Episode.02 島
暑い。背中が痛い。足が冷たい。顔がヒリヒリと痛む。
―目が覚める。
「ここは…」
辺りを見渡す。
小さな砂浜。前を見れば広大な海。後ろを見れば木々が青々と茂る森。空を見れば雲一つとない快晴。
どうやら俺はどこかの島に流れ着いたらしい。流れ着いてから時間が経っているのか、服は乾いている。ただ、ここがどこなのかも、どうやって辿り着いたのかも記憶にない。船も見当たらないので流れ着いたことだけは確かだ。
船はどうなった?転覆したのか?俺だけがこの島に流されたのか?
数え切れないほどの疑問が脳内にふつふつと湧いてくるが、ただぼうっと考えているだけでは何も解決しない。
「とりあえず、他に誰か流れ着いていないか探してみよう。」
声に出すと、少しだけ状況が整理されたような気がした。
森が近い小さな砂浜を歩いていく。浜にも海にも塵一つ見当たらない。人の手が入っていない証拠だ。
しばらく歩いたが、他の船員を見つけることもなく、五時間ほど歩いて一周して元の浜に戻ってきてしまった。
収穫が何一つなかったというわけではなく、食べられそうな木の実や草、何かに使えそうな蔓を持ち帰ってきた。そして、木々の隙間に見えた山から、ここが火山島であることなどもわかった。
流れ着いたのは俺だけで、船の欠片も見つからないとなると、船が転覆したのではなく俺だけが投げ出された?
思考が巡る。
一度その思考に陥ってしまうと、なぜだかそんな気がしてきた。
思い出せ、最後の瞬間を。ジャックが見張り台から落下して―それから――
頭でも打ったのだろうか、記憶が曖昧だ。ジャックを助けようとしたのは覚えているが、その先は思い出せない。
俺だけが船から落ちたと推測すると、みんなは無事で俺だけ行方不明?
船長不在の状況で、安全な場所に辿り着けたのだろうか。船に積まれていた食料も無限ではない。が、出港したばかりだったので、近くの島に辿り着けるくらいには余裕があるはずだ。
一先ず、他人を心配する状況ではないことは確かだな。
途端に現実が見えてくる。
もしかすると、救出は来ず一生をこの島で過ごすことになるかもしれない。そんな未来を尻目に見ながら他人の心配をする余裕なんてないというのは誰でもわかる。
「島の外周を把握するのに五時間も食っちまったからな」
とりあえず、今日の寝床と食料の確保だな。
食料は先程見つけたの木の実で十分足りるだろう。次に寝床だ。
この島に凶悪な魔獣が潜んでいる可能性は大いにある。そんな島で夜を過ごすのだから、最低限の安全確保は必須事項である。まさか森に入らず生きていけるとは思っていない。
そういうわけで、ずんずんと草をかき分け森に入っていく。
―魔獣がいたら即撤退。魔獣がいたら即撤退。
森の中は案外陽の光が届いていて、木々の間隔も適度で進むのに苦労はしない。すいすいと進んでいくうちに、泉を見つけた。
「―水だ。」
生きる上で必要不可欠な液体を見つけても油断は欠かさない。油断をして痛い目を見たような気がするからだ。
周囲を確認した上で、泉に近づきしゃがみ込む。
「飲めそう、だな。」
水の魔術でも使えれば、わざわざそこら辺にある水を利用するまでもないのだが、あいにくラインが学校で専攻していたのは火魔術だ。
顔を近づけて両手でその液体を掬って顔に浴びる。
「―ぷはっ。」
久しぶりの水分に、身体が驚いているのを感じる。
「あとはこれをどう持ち帰るか、だな。」
その身ひとつで海に投げ出されたラインが水を入れる容器などを持ち合わせているわけもなく、しばらく思案する。
「そういえば、さっき拾った木の実の中に中身をくり抜けば液体を入れられそうなのがあったな」
急いで砂浜に放置された実を手に取って戻るライン。
「――これで良し」
瓢箪のような実に水をいっぱいまで詰めて、ラインは再び歩き出す。
しばらく歩いて、森の中に小高い丘を見つけた。
「ここなら海も近くて見渡せるし、木も少なくて拠点にするには丁度いいな」
今見つけた丘を住処にしようと足元の草を払っていると、草も生えない岩場に洞穴を見つけた。
「これだ!」
雨もかからず、日差しも遮られる完璧な立地を見つけたラインは一目散にその洞穴に入っていく。
「先客がいなければここにしよう」と独り言を唱えながら暗闇を松明片手に進んでいく。初歩的な火魔術が使えるので灯の心配をする必要がないのは楽だ。
十メートルばかり進んだところで行き止まりだったが、そこで不思議な球体を見つけた。
蒼白くか細い光を放つ球体は、地面の岩が少し高く台のようになっている場所にぽつりと置かれていた。
手に持ってみると、ずっしりとしていて硬く、そして冷たい。片手で持てるほどの大きさだが、どこか荘厳な雰囲気を纏った球だ。
持ち帰って明るい所で見ようと、出口に向かって歩き出すが、洞穴の中は湿気が高く足を滑らせてしまう。
右手に球、左手に松明を持った状態では受け身を取ることもできず―
咄嗟に右手を球から離し、床に突いてしまった。
蒼白い光を放つそれは洞窟の地面に触れると、こつんと音を立てていとも容易く割れてしまった。
その瞬間、凄まじい光が目を塞いだ。「ごうっ」という音が轟き思わず手で耳を塞ぐ。
「収まった」と思い目を開くと、落としたはずの球がなくなっていた。
代わりにそこにいたのは、洞窟の天井まで達しそうな巨躯を持ち、背中に翼を生やした全身真っ黒の化け物であった。
「ヨウ、ニンゲン。封印ヲ解イテクレテアリガトナ。」
「礼ニオマエノ望ミヲ叶エテヤロウ」
「―は?」
多忙につき更新できず申し訳ありません。
12月中旬頃から再開予定です。




