密着です
宜しくお願いします
という訳で昼食は焼肉食べ放題のお店に入った。
恐らくだがこちらの世界に度々遊びに来ているというルル様だが、あのお嬢様お坊ちゃま育ちの皆様と一緒じゃ、焼肉食べ放題なんて庶民的なお店には入ったこと無いはずだ。
「こちらのお店は時間制限があるのですが、まずは手順を説明しながら食べて行きましょうか?」
と言って異世界の先輩風を吹かせながらルル様を先導して、お肉や野菜などを注文した。
「つまり時間内ならば何度でもおかわりをして食べても自由なのです。その為にこのボタンを押して店員の方を呼んで欲しい食材を頼むという訳です」
注文したお肉をドカッと網の上に置いて焼いていく。ルル様はキラキラした目で焼けていくお肉を見て何度も頷いている。
「料金は一定額だと言っていたな…つまり早く食べれば沢山食せるという訳だな」
焼肉食べ放題でそんなに魔質を上げてながら不敵な笑みを浮かべる必要があるかな?
そしてルル様は物凄く、物凄く焼肉を食べまくって、時間終了まで牛一頭分は食べたんじゃなかろうか?というような量を無事に食べ終えた。すごいね、流石軍人さん。お相撲さんみたいな食べっぷりだね。
私もその何割かは食べてしまったけど…太っちゃうね。今更だけど…。
支払いをする時にレジのお兄さんにルル様は
「綺麗な顔してよく食べられるんですねぇ!」
と言われていたけれど、怖いぐらいの真顔で
「顔の美醜と食欲とは全く関係ない」
と流暢な日本語で言い切っていた。ルル様、カッコよく決めていますけど口の端にお肉のタレついたままですよー?
さて、腹ごしらえも済ませたのでいよいよ実家に向かうことにした。
移動の電車の中ではルル様にナジャガル語で話しかけた。実は朝から気になっていたのだ、ルル様と2人で歩いているとすれ違う人やお店の中にいる人…皆に振り向いてまでも見られるのだ。
私達は背も高いし、外国人だし…ルル様はこの美貌だし…そりゃ見るよね。
『ルル様、駅を降りたら透過魔法で姿を隠して移動しませんか?その…私の地元では外国人は目立ちますので…』
ルル様は少し目を眇めた。
『目立つ…そうか。そうだな…』
やけに私をジッ…と見た後にまた、そうだな…と何度も頷いている。何だろうか?
私達は電車を降りた後、路地裏で透過魔法を使った後に私の実家へと向かった。しばらく歩くと公園があって…ああ、角にあった大きな家が無い!ワンルームマンションになってる。
そして、この角を曲がると家がある…。緊張する…。ゆっくりと電柱の影から顔を覗かせて家の方を見た。
「…っ!あった…!」
ちょっと古くなったけど確かにうちの家だー!嬉しくなって玄関先まで走って行って表札を確かめた。
「恩田…!よかった…まだ住んでた…っ」
家の駐車場に停まっている車を見る。前にお父さんが乗っていた車ではない。買い替えたのかな?視線を動かせると玄関横の畳部屋が見えた。カーテンの隙間からその部屋の中が見えている。
その部屋には仏壇がある。分かっていたことだけど…そうなんだけど、私の遺影が飾ってあった。
暫くぼんやりと自分の遺影を見詰めていると、ブゥン…とエンジン音が鳴り、ガチャンと家の前に原付バイクが停まった。停まったバイクから女性が降りて、ヘルメットを脱いだ。
「さ…さっちゃん!」
思わず叫んだ。弟…敏久の奥さんの幸代さん…さっちゃんだ!ちょっと丸っこくなっていて、当たり前だけどおばさんになってるけど変わらない!
