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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十八章 誠は『漢』になったのか?
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第194話 剣を呼んだ誠

「これ……僕が呼んだんですよね?」


 誠は目の前に置かれた古風な剣に眼をやった。 


「呼んだのか?まあ……そうかもしれないな」 


 カウラは微笑みながら誠にそうささやいた。


「それだけの力がお前さんにはあるんだよ。それと、かえで。野外プレイは止めてくれ。義父であり隊長として管理責任者でもある俺の責任問題になる」 


 そこに突然現れた長身の男が見えた。カウラが敬礼していることからそれが司法局実働部隊隊長嵯峨惟基特務大佐であることが分かった。


「隊長……」 


 誠はなんとか上半身を起こそうとした。


「いいよ寝ておけ。まあ……お前さんが仕留めた義体だが……元アメリカ軍の兵隊さんだそうな。千要県警が証拠物品として手を出そうとするのを米帝の武官が来て外交官特権で持って行きやがった……まあちんけな悪党一人のために外交問題を引き起こしても損なだけだから俺も黙っていたけどさ」 


 嵯峨は皮肉たっぷりにそう言うとくわえているタバコを手に取った。


「元?」 


 嵯峨の言葉に誠は不思議そうに首をひねった。


「どう見ても最新鋭の義体ですよ。元というのは……個人でどうこうできる代物じゃ……」 


 誠には言いたいことが山ほどあった。それでも口下手な誠には口にすることは出来なかった。


「カウラも脇が見えてきてるじゃねえか。偽装だな。まあ突っ込んで調べてみるのもできなくは無いが……どうせ二等書記官クラスが左遷されて終わり程度の話にしかならんだろう。俺は動くのもばかばかしいから豊川署の署長には俺がそう言ってたと言うのを上に伝えておいてくれと言ったがね」 


 そう言って嵯峨は力なく笑った。誠はそんな自分の無力さを部下に吐露する嵯峨を初めて見た。カウラも、コーヒーに口を付けているアメリアもその表情は冴えない。ただ、かえでとリンは二人で誠の顔を穴が開くほどじっと見つめていた。


「そんなにがっかりするなよ。確かに状況証拠はどう見ても水島を囲ってたのは米軍だって事を示している。すでにべらべら自供を始めている水島もアメリカ連絡事務所の関係者の餓鬼から勧誘を受けていたとか訳の分からないこと抜かしてやがる。だがね。こちらとしても公にそのことを言うわけには行かない事情がある。ベルルカンの失敗国家で同盟成立以来三件、これから予定されているだけでも二件の選挙が行なわれる。失敗国家の選挙管理なんて言うのはどこでも非常にデリケートな問題だ。民間、政府機関のどちらにおいてもアメリカさんのお手を煩わせているのも事実だし、もしアメリカがその選挙を遼州同盟が仕組んだ茶番だと騒ぎ始めれば一気に地球と遼州の関係は前の大戦の直前並みに悪化することも考えられる。外交問題にして得することは俺達には何も無いんだ」 


 それだけ言うと嵯峨はそのまま病院の建物へと歩き出した。誠はベッドに横たわりながら両の手を握りしめていた。目を向ければカウラも顔に出さないが嵯峨の言い方にはかなり腹を立てているように見えた。


「気持ちは分かるけど現実はそういう事。今回はかなめちゃんは正体不明のテロリストに蜂の巣にされたと言うことで終りよ。それ以上は考えても無駄だし、考えない方がましだわね」 


 誠にはアメリアの言葉が冷たく感じられた。ただし嵯峨の言うとおりこの惑星遼州の南方に浮かぶベルルカン大陸の混乱収拾が同盟には不可欠な政治上の問題であることは誠にもよく分かった。ただ分かるがあれほどにかなめを痛めつけた相手を正体不明の死体一つを残して解決しようとする嵯峨の言葉には納得できないでいた。


「お前もこの決着には不満なのか?少なくとも私は不満だ」 


 突然頭の後ろから声をかけられてびくりと誠は振り返った。


「カウラさん……驚かせないでくださいよ」 


 気の小さい誠はカウラの声に驚いてそう言った。


「驚かせたつもりは無いがな。とりあえず体を休めつつ腹の中で怒っておけ。それと西園寺だがすでに義体の予備があったそうだから再調整を二日くらいすれば原隊復帰ができるそうだ……アイツのことだまた机の二つや三つぶち壊すだろうが今回は私もつきあいで始末書でも書くつもりで壊すかな」 


 カウラは自嘲気味にそう言うとコーヒーを口に運んだ。


「カウラちゃんまで馬鹿言わないでよ。それにしてもあの馬鹿みたいに高い義体に予備?さすがお姫様は違うわね」 


 アメリアがからかうように叫ぶ。もしこの場にかなめがいれば蹴りの二三発は飛んでいたと想像して誠が笑い始めたときだった。



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