第183話 混乱した状況の確認
「西園寺さん!」
誠の言葉に階段を登ろうとしていたかなめが振り返った。
「法術反応です。しかもこれまでのものとは違います!これまでの誰とも違う感じです。もしかして……」
第三勢力の登場。これは予期されていたとはいえあまりに突然だった。
「ここに来て急にか。これは動いたようだな……おそらく水島をここに飛ばした誰かだ」
カウラはそう言うととりあえず三階に向かう階段の踊り場で銃を手に上の階を警戒しているかなめの隣でしゃがみこんだ。
「第三勢力か?でももしあのダンビラで切りつけてくるような連中が増えたらどうするよ」
タレ目でかなめは上官を見つめた。カウラはしばらく沈黙した後口を開いた。
「その場合は一時撤収だな。私達の戦力ではどうにもできない」
カウラの言葉に遅れてきたアメリアもうなずいた。
「でも……」
誠にはたとえ犯罪者とは言え一般市民の水島を放置しておくことには抵抗があった。
「神前。仕方ねえだろうが。オメエは数に入れてねえからな。オメエがかえで並みの使い手ならなんとかなったが……今はどうすることもできねえや」
失った右腕の跡をさすりながらかなめが天井を向いてつぶやいた。
「西園寺さん……」
半分泣きながらの誠の言葉が残った。しかしそれは紛れもない事実だった。法術が使える以外はかなめ達に比べれば素人に毛が生えたような存在なのは自分が一番自覚していた。女性士官三人ははじめからそれが当たり前だと言うように、少しばかりセンチメンタルな表情を浮かべている誠の存在を忘れようしつつ上の階を警戒していた。
「第三勢力だとしたら……戦力が気になるわね……場合によっては撤収はやむを得ないとして、それは最後の選択よ」
アメリアは誠に同調してまだ戦う気でいた。
「今のアタシ等でどうにかなる相手なら……ちょうど良い転換点だ。北川達はこのままじゃ挟み撃ちだからな。油断ができれば後は双方が損耗するのを待って騒動から逃げたがってる水島を引き離してそのまま捕縛といけるな」
かなめはそれだけ言うとそのまま階段を登り始めた。
「そう上手く行けばいいけどね。いっそのこと神様にでも祈ろうかしら」
アメリアが誠の背中を叩く。それに気がついて誠もカウラとともにかなめのあとに続いた。
フロアーが広がるとかなめは動きを止めた。静かに周りを見渡す。すでに夜と言っていい時間帯である。明かりの無い廃墟では目は赤外線センサーを瞳に仕込んでいるサイボーグのかなめだけが頼りだった。
「気配がしねえ。赤外線反応なし。北川の奴は上に向かったか」
そう言いながらかなめは壁伝いに三階にたどり着いた。それを確認するとカウラと誠もその後に続いた。
「北川さんの拳銃は脅威にならないとしてももう一人の例の辻斬り。相手にするにはきついわよ」
アメリアの言葉にかなめはうなずいた後そのまま四階に上がる階段に取り付いた。
「きつくても仕方がない。これ以上事態が良くなることは考えにくいからな。日野少佐の第二小隊が駐屯地から出たとしてもここまではどう急いでもあと10分はかかる。かえでも空間跳躍は使えるが、戦力不明のこの地に跳んでくるほど日野少佐もものを知らないわけではない。それまでに結果は出るだろう」
カウラはそう言うと拳銃を握りしめた。
「おう、それまでに決めるぞ」
カウラの言葉に振り向いてにやりと微笑んだ後かなめは飛ぶようにして階段を駆け上がって行った。




