第162話 広がる『廃帝』のネットワーク
「それにしてもこの凡庸な男……水島徹……聞いたことが無いな」
そう言うと桐野は関心を失ったように庭の石灯篭に視線を移した。
「旦那。それは冗談で言っているんですよね?俺だってこの東和の法術師の顔を全員知ってる訳でもないのに」
投げやりな言葉にすぐに桐野の虚ろな視線が北川に注がれた。肝を冷やすとはこのことか、北川は桐野の手が鞘に納まった剣から離れているのを確認して大きく息を飲んだ。
「どういう了見で暴れてるのか分かりませんからね。だからすぐに斬りかかるのだけは勘弁してくださいよ。この能力は俺達の仲間にもいない能力ですから。戦力にしたいのは山々なんですからね」
北川は冷や汗を流しながらその殺人狂に声をかけた。
「保障はできないな。相手がこちらの能力を奪って来るならこちらもそれなりに覚悟はするつもりだ」
桐野はそう言うと再び剣を抜いた。突然の動きに驚く北川をあざ笑いながら桐野はすばやく剣を鞘に戻した。
「珍しい力です。廃帝陛下も大層関心を持っていらっしゃる。できれば生きたまま捕まえたいですから。斬るのは最後の手段にしてくださいよ。今はうちは戦力増強が最大の目標。斬るんなら役に立たない女でも斬って好きなように犯してください」
そう言うと北川は立ち上がった。
『この人殺しは……そのうち俺のケツにも火がつくかも知れねえな。フランス行きが決まってるんだ。あっちじゃ良い女が俺の子供が欲しいって待ち構えてるんだぞ……面倒は御免だよ』
心の中でそう思った北川はそのまま暖房の効いた部屋へと戻っていった。
「別に理想があるわけじゃないんだよ俺は。人が斬りたいんだ……斬った女を犯すのは格別だ」
独り言のようにつぶやいた桐野はそのままうっとりとした目で自分の業物をまじまじと眺めていた。