表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十九章 意味を持つようになった鍛錬
196/203

第196話 事件がもたらした良い影響

 その日、誠は殺気を感じて目覚めた。時計は5時45分を指している。まだ起きるのには早い。事実、寮のほかの部屋には動きのようなものは感じられなかった。


「眠れないか……」 


 一月半ばの寒気が全身を覆いつくしたのでそのまま誠は起き上がった。そしてそのまま部屋の端の棚に目を向けた。


「明後日だったよな」 


 その棚にはびっしりとアニメのヒロインのフィギュアが並んでいた。半分は誠が作ったものだったが入隊してからは作るのを止めていた。道具を実家に置いてあったという事情もある。軍の養成所の二人部屋では有機溶剤を溶かすなどと言うことはルームメイトに喧嘩を売るようなものだった。司法局実働部隊の下士官寮に移ってからはアメリア達に何度も作るように催促された。それでもどうも気分が乗らずに今日まで手を出さすにいた。


「そろそろ作ろうかな……」


 誠は並んだフィギュアを見てそう考えた。昨日も見たかえでの無修正動画を見てインスピレーションが沸いているのも事実だった。 


「何を作るんだ?」


 突然の声に誠は飛び上がって驚いた。 


「うわ!」 


 背中からの女性の声に誠は棚に倒れそうになるのを上手くかわしてそのまま畳に転がった。


「西園寺さん!直ったんですか?」


 扉の所に立っていたのは何時にも変わらないかなめだった。 


「おうよ、修理完了だ……それにしても気持ち悪りいなあ。人形見つめてニヤニヤ笑いやがって」 


 かなめは部屋にずかずかと入り込むと人形をまじまじと眺めた。


「良いじゃないですか!それより何で今の時間に?」 


 そう言う誠だがすでにジャージに着替えてかなめの背中の後ろに立つカウラとアメリアの落ち込んだ表情でなんとなく予想がついた。


「ランニングにでもするんですか?」 


 誠はかなめにそれとなく尋ねてみた。


「そう言う事だ。豊川署にいる間はしてないだろ?たるんできてもうそろそろ自主的にやろうと言う気になるだろ?」 


 タレ目の端をさらにたらしてにやけるかなめ。誠は大きくため息をついた。


「ごめんね誠ちゃん。止められなくて。かなめちゃんは言い出したら聞かないから。自分は走らないのに」


 アメリアは不満たらたらと言う表情で誠にそう言った。 


「アメリアさんいいですよ。着替えますから」 


 誠は昨日カメラの前で平然と全裸になって秘部を晒して見せたかえでの影響で平然とそう言ってパジャマを脱ぎだした。


「え?」 


 聞こえない振りのアメリアにため息をつきながら誠は箪笥をあけてジャージを取り出した。


「じゃあ食堂で」 


 そう言うとかなめは居座る気が満々のアメリアを引っ張って部屋の外に消えた。


「なんだかなあ……」 


 冬の寒さに誠は震えながら着替えた。そして先日の事件を思い出しながら着替えをした。


 水島徹による連続違法法術発動事件は複雑な様相を呈し始めていた。東都でも地球伝統保守派系の野党が国民全員の法術適正検査の義務化の法案を提出していた。与党がその法案の対案として提出したものにも年齢制限などの緩和策が盛り込まれているものの義務化と言う方向性ではどちらの法案も似たり寄ったたりの内容だった。


 法術師の脅威を叫ぶマスコミが連日ワイドショーに集まっては司会者を苦笑させるような暴言を吐き続け、法術適正者の氏名発表を望む意見がネットを駆け巡っていた。遺伝子検査で地球人以外のDNAが検出された人間の排斥を訴えた甲武国の貴族主義系月刊誌が同盟憲章に違反する行為だとして廃刊になるなど騒ぎはとどまるところを知らなかった。


 ただ朝の誠にはとりあえず着替えを済ませることの方がそんな世の中の流れより重要なことだった。いつもの事ながら大通りから遠い住宅街の中の下士官寮の冬の朝は静かだった。着替えを済ませて顔を洗って階段を下りる。世の中がどう動こうがその動作が変わることは無かった。


 なぜか食堂には多数の人の気配があった。皆暗鬱な表情でジャージを着て雑談を続けている。


「西園寺さん……なんで俺達まで」 


 入り口で島田がジャージ姿で突っ立っている。隣の菰田も面倒くさそうにあくびをこらえていた。


「鍛え方が足りねえから鍛えてやろうってんだ。感謝しろよ」 


 かなめは二人を眺めながら食堂の椅子にどっかりと腰を下ろしていた。厨房の中を見れば食事当番と言うことで難を逃れた肥満体型の大野とその仲間達がちらちら島田達に哀れみの視線を投げながら料理の真っ最中だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