エピローグ
――レオン様と結婚をしてから、早十年。
私は、今も変わらず二つの国を行き来して、魔物の脅威から人々を守る生活を送っていた。
その努力の甲斐あってか、二つの国での魔物の被害は激減し、平和な生活を送れている。
そんな私には、一つ大きな変化があった。
「……こうしてお姫様は、王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「えへへ、面白かった! ママ、次はこのご本を読んで!」
私の膝の上に乗っていた女の子は、小さな体を一生懸命動かして、別の絵本を取ってきた。
「あら、またこの絵本? レナは、本当にこれが大好きなんだね」
「うんっ! この絵本に出てくる聖女様ね、ママみたいに綺麗で頑張り屋で、大好きなんだ!」
「レナったら、そんなにママを褒めても、何もでないよ~」
「きゃ~っ! あはははっ!」
私は、ニコニコ笑いながら、彼女の頭をワシャワシャ撫でる。
――そう。この子は、私とレオン様の間に授かった、娘のレナ。私の血を強く受け継いだのか、聖女の才能を持っている、明るくて元気な女の子だ。
今年で、五歳になるのだけど……もう可愛くて可愛くて! 聖女の才能もばっちりだし……私の自慢の娘なの!
「失礼します、セシリア様。間もなくお食事の準備が整います」
「ええ、わかったわ! レナ、一緒にパパ達を呼ぼっか!」
「うんっ!」
レナと手を繋いでバルコニーに出た私は、中庭で木刀を振って組み手をしている人達に、大きな声で呼びかけた。
「おーい、レオン様ー! レオー! ごはんだから戻ってきてー!」
「早くしないと、私とママで全部食べちゃうよー!!」
私達の声を聞いたレオン様と、小さな男の子は、組手をやめてこちらを向いた。
「ああ、わかった。レオ、今日の鍛錬はここまでだ」
「はい。本日もお忙しい中、ありがとうございました」
「礼は不要だ。それにしても……お前は本当に学習が早いな。さすがは俺の息子だ。俺もうかうかはしていられなさそうだ」
「そんな、僕の剣など、まだまだ父上の足元にも及びません。いつかあなたの大きな背中を追い越し、民を守れる騎士となるまで、日々精進を続けます」
「ああ、期待しているぞ」
レオン様は、男の子の頭に静かに手を乗せると、そのまま優しく撫でた。
あの子は、私の息子のレオ。レナとは双子だ。彼はレオン様の血を強く継いでいるのか、とても剣の才能があって、冷静沈着な男の子だ。
まだ五歳なのに、剣の腕もさることながら、しっかりしていると思わない!? えへへ、私の自慢の息子なんだよ!
「二人を待たせるわけにもいかない。レオ、俺の背に乗れ」
レオン様は、レオのことをおんぶすると、なんと私達のいる部屋まで、軽々とジャンプして戻ってきた。
「魔力を足に溜めて、一瞬で放出することで、今の跳躍力を生んでいるのか……! なるほど、勉強になる……!」
「レオはいつでも真面目ね!」
「ありがとうございます、母上。どんな時でも学べることはあると、ユリウス大叔父様から教えられておりますので」
ユリウス様、そんなことを教えていたんだね。いつも、気だるげな感じだけど、根はとても真面目な人だから、当然だよね。
「ママ、私は?」
「あなたも真面目でおりこうさんだよ!」
「やった~!」
愛らしい子供達の姿にキュンキュンしていると、家族の部屋に料理が並べられた。
今日も、とってもおいしそう。匂いを嗅いでいるだけで、お腹が鳴ってしまいそうだ。
「さあ二人共。手を洗って、席につくんだ」
「はーい!」
各々が準備を終わらせて席につき、揃って手を合わせてから、食事を始める。
私達のルールとして、家族だけの時は、堅苦しい礼儀作法は一切気にせず、のびのびするようにしている。
それもあってか、自由に好きなものを食べる子供達を見ていると、自然と食べる手が止まり、その姿を見続けてしまう。
……昔は、ずっとお腹がすいて仕方がなくて、食べ物があったら、食べたい! って思ってたのに。なんだか不思議な気分だ。
「そんなに慌てなくても、ごはんは逃げないよ」
「だって、おいしいんだもん! あっ、レオ! お野菜も、ちゃんと食べないといけないんだよ!」
「野菜よりも、肉を食べて体を作っているだけだ。決して、野菜が嫌だから食べていないわけではない」
「レオ。野菜も体作りには欠かせないものだ。これも鍛錬と思って食べるといい」
「……うっ……わ、わかりました……に、苦い……」
レオン様に促されて、渋々ピーマンを口にしたレオの表情は、一気にシワシワになった。
ふふっ、レオン様に似ているとはいえ、こういうところは、まだまだ子供だね。ああもうっ、可愛くて食べちゃいたくなるよ。
「レオはとっても偉いね! あなたは、必ずパパみたいな凄い騎士になれるよ!」
「本当ですか? 母上にそう言っていただけるとは……明日からの鍛錬にも、精が出ます」
「ねえねえ! 私は!?」
「レナも、私やユリアーナおばあちゃんと一緒に頑張ってるから、素敵な聖女になれるよ!」
身を乗り出して問いかけるレナにも、笑顔で答えてあげると、レナはまん丸な目をキラキラと輝かせた。
「ほんと!? あのね、あのね! 私、大きくなったら、ママとユリアーナおばあちゃんと一緒に、この国やみんなを守りたいの! そうすれば、みんな幸せ……だよねっ!」
「ん~! 私のレナはおりこうさんだね~! ギューしてあげるね!」
「やったー! ギュー!」
「母上、レナ。食事中ですので、少し静かに」
「えー? ほら、レオも一緒にギューしてもらおうよー!」
「僕は、してもらう理由は……」
「理由……理由か。なら、俺達のもとに天からやって来てくれた。それが理由だ」
「父上……」
「レオ。ほら、おいで」
レオは、少しためらいながらも、私の所に来てピッタリとくっついてきた。
とても賢い子なのだけど、こうしている時の嬉しそうな顔は、まだまだ子供で……とても愛おしい。
「ほら、あなたもこっちに来て」
「俺もか? いや、俺が行ったらさすがに狭いだろう」
「狭くて結構! 沢山ギューって出来て、お得だね!」
「パパ! 早く来てよ~!」
「その……父上、僕も……」
「……皆にそんな顔をされたら、断れないな」
レオン様は、どことなく嬉しそうに微笑みながら、その大きな体で私達を包み込んでくれた。
「きゃーっ! パパ、おっきい~!」
「レナ、そんなに暴れたら、埃がたってしまうじゃないか」
「レオの言う通りだよ、レナ」
「だって、嬉しいんだもん!」
「なんだって~? よーし、大人しく出来ない子は~……こちょこちょ~!」
「あははっ!!」
「くっ……は、母上……なんで僕まで……あは、あはははっ!」
「お前ら、こんな狭いところで暴れたら……!」
レオン様の警告も虚しく、私達は暴れる子供二人に巻き込まれて、仲良くその場に倒れてしまった。
だというのに、子供達は今も楽しそうに笑っていて……私とレオン様も、つられて笑っていた。
「ああ、おかしい! 笑いすぎて、お腹痛くなってきちゃった!」
「ああ、まったくだ。それにしても……とても楽しそうだな、セシリア」
「うんっ! だって、私は――」
――この温かな日々を、これからもずっと、四人一緒に、大切に守っていこう。
そう心に誓いながら、私は家族の笑顔を見つめると、満面の笑顔で答える。
「世界で、一番幸せだからねっ!」
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