聞いた俺は、疲労感がいっぺんに襲ってきた。倒れそうになったところを、なんとか手を後ろに置いて支える。

 つまり、なんだ。

 ヒナさんはローレンス伯爵を助けるために動いていて、ちゃんと自分で復帰する力を残していた、ってことで。


「俺、いらなかったな……!?」

「そ、そんなことないから! 来てくれて嬉しいし! 本当に!」


 ヒナさんはそうフォローしてくれるが、リンとかギルドマスターとかの判断は正しかったと思うと、マジで恥ずかしい。

 ヒナさんは自分の力で何とかできる。――それどころか人命救助してたよ、この人。


「……ごめんなさい。残された人の気持ちを、全然考えていなかった」


 ヒナさんの言葉に、俺は悶えるのを止める。

 ヒナさんは膝の上で、手を握りしめていた。


「置いていかれる時の気持ちは、知っていたはずなのに。本当にごめんなさい」


 影が落ちた青い瞳が、わずかに潤んでいた。

 ……ヒナタさんが死んだ時のことを思い出しているんだろうか。

 そう思ったのもつかの間、困惑気味に呟く。


「しかもまさか、魔王になるなんて……そんなの全然想定してなくて……!」


 それはそう。

 目を覚まさせるためにあれこれしてたら魔王になってました、なんて、俺がヒナさんの立場だったら「そんなことある?」ってなるわ。この立場でも「そんなことある?」って感じだけど。いや、今も魔王になった感じはしないんだけどさ。

 俺は「全部気にしてないよ」と言った。


「ヒナさんは無事だったし、兄モドキからローレンス伯爵を引き剥がしても大丈夫なんだろ? 後は兄モドキをぶっ飛ばしてハッピーエンドじゃん」

 

 だからそんな風に、とんでもない罪を犯したみたいな顔をしないで欲しい。

 そう言うと、ヒナさんは目を丸くした。


「兄モドキ……」


 思わず心の中で使っていた呼称が出てしまった。

 俺はちょっとだけ視線を逸らす。しばらく考えて頭を少し掻きながら、「これは俺の意見だから、嫌だったら忘れて欲しいんだけど」と前置きした。


「自分が『家族』だと思う相手を家族だと思った方がいいと思うんだ。……血の繋がりがあるからって、嫌いな相手を『それでも家族なんだから』とか、思わなくていいと思う」


 少なくとも俺がヒナさんだったら、あんなの兄貴とは思わない。兄モドキだ。

 血の繋がったきょうだいなんて、たまたま同じ親から生まれただけだ。そこから絆が生まれるのは、それ相応に時間や想いを掛けてきたかどうかだと俺は思う。


「だからヒナさんが、アイツらの罪を背負う義理はないと思うんだ。……それでももし、ヒナさんがアイツらをぶっ飛ばしたいって言うなら、俺も一緒に行くよ」


 俺がそう言うと、ヒナさんは青い目を見開いた。


「いいじゃん、魔王と悪の王国ぶっ飛ばしに行く冒険とか。いっぺんは憧れるシチュエーションだし」


 おどけていうと、ヒナさんはポカンと口を開けていた。まさに「開いた口が塞がらない」って感じだ。

 ……そ、そんなに驚くことかな。やっぱり、魔王を殴るって宣言するの、ちょっと大きく出過ぎたか? ミミックの俺が魔王になったところで、負けそうなイメージしかないかもしれない。


「と、とりあえず帰らない? 皆心配してるし」


 立ち上がってそう言うと、座ったままのヒナさんは戸惑いながら「うん」と頷いてくれた。

 俺は何も考えず、手を差し伸べる。

 ヒナさんが目をぱちぱちと瞬かせて、俺の手を取って立ち上がった。

 そしてそのまま、出口を目指す。


「……」

「……」


 手を離すタイミング逃した――――!!

 いや、なんか流れで手を繋いでるけど、大丈夫かな!? ヒナさん嫌がってないか!? 手がものすごく柔らかくてそれが『読心』で読まれていたらどうしようとかそもそも緊張で手汗とかビッショリかいてそうなんだけど!?


「ヒムロさん」

「はい!?」


 急に声を掛けられて、俺は飛び跳ねそうになる。

 ヒナさんは手を繋いだまま続けた。


「私は、大丈夫だよ」


『大丈夫』。その言葉を聞いて、心臓が止まりそうになった。

 足を止めてヒナさんの方を見る。


「だからここに来る時に見たものは、忘れて欲しいんだ。……何も、気にしなくていいんだよ」


 そう言って、ヒナさんは笑った。

 それはローレンス伯爵が来た後、「巻き込んでごめん」と言って、距離を置こうとした時の顔とよく似ていた。


「……ぶっ飛ばそうって誘ったそばからそう言うって、俺ってそんなに頼りない?」

「え!?」


 ヒナさんは慌てて、「ちが、そう言うつもりで言ったわけじゃないよ!?」と続ける。


「いや、無理しなくていいよ。俺も魔王になった感じしないし、功績とか実績とかないし……」


 視線を逸らして言うと、ヒナさんがアワアワしながら「ちが、ごめ、」と続ける。

 ちなみに、別に俺は傷ついてもいないし、すねてもいない。冗談で言ったのに、ヒナさんが慌てふためく姿を見るのがちょっと楽しくなって来たのだ。


「ヒナさんがそうして欲しいなら、忘れるよ。そもそもヒナさんの同意なく勝手に知っちゃったんだし。

 でも俺のためにそう言ってるなら、それは聞けない」


 俺がそう言うと、ヒナさんは戸惑いを浮かべた。


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