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実食

 冒険者ギルドに依頼品を納品に行く。


 だがまだまだ今日はトラブルが続くようである。


 夕方のギルドはえらく混んでいた。1階層でゴブリンを狩っていた本物の冒険者も相当数いる様で、こっちに気付いた奴が近づいて来たのだ。


「おい、坊ちゃんが俺達を気絶させたのか」


「いや違うぜジョン、こっちのエルフのメイドだろ」


「どっちでもいいだろラルフ。まぁお礼はさせて貰うがな」


 どうした事だろう。また絡んで来るとは、彼等は学習しないのだろうか。ほら、他の冒険者の迷惑になるだろ。みんな遠巻きに眺めてるじゃないか、見世物じゃないぞ。


「はぁ、なんだ喧嘩でも売ってるのか」


「買ってやるって言ってんだよ! おらぁ!」


 買ってやるって、そもそも売ってませんが?


 いきなり殴りかかるジョンでもラルフでもないイケメン顔のニールだが。


 うむ、遅い。


 躱して足を引っ掛けて地面に転ばす。


「ニール! こいつ、やりやがったな!」


「行くぜジョン!」


「おう、ラルフ!」


 こうやって聴くと俺が悪者みたいに感じるから不思議だよな。


 遅い拳を軽く躱してから足を引っ掛けてニールの上に転がす。ニール、ラルフ、ジョンのサンドイッチの完成だ。


「ぐぇ!」


「ぐぅ、ニール!ラルフ!大丈夫か!」


 ぶふっ


 こいつらはコントでもしてるのか。おバカって天然だから面白いんだな。後俺に絡まなければ。


「いい加減にしないか。君たちも冒険者なのだろう」


 人垣を割って出て来たのは剣士風の若い男だった。名前はアイン。噂のドラゴンファングのリーダーか。


「アイン! 違うんだこれは、そうだろジョン!」


「そ、そうだ。全部あいつが悪いんだよ他の冒険者だってあいつにやられたんだ、ニールも言ってくれ!」


「フッ、そうだぜアイン。この坊ちゃんにやられたのは俺達だけじゃないんだぜ」


 何故カッコつけて言うんだニール?


「それはどう言う事だい?」


 訝しげになるアインだが彼の興味は別に合った。


(このメイドの娘たち、かなり良いな。これ程の美少女放っておく訳にはいかないな。是非持ち帰らせて貰う)と。


 正直アインには冒険者達の事など初めからどうでも良いのだ。只のきっかけ作りである。


「こいつは1階層のボス部屋の前にいた冒険者達全員に魔法攻撃で眠らせて来たんだ!」


 事実とは違うが彼等は魔法によって眠らされたと思い込んでいる。当然リョウが苛ついて少し殺気が漏れてショック死した事には気付いていない。


 威圧スキルは格下にのみ効果を発揮する。基本的には怯むくらいだが、リョウの場合は本人が強くなり過ぎて、軽くですらショック死してしまうのだ。


「なんて事を!そんな事をする人間に近づいてはいけないよ、君たち。さぁ僕が守ってあげるからこっちにおいで」


 仲裁を口実にフィアに触れようと手を伸ばすアイン。


 だが


 バタッ


 え? 周りは騒然とする。


 彼は突然顔から倒れた。


 アインは絶対にしてはいけない事をしてしまった。


 メイド娘に触れようとしたのだ。


 リョウはメイド娘を誰よりも愛している。そして独占欲も強い。他の人間が自分のメイド娘に触れる事が耐えられる筈が無い。


「フィアは俺の物だ」


 アインはリョウの威圧で簡単にショック死した。


「旦那様ぁ」


 うるうると目を潤ませてリョウにしがみ付くフィア。それをずるいとミィとヒナもくっ付いてメイド成分によりリョウを落ち着かせた。


 リョウの耳には「アインしっかりしろ!」とか「どうしたんだアイン!お前はここで終わる男じゃねぇ!」なんて声は届いていない。


 落ち着きを取り戻したリョウは気を取り直してエミリアのいる受付に向かう。が、


「ちょっと待て、お前がしたのか?」


「?」


「お前がアインを殺したのかと聞いてるんだ!」


 あれ?まだその話? とリョウが思うのも無理はない。


 リョウは倒れているアインを指差す。


「生きてるだろ」


 なんとリョウに指をさされたアインは咳をして息を吹き返したのだ。


 おおっ!


 リョウは辺りが騒然とするなか今度こそ気にせずに受付に向かった。






「リョウ様、心臓に悪いですよぅ。アインさんってここで1番の冒険者ですよぅ」


「ああ、そうらしいな。悪人だったら殺してたかも知れんな」


「もぅ、それで依頼の報告ですか」


「ああ、そうだ。これが納品のアイテムだ」


 アイテムボックスからレッドサーペントの鱗を取り出して置く。


「・・・リョウ様が強いのは知っていましたがまさか1日で納品されるなんて」


「エミリア、驚く事ではありませんよ。旦那様にはこの程度の事造作もありません」


「そうですね、エミリアさんはご主人様の事を理解していないようですね。そもそもご主人様に出来ない事などありません、ねぇヒナ」


「はい、ご主人様は神様ですから」


 出来ない事とか沢山あるぞ!


