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続:乙女 転生の加護を受けただけです!  作者: 浦 かすみ
スイート編

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20/29

実は初めてだった…

少しホラー要素ありです。苦手な方ご注意下さいませ。


『あの…つかぬ事お伺い致しますが、ルル様は今晩どこにお泊りに?』


とんでもない質問をぶつけてしまったかもしれない。


ルル様は小さく、うん…と声を上げた後しばらく考えて込んでるようだ。


「ヒルデは明日は何時にここを出るつもりだ?」


「え?あ…9時か10時には…」


「分かった、ではそれぐらいに迎えに来る。じゃあ…」


ルル様はそう言うとサッと立ち上がり、あっと言う間に扉を開けて出て行ってしまった。


冷蔵庫の転移でナジャガル…異世界に帰った訳ではない。


普通にマンションの外へ出て行ったようだ。ルル様の魔質がかなり遠くへ移動している。移動しているのは分かるけど…どこにいるか分かる。北東の方向だ…。ルル様の存在は遠く離れていても感じている。


ど、どうしよう!?これってルル様を追い出してしまったの?そんなつもりはないのに、まだ2月だし外は寒いしっ。帰って来て…て言うのもおかしいかな?一緒に寝ましょう?それも変だよね…。


スマートフォンを持って1人オロオロしている時に誰かがマンションに入って来た。知らない魔質の人だ。エレベーターが稼働してその誰かがエレベーターに乗り、そしてこの階に降りて来た。


コツコツ…マンションの廊下を誰かが移動して行く。キッチンの小窓に人影が映る。そしてこの部屋を通り過ぎて少し奥の部屋の扉の鍵を開けて室内に入って行った。


住人の人だったのか…良かった。


はは…と1人で笑い声をあげて、その声に自分で驚いて思わずキッチンや玄関先を見回した。気のせいか…室内はエアコンが効いているはずなのに妙に寒い。思えばこの世界で32才で亡くなる前も家族と同居の一軒家の実家暮らし。こういう共同住宅に1人で住んだことがない。異世界では18才の今でも親と同居…おまけに今住んでいる離宮は同居人が沢山居て、家の中は常に人の気配と笑い声に包まれている。


ちょっと待って?こんなマンションに独り寝って人生で初めてじゃない?


慌てて玄関の鍵を閉めに行った。そしてベランダに繋がる窓の施錠も確認する。途端に怖くなってきた…何がって、腕力には自信がある。魔力にも勿論自信がある。


ただ心霊ホラー的な事には鳥と同レベルで自信が無い。はっきり言ってしまえば暗がりが怖い、ホラー系にビビッてしまう方だった。


とんでもない緊張感に包まれた。身体能力が高くったって凌駕出来ないものがある。異世界でそういう心霊系のネタや小説や物語が一切無いことに、鳩が存在しないことと同じくらい安心していたのだが、ここへ来てのこの世界にたった独りでお泊りだ。迂闊だった、何故一人で泊まれるもん~と葵さんに言ってしまったのか…。


もしかして…このマンション何か出たりしないよね?


そう思い出した途端、照明が付いているのにキッチンの隅の辺りが気になる。お風呂に入ろうかとも思っていたのだが、お風呂で髪を洗えるのか?シャンプーしてる時に目を瞑れるか?


…無理だ。眠る時に灯りがあると眠れない性質だが、今この時に部屋を真っ暗にする勇気はない。


もしトイレに行って出て来た時に、部屋の中にナニカがそこに立っていたら?


「いやぁ…っぐっ」


思わず大きな声を上げそうになって、また自分でびっくりする。


どうしよう…。トイレもお風呂も行けない。何度でも言うが私は究極のビビリだ。


私は暫くベッドの上で毛布を被ってジッとしていた。消防車のサイレンが急に聞こえてきてビクッとなった。どうしよう…情けないし迷惑をかけることも重々承知しているけど…。もう我慢出来ないっ!


私は震える指でスマートフォンを操作した。電話をかけるとワンコールで繋がった。


「ルル様ぁ~一生のお願いですっ!帰って来て下さいっ!」


私は半泣きになりながらルル様に電話をした。ルル様は約1秒で転移して部屋の中に現れた。


「どうしたっ!?」


ルル様が珍しく血相を変えている。すみませんっ…もう我慢が出来ませんっ!


