この後、どうする?
開いた扉から差す光でクローセさん達の様子が見える。二人は部屋の奥におり、服は汚れていたが、見た感じでは特に怪我は無いように見えた。拘束もされていないようで、動けるならばすぐに逃げることが出来そうだ。
「立てるか? ……妹さんの方は寝ているのか」
妹のリヒテの声が聞こえないと思ったら、寝ているようでクローセさんに抱きついていた。
「はい、泣き疲れてしまって……」
「そうか、遅くなってしまってすまない。酷いことはされなかったか。いや、ここに誘拐されている時点で酷いことだった」
「あなたはいったい誰なんですか?」
「……すまないが、名乗れない事情がある。顔を隠していることからも察してくれ」
「……」
自分達を助けに来てくれた人物とはいえ、名前も顔も不明な人物に対してクローセさんは不安げな表情を浮かべた。現状として訳も分からず、こんな場所へ誘拐されてきているのだから、誰が味方で、誰が敵なのか、判断に迷うのは当然だ。
クローセさんからすれば俺の行動は誘拐犯達の内部分裂で、自分達を別の場所へ誘拐しようとしているだけと考えることもできる。
「信用しきれないのは分かる。だが、時間がないんだ。悠長にしていたら、見張りが来てしまう」
「分かりました。ともかく、今はここから出ることが優先ですものね」
「ありがとう。妹さんは俺が背負おう。怪我はしているが、君が背負うよりは早く移動出来る」
「お願いします」
クローセさんに手伝ってもらい、リヒテを背負う。リヒテはグリオットよりも何歳か年下で、かつ、小柄なこともあり、軽くはあった。が、それでも体に負荷が掛かり、体の内部、おそらくはヒビが入っている骨に痛みが走った。
「ぐぅっ!?」
「大丈夫? 痛そうな声がしたけど」
「へ、平気だ。行こう」
俺はクローセさん達が捕まっていた部屋を出る。部屋を出る際、もう一度、床を見ないようにと指摘したが、先を行く俺の背後でクローセさんの息を呑むような声が聞こえたので、エーブの遺体を見てしまったようだ。
見つからないように地下へ来た道を逆に辿る中、俺はクローセさんに悪魔を呼び出す儀式が書かれた本を知らないかと尋ねる。
「知らないです。あの部屋に閉じ込められてから、あなたが来るまで誰にも話しかけられませんでしたから」
「そうですか……」
俺は迷っていた。
クローセさん達を助け出すことが第一目的ではあるが、フレスが非道なことを行っている証拠を見つけなければ、フレス達を告発出来ない。誘拐されたクローセさんが訴えただけでは、貴族達の圧力で何もなかったことにされる可能性が高い。
そうなればフレスを罪は問えない。フレスが自由のままだと、このままクローセさん達を救出しても、再び危険な目に合ってしまうだろう。
フレス側からすれば、どうやって脱出したのか、エーブを殺害したのは誰なのか。追求したいことが山盛りだ。最悪、エーブ殺害の罪をクローセさんに負わせることも考えられる。
このまま二人と共に地下から逃げるか、それとも二人を連れて、証拠品探しを行うべきか。
悩みながらも足を進めていると、前方から来る別の複数人の足音が聞こえていた。