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閑話 メイド長リア(前編)

「本日はこれで終了です。みなさんお疲れ様でした。明日も早いのでくれぐれも夜更かしのしないように注意するように」


 今日の終礼がリア挨拶で締めくくられた。


 リア・アルタイン。アルタイン騎士爵家の次女である。彼女はアルテン侯爵家の使用人(メイド)として15才の頃より仕えており、真面目で卒なく仕事をこなす事からアルテン侯爵から評価され、いずれ娘の側付きとなる使用人(メイド)の教育を任される事になった。


 アルテン侯爵が娘に対してわざわざベテランの使用人ではなく、全くの素人を一から育てるのは、年が近い方が娘達も気が楽だろうという事と、何より周りの敵対する貴族にアルテン侯爵派閥の繋がりの強固さを見せつける為だ。その為に敢えてアルテン侯爵派閥に連なる貴族達の娘の中で性格も良く、見目麗しい娘達だけを選び集めたのだ。


 伯爵家の三女、イヴ・ランパーニ。好奇心旺盛でいつも元気で明るい赤色の目の肩まで伸ばした銀髪の少女。


 子爵家の三女、サラ・システィン。さっぱりした性格で非常に前向き。イヴと並んで一番の年下だが判断力が高く知識もあり、メンバーの中ではリーダー格だ。腰まで伸ばした蒼い髪と小柄で幼い顔立ちから覗くつり目が彼女の魅力を高めている。


 男爵家三女、セリーナ・ジャブロ。一般的な貴族の令嬢とは彼女の事を言うのだろう。穏やかでお淑やか、面倒見の良いお姉さん役だ。


 男爵家四女、セレーナ・ジャブロ。セリーナの妹で姉に似て優しい娘だ。双子と思う位姉のセリーナと似ている。


 ランドール商会の次女、シャルロッテ。侯爵領内で一番の商会の娘だ。貴族ではないがその財力は上級貴族に匹敵する。そして彼女はその美しさ、上品さから多くの求婚が届いていたが見目麗しく能力のある者、と言う侯爵の希望でこれを全て断りここに在籍している。長く美しい金髪と慈愛の篭った暖かな瞳はその姿を見た者を魅了させる。



「ふぅ」


 リアは彼女達の事を考えてため息を吐く。


 彼女達は自分達が外れの売れ損ないだと思っているようだが全くの勘違いである。


 そもそも彼女達はその美貌と能力で侯爵派閥領内から選び抜かれた存在だ。彼女達であれば位を強く意識する貴族であっても妾ならば入り放題、本妻でも不可能ではない容姿をしていたからだ。実際にイヴは姉に嫉妬していたが同じ姉妹でも容姿はイヴの方が整っており本当に嫉妬していたのは姉の方だった。もしイヴが長女であれば上の貴族である侯爵との婚姻もあり得る所だろう。


「全く、何故寄せ集めと思い込んでいるのか。自分達の価値が分かっているのでしょうか」


 きちんと説明はしている筈だが若い娘は思い込みも激しいのかも知れない、とリアは結論付けた。



「どうしました、リアさん」


 リアに声を掛けてきたのは執事のミスマルだ。彼の一族は代々アルテン侯爵に仕えており、現在では父親がアルテン侯爵付きの執事である。彼は幼い頃からそんな父親を見て来た為、アルテン侯爵家に忠義を誓っている。アルテン侯爵からは信頼も厚く、またそれ故にミスマルも全力で期待に応えるべくお嬢様のボディーガードも兼ねて武術を嗜んでいる。


 そんなミスマルはリアの良き相談相手である。2人は年齢も近い事から仕事の相談をよくしていた。


 リアはミスマルにイヴ達の事を伝えると。


「成る程、事情は分かりましたが特に問題は無いのではないですか。いずれ彼女達が望まずとも嫁に出される時が来ますし、相手も彼女達ならば条件が悪いなんて事は無いでしょう」


「それはそうですが」


「大丈夫ですよ。粗相もありませんし仕事もきちんとこなしているのでしょう?」


 リアはがっつき過ぎてるイヴ達の事を思うと何となく不安になるのだ。


(侯爵様に知られたらはしたないと思われないでしょうか?お叱りが無ければいいのですが)


 現在諸事情により肉食系女子になっているイヴ達が在らぬ噂にならないようにとリアは祈っていた。









「ただ今連絡がありお嬢様が街に着いたそうです。お出迎えをしますので準備をしなさい」


「「「はい!」」」


 やる気に満ちた返事はいいのですが彼女達の目的はお嬢様のお出迎えでは無く騎士団の男達なのでしょうね。


 全く、困った物です。


 ただ、仕事はきちんとこなすので勤務態度は問題無いのですが。



 私達が玄関に集まって待っていると声が聞こえて来ました。


 おや、随分と静かですが。騎士団の方がいらっしゃれば金属音がするはずなのですが。


 サラとイヴが扉を開けてその後1列に並びお嬢様をお出迎えします。


「「お帰りなさいませ、お嬢様」」


 お嬢様は優しく賢い方です。ふわふわな長い金色の美しい髪と、一部わがままで豊満な肢体を持つ美少女です。男性ならば誰もが自分の物(恋人)にしたいと思うのではないでしょうか。


 そしてお嬢様と一緒に居られる方はリョウ様と仰るみたいです。事前に報告は聞いていませんから旅の途中で親しくなったのでしょうか。


 リョウ様は青年?でしょうか。顔立ちは若いのですが雰囲気に品と貫禄があります。彼に付き従うメイド達も所作一つ取っても洗練された印象を受けます。どうやら一角の人物のようですね。お嬢様がお連れするのも納得です。



 私はお嬢様の指示で、リョウ様に屋敷の使用人であるメイド娘達を紹介します。


 紹介し終わりリョウ様の方を見ると。



 視線が、合いました。



 びくんっ!