さっちゃんは、バイクを降りると玄関のインターホンを押した。
『はーい』
インターホンの中から声が聞こえた。お、お母さんの声だっ! 涙がブワッと溢れた。
「幸代です~。苺大福買って来ましたよ」
そう言ってさっちゃんは開いた玄関から中へ入って行った。私は急いで玄関先に回り込んだ。
「お母さん…」
玄関先にはご年配のご婦人が立っていた。背中が曲がってる。髪は白髪がいっぱいだ。皺くちゃのおばあちゃんになっているけど間違いなく母だった。
私は年老いた母とさっちゃんに一緒について行って玄関から家に上がり込んだ。
「ありがとうね~。苺大福、香澄が好きだったからお供えしようかな…」
「ねぇ香澄ちゃん好きだったもんね~」
「…っ!」
母と義妹の会話に涙が止まらない。一緒に部屋に入り、仏壇の前に行く勇気は無かった。廊下で只々立ち尽くしていた。
「おとうさ~ん、苺大福食べる?」
部屋の中から母が父に声をかけている。お父さんっ!?
「おお…」
と言う声が聞こえてリビングからノソノソと白髪のおじいさんが歩いてきた。
「おとっ…っふ…!」
痩せた…お父さんめっちゃ痩せてる…。おじいちゃんになってる、でも元気だった、生きてた!
「っふ…ぐ…」
涙が止まらない…。畳の部屋では義妹と両親の会話が続いている。
「敏は何時に帰って来るの?隆は部活?寧々はバイト?」
「隆はもうすぐ帰って来るんじゃない?寧々はそうだよ」
「そういえば香澄の命日はどうするんだ?」
「あの子の好きだった、梅園の中華はどう?」
「いいな~あそこの酢豚、香澄好きだったもんな~」
「香澄ちゃんそういえば杏仁豆腐も好きじゃなかった?」
「ホントだー。あはは」
さっちゃんと両親の楽しそうな笑い声が聞こえる。タカシ?ネネ?もしかしたら弟の子供かもしれない。
私は玄関から外へ飛び出した。ルル様は玄関先で立っていた。ルル様の紺碧色の瞳が私を見詰めている。
ルル様が私の方へ手を広げて頷いたので、迷わずにルル様の胸に飛び込んだ。
「うわあああっ…」
泣いた…思いっきりルル様の胸の中で泣いた。何が悲しいのか…両親が存命で嬉しいのか…もう気持ちは千々に乱れていた。
その時、自転車に乗った男の子が隣の家に入りかけて自転車を停めてこちらに歩いてきた。
高校生ぐらいだ…もしかして。
「母さんいる~?バアバジイジ~ただいま」
と、玄関先から奥へ声をかけた。
「タカ、苺大福あるよ。あがっといで」
と母の声がしてその高校生くらいの男の子は家の中へと入って行った。
「タ…タカシ…甥ですね。あんな大きな男の子…生まれたんだ…」
私が死んだ後に生まれたんだろう。私の知らない甥…。私はルル様に支えられながら、家の前に出て隣の家を見た。表札は『ONDA』となっている。
「敏久のやつ~隣に家建ててるよ~あいつやるじゃんっ!」
弟は両親の隣に住んでいた。昔から優しい子だったけど…ああ、また涙が出る。
また泣き出した私の体をルル様が優しく抱き締めてくれた。
「嬉しくもあるんです…両親も皆も元気でぇ…でも、でも…私がいなくても幸せなの見たらぁ…ぐすっうぐっ…私の居場所無くなっちゃったなんて…」
来るんじゃなかった…やっぱり思い出は思い出のままの方が良かった……ううん、やっぱり元気そうな両親を見て安心出来たし…なんだか私やっぱり死んだんだなと…この世界に存在しないんだと突きつけられた気がして只々…辛くて悲しくなってしまった。
「ヒルデ、ヒルデ…俺を見ろ」
強引にルル様は私の顔を上げた。涙でぼやけた視界にルル様の紺碧の瞳が見える。
「あちらに戻ればヒルデの両親がいる。アオイ様もいる。殿下もいる。ミライ様もいる。ジャックスもジャレットもナツキもミノリもいる。…俺もいる。必ず側に居るから…一人じゃない、あそこに居場所がある」
「ル…ルル様…居る?」
「ああ、居る。大丈夫だ」
自然とルル様の唇が頬に落ちてきた。そして瞼や額に続けて触れて…ゆっくりと唇に降りてきた。
触れるだけの優しいキスだった。何度もルル様の優しい魔力が唇に乗せられる。魔力が温かい…。心が落ち着いてきた。
そして落ち着いてきたのはいいが…。
どどっどど…どうしたのよおぉ!?ええ?えええっキス?今キスしたよね?おまけに今抱き締められているよね?
