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第175話 廃病院の不気味さ

「豊川市の奥にこんなところがあるんですね……って!」 


 薄暗い廃病院を見回す誠の後頭部をかなめが小突いた。


「ごちゃごちゃ言うんじゃねえよ!とっとと下りろ」 


 かなめに蹴飛ばされて誠は何とかカウラの『スカイラインGTR』の狭い後部座席から転がるようにして廃病院の中庭に出た。


「なんでも……菱川重工の併設病院ができたおかげで経営が行き詰まってこうなったらしいわね……って走るわよ」 


 いつものようにどこから仕入れたか怪しい言葉を吐きながらアメリアが銃を持って走り出すのに誠達も続いた。割れた正面玄関の扉はガラスもほとんどが砕け、それを固定していた針金も朽ち果てていた。


「本当にお化けが出てきそうよね……かなめちゃん、平気?」 


 アメリアはギャグのつもりか一番幽霊などを信じそうにないかなめにそう言った。


「何でアタシに振るんだ?」 


 かなめは心底不思議そうな顔をしてアメリアに問いかけた。


「こういうときかなめちゃんみたいなキャラがお化けが苦手でお荷物になると面白いかなーとか思ったんだけど」 


 アメリアはかなめが幽霊部屋に住んでいる事実を無視してそんなことを言った。


「アニメの中じゃねえんだよ。アタシはお化けよりよっぽど生きている人間の方が恐ええよ」 


 そう言うとかなめが先頭を切って割れたガラスに気をつけながら病院の中に入った。


「こりゃあ……見事な廃墟だ」 


 かなめの言葉も当然だった。壁は落書きに覆われ、あちこちに雑誌や空き缶が転がっている。足元を見れば焚き火をした後らしき焦げた跡まであった。


「間違えて悪戯しにきた餓鬼を殺さないようにするには一番の得物だな……」 


 かなめは自虐的に笑って手にした銃を眺めた。誠も自分達の持っている銃に入っている弾が殺傷能力の低い弾丸を使用したものだと言うことを思い出した。


「とりあえず分かれたら危険だ。西園寺がポイントマン。クラウゼが後衛を頼む」 


 冷静にカウラはそう指示を出した。


「だろうな……」 


 かなめは当然というように先行していった。


「了解っと!」 


 かなめが銃を構えてそのまま誠達を先導するべく走り出す。誠とカウラはそれに続いた。


 一階のかつては診察室だったらしい部屋の並ぶ廊下でかなめが足を止めた。そのまま一つ目のドアを指差し突入するべきかとカウラにハンドサインを送った。


 カウラはうなずいた。それを見たかなめはそのまま半分朽ちた扉を蹴破って中に入った。


「なにやってるのよ!音がしてバレたら意味無いじゃないの!」 


 背後を警戒していたアメリアがかなめがたてた大音響に抗議の言葉を発した。


「でけえ声出すんじゃねえよ!バレて上等!今時日本刀なんかで武装しているバカには鉛弾ぶち込んでそれでしまいだ!」 


「先に扉を蹴破って大きな音を立てたのはかなめちゃんでしょ!それに人斬りもこれまでの連続女性強姦殺人事件の容疑者として逮捕しなきゃならないんだからハチの巣にしちゃだめよ!」 


 何も無い診察室の中に飛び込むとアメリアとかなめはすぐさま喧嘩を始めた。カウラはこめかみに手を当てながらいつものように呆れて二人が口を閉じるのを待った。


「結構広いから大丈夫なんじゃないですか?」 


 誠はフォローのつもりでそんなことを言ってみた。


『そんなわけ無いでしょ!』 


 アメリアとかなめがせっかく仲裁に入った誠を怒鳴りつけた。落ち込む誠の肩を叩きながらカウラは部屋から外を眺めた。


「全く……一人の方が向いてるぜ、アタシには」 


 そう言うとかなめはカウラを押しのけて周りを見回した。彼女の目は闇夜には向いていた。眼球にはスターライトスコープが仕込まれていて、もうすでに太陽が沈んで暗がりばかりになった廃病院の何も無い光景を見通すことができた。


「ラッキーだな。誰もいねえよ」 


 そう言うとショットガンを構えながらかなめは走り出した。誠達もその後に続いた。物音は誠達の走る靴の音ばかり。ただひんやりとした空気を頬に感じながら誠は走った。


 かなめが階段の手前で立ち止まると中腰で手で後続のカウラ達に止まるようにサインを出した。


「誰か……」 


 確認をしようと口を開いた誠の口元にかなめが指を差し出して制止する。そして指で上の階を指すと一人の人物がそこにいると言うハンドサインを出した。


 誠は銃を握り締めた。その不安そうな様子にニヤリと笑みを浮かべた後、かなめは静かに階段を登りはじめた。


 誠にもしばらくして気配が感じられた。何かを探していると言うような雰囲気が頭の中を駆け巡った。



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