第167話 外交官特権
「とりあえず僕のボスに話をつけてくるから。安心して待っていてくれても良いよ。それと県警や司法局が来たら抵抗しないでそのまま捕縛されても構わないんだ」
クリタ少年は笑いながらそう言った。
「逮捕されろと?本当に大丈夫なんだね?」
弱みを握られたような表情で水島は干渉空間に消えようとするクリタに声をかける。
「なに、外交官特権でどうにでもできるからさ。数日くさい飯を食べていれば自由の身さ。合衆国は協力的な人物を裏切るような真似はしないよ」
水島にも国交のないアメリカがこの国にどんな圧力をかけるかの想像はついた。
「自由……?ふざけたことを。実験動物の間違いだろ?」
つい本音を水島がこぼしたのを見ると黒髪の少女が初めて見るような素敵な笑みを浮かべた。
「じゃあね」
クリタ少年の言葉とともに干渉空間は消滅して何も無い部屋に戻った。
「食べる為なら何でもするさ。この国が僕を必要としていないなら僕を必要とする悪魔にでも魂を売ってやるよ」
水島は思わずそうつぶやいていた。そしてそのまま自分の注いだままで冷めている茶をゆっくりと飲み干して立ち上がると手にして行政訴訟の判例集のノートを思い切りよく引き裂いた。