「お願いしますッ!トイレ終わるまで絶対そこに居て下さいっ!」


「ん?…あ…うん?」


キョトンとするルル様の横を走り抜けて急いでトイレに駆け込むと用を足した。


「ル…ルル様ぁいますかっ!?」


「えぇ?うん、居るけど…」


「ルル様ぁ~…」


「ああ…」


私はトイレを出るまでルル様の存在確認を繰り返した。そして…。


「お願いしますっルル様…時々声をかけますから返事して下さい!絶対お願いします!」


「え?あ…うん。あのテレビ見て…座っててもいいのか?」


「勿論勿論っ是非お願いします!ご近所迷惑にならない範囲でいいので賑やかにお願いします!」


私は急いで服を脱ぐと、お風呂場に飛び込んだ。そして…


「ルル様ぁーいますかぁ!?」


「…いる」


急いで顔を洗うと、髪を濡らした。


「ルル様ぁ!?」


「大丈夫だ」


恐ろしくなって時々天井を見上げながら頭を洗った。泡を流す時に目を瞑りそうになったけど、必死で目を開けていた。


「ルル様ぁ!」


「…分かったから」


まだ2月だし湯舟にゆっくり浸かりたい所だけど、体を速攻で洗うと1分だけ湯舟に浸かってすぐに出た。


脱衣所に飛び出して浴室の灯りを消したが、暗くなった浴室の横で体を拭いているのが怖くなって、まだ濡れているのにパジャマを着ると慌てて部屋に戻った。


ルル様はテレビを見ていた。丁度、映画が放送されている時間帯だったようだ。


その映画は、テレビの中から髪の長い人がのっそりと這い出てくる有名な映画だった。私も知っている。


「…っひぎゃああああああ!」


ルル様は私の叫ぶ声にびっくりして仰け反って、テーブルの角で頭を打っていた。その時は恐怖のあまり忘れていたけれど、なっちゃんのマンションの部屋にはアポカリウス様の魔物理防御障壁と消音、消臭魔法が永続的に発動していたのだった。


「いてっ…なんだ?ヒルデ…?大丈夫かっ!?」


私は、テレビ画面から目を逸らしてガタガタ震えながら座り込んだ。


誰だっこんな2月にホラー映画を放送しようと思ったやつはぁ!?時と場所を考えろっ!世の中には1人暮らしのか弱い女子が何人もいるんだぞっ!その人達にはこんな風に助けてくれるルル様はいないんだぞっ!


完全なる八つ当たりだがヘロヘロになりながらルル様に抱き抱えられた。


「ルル様…」


「何だ?」


「言い訳をさせて下さい」


ルル様は、ん?と言いながら私の背中を摩りながら顔を覗き込んできた。


「こちらの世界で死ぬまで親と同居していました。そしてコスデスタでも両親と同居です。逃亡中も常に両親が側に居てくれたので、独り寝をすることはありませんでした。それにあちらの世界には、ソ…ソレみたいな人を脅かすような怖い物語とか恐怖で慄かせる小説とかありませんでしたので、すっかり油断していたのです」


私がソレと言って見ないで指差しているテレビを見てルル様は「あれは魔の眷属か?」と呟いていた。丁度、俳優さんが大絶叫しているシーンが画面に映っている。恐怖しかない…。


「魔の眷属は実体がありますっ!アレは幽体と言って実体の無い生き物?というか、魔の瘴気の変形バージョンとでも言いますか…兎に角っ怖い生き物なのです!だからこちらの世界にはアレがいるかもしれないということを失念しておりまして、ルル様を寒空の下に放り出すなんて以ての外ですし、ここは是非ルル様にも…」


「つまり要約すると?」


「………1人は怖いです」


「了解した」


そして私は急いでテレビを消すとクローゼットの中から予備の敷き布団を出してきて床に敷くと、その敷き布団に入った。


「ちょっと待て。ヒルデは床に寝ては駄目だ」


「いえあの、私は元々は敷き布団派ですしルル様はベッドをお使い下さい」


「駄目だ」


「でも私は平気で…」


「……」


はぁ…こうなるとルル様は頑固だ。でもな~ルル様を床に寝転がすなんてな~。ナジャガル皇国のルルファンに殴り殺されそうだわ…。


ルル様はコートを脱ぐと自身に浄化魔法をかけた。そして敷き布団の枕元に胡坐をかいて座った。


「じゃあ俺は見張りをしているから好きな方で休め」


ひえええっ!?見張るものなんて何もないですよっ!致し方ない…。


「ではっ…まことに不本意ながらですが私がベッドの方へ行きますので、ルル様はこちらの寝具でお休み下さいませ」


私は敷き布団から出ると、イソイソとベッドにあがり布団の中に入った。衣擦れの音がしてルル様が敷き布団の中に入った音がした。私は部屋の照明を消した。


「おやすみなさいませ」


「おやすみ」


しかし、ルル様は布団に入ったと思ったら一瞬で飛び起きてきた。私も驚いてベッドの上で飛び起きた。


「どっどうしましたか?」


暗闇の中、ルル様の魔質が光輝いているのが視える。ん?興奮?何を興奮するものがあるのだろう?ただの布団だぜ?


「ルル様?やっぱりベッドと代わりますか?」


「いや…どっちに行っても今更同じだ」


今更同じって何が?ルル様は大きく溜め息をつきながら敷き布団に入り直した。


私もベッドで再び横になった。


「……」


チクタク…と壁掛け時計の針が動く音が聞こえる。冷蔵庫がウィーンと動く音が聞こえる。何かカリカリと金属の軋むような音も聞こえる。何?あの音…。


フト…先ほどのテレビから出てくる髪の長い女を思い出してしまった。恐怖で怖気だった。何故今頃思い出してしまうのかっ!頭の中をあの有名な歌が流れている!


「…っ…ぃ…!?ルル様ぁぁぁ…居ますかぁぁ…。ルル様っ!?へ…返事をっ…怖いですっ!」


「…居る」


丁度その時、何かパキパキ…と浴室の方から音がした。


「…っひ!ルル様ぁ…ルル様ぁぁぁ…居るんですかぁ!?い、居ないよとか返事はしないで下さいっ!」


「………はぁ……」


ギシッ…とベッドがしなって、ルル様が私の横に寝転がってきた。そして掛け布団捲って中に入って来ると


「ここに居るからもう寝ろ」


と言って私をルル様の腕の中に抱き込んできた。


ぎ……ぎゃあああああ………っと心の中で私は大絶叫をした。



ルル様が近づいて来る〜(ホラーではありません。)

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