 んっ!



 なっ、何ですかこれは!?


 私は突然の事に対処する為に頭を働かせます。


 身体が、熱い。


 何故?


 リョウ様を見ます。


 見つめます。見つめてしまいます。


 何故?


 私の視線はリョウ様に釘付けです。まるで自分の意思では離せないかの様に見つめてしまうのです。


 そう、私の瞳に焼き付けます。



 んんっ!



 どうやら私の直感は当たっていた様ですね。リョウ様を見つめるだけで私の身体は火照ってしまい胸が締め付けられます。そしてまさか胸だけで無く下の方も濡れて来るなんて。


 まさか、これは、・・・恋?


 ・・・なのでしょうね。


 まさか私がこの年で恋をするなど思いもしませんでした。ですが間違いありません。


 この感情は恋。いえ、愛と呼ばれる物なのでしょう。



 いけませんね。私がこれ程取り乱すとは。



 冷静になるべく視線を周りに移すとそこには私と同じ様にリョウ様に目を奪われたメイド娘達(使用人)の姿がありました。



 なっ!? どう言う事ですか!


 冷静になるつもりが逆に動揺してしまいました。


 何故ならあれは、私と同じ恋する乙女の顔だったからです。


 どうやら私は嫉妬深い性格だった様です。リョウ様を誰にも渡したくありません。だって、まるで運命かの様に私の心を一瞬にして奪い、身体まで求めてしまっているのですから。


 そして私の初恋の相手を他の人が同時に好きになるなんて誰も思いません。ましてやそれがうちのメイド娘達だとは想定外です。


 いえ、そう言えば今の彼女達は肉食女子なのでした。それも私が好意を寄せる程の方を前にして何も感じずになどいられないでしょう。確かに当然の反応と言える訳ですね。


 貴女達が股をもじもじさせてるのが丸わかりですよ。



 ですが簡単にリョウ様を渡しはしませんよ。貴女達の様なドスケベメイド娘達には!








 夜の見回りは私の仕事の一つです。特に今日はお嬢様が帰って来てますからね。


 まぁ何も問題は無いと思われますが。



「・・・って、・・ぃ」



 ん?


 あれはリョウ様方が休まれている部屋の方ですか?


 どうやら部屋の前には複数人の女性の姿がある様ですが。


 近づくとそこに居たのはイヴ達メイド娘の姿でした。


「あ、貴女達はナニをしているのですか!」


 流石の私も彼女達を一喝します。


 全く、メイドとは言え仮にも貴族の令嬢がナニをしてるんですか。それもリョウ様の部屋の前で!


 まさかイヴだけでなくシャルロッテやセリーナ達まで一緒になって。


 そんな憤る私に彼女達は頬を赤らめ上気した様子で言うのです。


「リアさん、静かに」


「そうだよ、今は手が離せないんだから」


「リョウ様、凄い」


「はい、凄いです」


「あんなに激しくなんて」


 ?


 彼女達は何を言っているのですか。


 私は冷静になり彼女達の視線と耳の先にある扉に目を向けます。


 そこには。



「アリスはいい子だな。ほらよしよし」


「はぅん、ご主人様ぁ」



 なっ!お嬢様の声!?


 それにご主人様ってどう言う事ですか!?


 私は彼女達に習い耳を傾けます。



「ご、ご主人様。私もいい子だから、な、なでなでしても良いのだぞ」


「お前はダメ犬だからお仕置きに決まってるだろ」


「は、はい。んっ」


「全く、期待してたのがばればれだな。このダメ犬は」


 パァンっ! パァンっ!パァンっ!


 そう言った後音と一緒に気持ち良さそうな声が部屋の外にまで響き渡ります。


 ほ、本当にナニしてるんですか!


 良く聞いているとお嬢様だけでなくシェリーさんや、リョウ様のメイドであるフィア様方も一緒にリョウ様に可愛がられている様です。


 気持ち良さそうな声を聞いていると私の身体も火照ってきました。そして私の手は知らず知らずの内に胸と下に添えられていました。


 無意識にです。


 はっ、と周りを見るとイヴ達の視線に気付きます。


 私は冷静に。そう、冷静に「私はリョウ様がお嬢様に相応しいかどうか確かめなければいけません。これはその為の物です」、と冷静に答えました。何もおかしくは無い筈です。ただ、やはり身体は火照って言う事を聞いてくれません。この身体もリョウ様に、扉越しで行われている様な激しい調教(ご寵愛)を受ける事になるのでしょう。


 ああ、想像するだけでおかしくなりそうです。





 その日はリョウ様の手前イヴ達にはお咎め無しで解散しました。


 それにしてもお嬢様、あんなに乱れるなんて。





 はしたないですよ、お嬢様。



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