怖くて顔が上げられない。ものすごくルル様の匂いとか体温とか魔力とかが私の体に密着?していてどうしていいのか分からない。
しかも今、実家の玄関先じゃないかっ!ご、ご近所様に見られたら…ひえっ!あの向かいの通りを歩いているのは佐々木のおばちゃん!やばいやばいっ!
「ヒルデ…」
ぎゃあ、更にルル様に腰を引き寄せられて、唇が強く押し当てられてぇぇぇ…。死んだ…。一回死んでいるけど死んだ。
そこで散々ルル様にむさぼられて(生々しくてすみません)若干足腰の立たなくなっていた私は近所の公園まで連れて来られていた。2人で密着してベンチに座っている…そんな状況だ…。
え~と…ルル様に手をがっつり恋人繋ぎをされている。これってアレだよね…もう恥ずかしすぎてルル様の顔が見れないけど、ルル様の魔質はやたらと興奮していて…色をつけるならピンク色のフワフワしていて、ウキウキした魔力を私にぶつけている。
ええ、思いっ切り私に魔力をぶつけています。
私だって魔質が視えますので分かってる…。これって好意がある人が放つ魔質の種類だよね?私も大概、鈍感鈍感と人には言われていますが、流石にコレは分かる。
日本の両親は元気だった。弟夫婦も子供が2人も出来ていて幸せそうだった。それは良かった…そんな怒涛の気持ちの浮き沈みの中にルル様のコレだよ?
「ヒルデ落ち着いたか?そろそろ行くか?」
いえいえいえぇ!?別の意味で落ち着いてませんが?どうしたらよいのでしょうか…。
「あの…はい。お、お騒がせしまして…」
まだ手を掴まれたままだが、ルル様とベンチから立ち上がって公園を出た。辺りはもう暗くなりかけている。
「今日、もう帰るか?」
「あ、え~とそうですね。休暇は今日までの申請ですし…」
「…ん」
ルル様と手を繋いだままゆっくりと駅に向かって歩いていると…ああっ!弟っ!おっさんになっているけど弟の敏久!おっさんの敏久が前から歩いて来るよぅ。
何だかおじさんの哀愁が魔質から滲み出ているようだ…疲れてるのかな。魔流の巡りが悪い。
「ルル様、前から歩いて来る男性、弟です」
ルル様と私は歩みを止めて敏久が歩いてくるのを見詰める。
「疲れてるな…魔質が澱んでる。年も年だからかな…」
私が独り言のように呟くとルル様が繋いだ方の手を引っ張った。
「治療してやれ。俺達の姿は見えないから…気が付かないだろう」
そうか…ソッと肩から治療魔法を入れて…ちょっと楽しくなってきて敏久の背中に手を置いた。
「…?」
敏久はビクッとして振り向いたけどそのまま治療と回復魔法をかけた。
よし…魔流が綺麗に流れている。振り向いている敏久は不思議そうな顔をして肩をグルグル回して首を捻っている。
「よし、いいか」
「はい、もう大丈夫です」
ルル様は私の腰を掴むといきなり転移した。
転移した先はなっちゃんのマンションの部屋の中だった。あれ?ルル様が腰を離してくれないのですが…。
あれ?あれれ?
やっと前進しました。もう暫くグイグイくるルル様をご堪能下さいませ