 てか神じゃねぇって!


 最早言葉が通じないとは、メイド姉妹はどうした事か。大分躾けた筈なんだがなぁ。


 そう言えばシェリーが首輪が欲しいって言ってたな。首輪、チョーカーか。ヒナやシェリーなら似合うかもな、そして間違いなく喜ぶな。


 シェリーなら「たとえ首輪を付けられても私の心はメス犬ではなく騎士のままだからな!」とか言いそうだ。でもフィアとミィはなんか違うんだよな。メイド娘の個性も色々だし俺好みにコーディネートしてやらねば。


 ミィには今度リボンを買ってやろう。夜にリボンを着せた事はあるがプレゼントした事はないからな。(既に俺はリボンを着た、フィアとミィ自身をプレゼントとして貰ってるがな)


 フィアはなんだろうな。フィアの淡い翠色の髪が綺麗で俺は好きだから他の物で邪魔したくないんだよな。送るなら別の小物かな。


「所でエミリアは仕事はいつ終わるんだ。良かったらうちで食事でもどうだ」


「えぇ!? いいんですかぁ!?」


「旦那様!?」


「別にとって食う訳じゃないからな。一緒に食事するだけだ、いい食材も手に入ったしな、みんなで食べた方が美味しいだろ」


「はい、そう言う事でしたら問題ありません」


「リョウ様!?大丈夫ですよ私は覚悟出来てますから!」


「そんな覚悟はいらん。終わったら、そうだな。エミリアはアルテン侯爵家の屋敷は分かるか」


「うぅ〜、ってアルテン侯爵家!?」


「知ってるみたいだな」


「いやそれは貴族街にある事は分かりますがぁ、あのぅひょっとしてリョウ様はアルテン侯爵家の方だったりするんですかぁ?」


 恐る恐る聞いてくるエミリアだが成る程、今の言い方じゃそんな勘違いもするのか。メイドが沢山いるしな。


「違うぞ、単に厄介になってるだけだ。それに屋敷の人間に畏まる必要も無いから心配しなくていい」


 アリスは俺のメイド娘だしな。


「そうですかぁ? でも折角のチャンスですからね、当然行かせて頂きます!」


「ああ、分かった」


 エミリアの参加も決まったので今日は屋敷のみんなでドラゴン肉パーティーに決定だ。


 依頼報告も終わったので早速帰ってから準備に取り掛かろう。








「「お帰りなさいませ」」


 屋敷に戻るとセリーナとセレーナの姉妹メイドが出迎えてくれた。髪が赤いのがセリーナで青いのがセレーナだ。双子の様に似てるが双子では無い。


「ただいま」


 挨拶をして頭を撫でてやる。突然のスキンシップだが姉妹メイドは嬉しそうに目を細めて気持ち良さそうにしている。


 ふむ、初めての撫で撫でなのにフィアやミィの様な態度を取るな。調教スキルは誰にでも有効なのだな。


 1人納得するリョウである。


「リョウさまぁ〜」


「ふにゃにゃぁ〜」


 撫で過ぎると体に頬をすりすりと擦り付けてくる、まるで小動物のようだ。


 可愛いがメイド姉妹がむくれ始めたので頭をポンポンと軽く叩いて終わりにした。


 はっと正気に戻った姉妹メイドはすぐ様頭を下げたが、気にしてないと言って仕事に戻らせた。




 さて、それじゃあドラゴン肉を調理していこうか。


 と厨房に移動して「ブラックドラゴンの肉(究極肉)」を取り出したとこまでは良かったが、


「それでは旦那様はお茶でも飲んでゆっくりして下さい」


「今日はミィが淹れさせて頂きますね」


「私は姉様の手伝いです」


 と、またもや俺に働かせないメイド姉妹の攻撃(気遣い)を受けてしまった。


 仕方ないので暇そうにしているメイド娘(普通に失礼)を捕まえて一緒にお茶を飲む事にした。



「それでだな、最下層のブラックドラゴンが究極肉をドロップしたんだ。今日はフィアたちが最高のドラゴン肉を焼いてくれるぞ」


「まぁ、ドラゴンのお肉ですか。それほど高価な物を私も頂いて宜しいのでしょうか」


 頬に手を当てて困った様に微笑むシャルロッテ。彼女はお嬢様の中のお嬢様、いやお姫様の様なお嬢様だ。


 いやメイド娘だが。


「当然だ、沢山あるからな。そもそもドラゴンの肉は貴族の間でも食べたりするのか?」


「私は聞いた事がありませんね。ドラゴン自体人の手には余りますから倒せる人もいないのです」


 そりゃそうだ、レッドドラゴンじゃ幾ら倒してもドロップしなかったからな。ブラックドラゴンじゃないとドラゴン肉は手に入らないのだ。もしくはまだ倒してないドラゴンか。


