表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 低殺傷兵器  作者: 橋本 直
第四十三章 後悔してもすべては……
178/203

第178話 一方的な条件提示

「確かに……それは事実だけど……不可抗力と言うか……」


 水島には未だに犯罪者の自覚が欠けていた。自分は被害者だと思い込みたかった。 


『不可抗力?おじさんはストレス解消に放火や器物破損を繰り返してきた犯罪者なんだよ。それをすべて帳消しにしてあげるんだから……それなりに待遇が悪くなるのも我慢しなきゃ。それ以上におじさんは人殺しなんだ。そのくらいのリスクは生き残るには必要なことなんじゃないかな?』 


 クリタ少年の言葉はその通りだった。それだけに水島は苦悩の表情を浮かべたまま錆の浮いた事務机の脚にしがみつく手に力を込めることくらいしかできなかった。


「分かった!なんでもする!だから助けてくれ!」 


 いつの間にか自分が叫んでいることに気づいて水島は口を押さえた。


 確かな気配がした。それも水島の力では進入を拒む意識を持った独特の気配だった。一瞬だったとは言え忘れることなど無い。先ほどの斬殺魔の気配であることは間違いなかった。


『それじゃあ……すぐ迎えに行くと言いたいんだけど……』 


 危機が迫っていることは分かっていた。その上でさらに水島を怯えさせて喜んでいるような調子のクリタ少年の声が響いた。


「なんだ?何かあるのか?」 


 すぐに少年があの展開した銀色の板の向こうから現れると水島は信じていた。しかしそのような現象は起きなかった。


『おじさんも分かってるでしょ?日本刀を持っている男、それにもう一人そいつをサポートしている法術師の存在。そしてさっき第三勢力が到着した……勘が良いみたいだから千要県警じゃなくて司法局実働部隊かな?ともかく僕達は表に出るわけには行かないんだよ……法術師は合衆国にとっては最後の切り札だ。タイミングを計らないとね』 


 クリタの言葉に水島は体が熱くなるのを感じていた。この騒動のすべての源。水島が法術適正があると言う事実がわかるきっかけを作った組織である司法局。どこまでも自分の運命を振り回すその忌まわしい組織の名前を聞いて自然と奥歯を噛みしめている。


『そんなに熱くならないでよ。こういう時は冷静に動くのが事態を打開するコツだよ。それに衛星軌道からの映像では司法局の連中はショットガンで武装しているみたいだね。場合によっては即座に射殺なんてこともあるかも……』


 少年の笑顔を想像すると水島の腸は煮えたぎる思いだった。 


「射殺……?」 


 水島は思わず絶句した。憎たらしい司法局実働部隊が動いている。しかもその目的の一つは自分を射殺すること。そう言われて水島の体の緊張はさらに激しくなった。


『脅しなどはするものじゃないわよ。私達の手元の情報では彼等は確かに同盟司法局実働部隊の隊員ですが、現在は千要県警に出向の身分です。東和の警察はそう簡単に犯人の射殺を行なう組織ではありませんわ。警察官に保護されてそれを私達が合法的に引き取ると言うやり方も……』 


 キャシーの冷静な判断が逆に水島を苦しめた。


「止めてくれ!警察なんか……警察なんか……それ以前に司法局なんかに……」 


 立ち上がるとそのまま薄暗い部屋を飛び出した。水島はその行動の意味を自分でもよく分からなかった。動けば殺される。そんな思いで扉の中に隠れていた自分。だが動き出したい衝動に駆られるとその本能のままに立ち上がり走り出していた。


『おいおい、おじさん大丈夫なのかな?』 


 楽しんでいるようなクリタ少年の声が頭の中で響いた。だが水島はそのまま腐った鉄筋がむき出しの廊下の壁に沿って走り出す以外のことはできなかった。


「死んでたまるか……死んでたまるか……」 


 そうつぶやきながら階段を駆け下りたところで背後に気配を感じて水島は振り返った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