 レッドドラゴンならSランクの冒険者なら倒せるだろうし、そう難しい事は無いんだけどな。


「なら食べてから感想を聞かせて貰わないとな」


「ふふ、はい、楽しみです」


「何が楽しみなのですか?」


 上品なお嬢様メイドのシャルロッテとお茶を楽しんでいるとアリスがやって来た。シェリーも一緒だ。


「おう、アリスか。実は今フィアたちがドラゴンの肉を調理してるんだ」


「「ドラゴンっ!?」」


「ああ、ブラックドラゴンの究極肉だぞ。楽しみだな」


「・・・流石リョウ様ですね」


「ご主人様、凄い」


 驚くアリスとシェリーだが、おい、シェリーはご主人様呼びになってるぞ。


「ドラゴンはダンジョンに出て来たのですか?」


「ああ65階層のボスだったな。レベルもそこそこあったからこれからは毎日ドラゴン狩りだな」


 これでレベル上げが捗る、とリョウは嬉しそうに話す。


 普通の人間が聞けばドラゴンを倒すなど信じられないだろう。そもそもが本当に1日でダンジョンを攻略するなどあり得る筈も無いのだが。


 しかし既にリョウに惚れているアリスやシェリーは、目の前でオークキングを倒したという事実もある事からリョウを信じ切っている。


 唯一この屋敷では執事のミスマルだけが正常な判断力を持ち合わせていた。だがリョウは存在自体が異常の塊なので常識で判断してはいけないのだ。


 故に後ろに控えて話を聞いていたミスマルは「そんなバカな話が」と、リョウの会話が理解出来ないでますます不信感を募らせることになる。


「旦那様、料理が準備出来ました」


「エミリアさんも来た様です」


「リョウ様ぁ、お待たせしましたぁ」


 フィアたちも準備が出来たみたいだ。エミリアもメイクに気合いが入ってる。食事するだけなんだがな。


「アリス、今日は屋敷のメイドたちも一緒に食事したいんだがいいか」


「はい、勿論です。是非リョウ様が倒して手に入れたドラゴンのお肉を食べて貰い、リョウ様の偉大さを感じて頂きましょう」


 アリスからも許可が出たし、ドラゴン肉、いざ実食だな。








 出てきたドラゴン肉はステーキやハンバーグ、ローストビーフや煮込み料理など様々だ。どれもいい匂いで食欲を誘うな。


 先ずは俺が一口、アリスより先に食べるとは最早俺が屋敷の主人のようである。


「おおっ! 旨い! 柔らかい!」


 ドラゴン肉のステーキは物凄く柔らかくて、噛むと旨味が口の中に広がり満たされる。脂も見た目以上にしつこくなく幾らでも食べられそうだ。こんなに霜降りの肉なのに不思議だ。極上肉も最高だったがあれは脂がきつかったからな、量は食べれないんだよな。


「いいぞ、みんな食べてみろ」


 俺の合図でアリス達もドラゴン肉に手を付ける。そしてその美味しさの虜となるのだ。


「・・・これは常識が変わりますね」


「お嬢様!ドラゴンのお肉は美味し過ぎます!ああ、もうなくなるぅ!」


 アリスとシェリーはいつも通り対称的だな。冷静なアリスと興奮するダメ犬だ。


「旦那様、究極肉は極上肉の遥か上の品質ですね。売り出せば1キロで金貨数千万の額になる筈です」


「ドラゴン肉を市場に出すならオークションですか?そこでなら価値の判る者が良い値段をつけるでしょう」


「ドラゴンは剣聖ですら簡単には近づけない最大級の脅威です。その魔物からお肉がドロップしたとなればその情報だけで大金が動きます」


「えぇ!? このお肉ドラゴンなんですかぁ!えぇ、ドラゴン!?」


 メイド姉妹はドラゴン肉幾らになる?談義に華を咲かせている。いや、売らねぇよ?


 エミリアはドラゴン肉に混乱しているようだが手と口の動きは止まらないみたいだ。美味しいもんな。


 お嬢様メイドたちは終始静かだった。だけど顔は面白いくらいに表情豊かで驚いたり、うっとりしたりしていた。


 ドラゴンの赤身肉で作ったローストビーフはこれまた最高だ。幾らでも入るね!


 今日は嫌な事もあったけど最後は幸せな気持ちになった。ドラゴン肉にはメイド娘たちも大満足であった。


 気分が良くなったので今夜はエミリアも混ぜて可愛いがってやった。エミリアのメイド服姿はとても良かったのできっとまた呼ぶ事になるだろう。


 

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